トライデントアタック
────満月と星が煌々と輝く中、四人の影が暗い草原を駆け抜けていた。
ぼんやりと照らされる草原からは、夜行性のモンスターの遠吠えや鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。
アキとクオン、カトレアと青龍はディザイアより東にある『躍然たる草原』を抜け、その先にある『絡み合う森』に入っていく。本来ならば夜に行くべきフィールドではない。しかし、作戦を遂行させるためやむを得なかった。
アキ達は進行方向を東へとりながら、北へ北へと走った。時折飛び出すモンスター達を無視し、木々の隙間を駆け抜ける。
────数時間前。
テンマの家屋には白虎を除く、精鋭隊の面々が集められていた。自由になったのも束の間であったため、カトレアも青龍もあまり良い顔はしなかった。
しかし、事情を説明すると渋々了承してくれた。運営の指定した期限まで時間があったことが理由である、とアキは安堵した。
「驚くことに信者のほとんどがログアウトする動きを見せていない。それどころか、街にいた強制加入させられたプレイヤー達も連れて行かれてしまった。
その理由は不明だが、誰かが捕らわれているプレイヤー達を解放しなければならないことはわかる。
よって作戦名『トライデントアタック』を実行する!」
テンマの作戦は極めて大胆なものだった。
「白虎とリベリィの報告によれば、モガミは月が昇った頃にディザイア北東にある『時雨の渓谷』へ戻っていく。モガミには護衛が複数付き、街には信者達が何人も常駐する。食糧購入の妨害や監視のためだな。
また『時雨の渓谷』にも信者達が常駐している可能性がある。
我々は二手に戦力を分散し、ディザイアに残る信者とモガミの両者を同時に潰す。手段は……個々人に任せるとしよう。これをすることで『時雨の渓谷』に残っている信者達への連絡する隙をなくし、そこにいるオルフェ達を危険に晒す可能性を抑えることができる」
カトレアが小さく挙手しつつ、身を乗り出した。
「それでは『時雨の渓谷』の人々は誰が救出するのかしら? モガミの到着が遅れれば、さすがに『時雨の渓谷』に常駐している信者達も異変に気がつくでしょう。この作戦は同時に三つの戦力を動かさなくてはならないわ」
「そうだな。モガミを追う班には救出の手伝いはしてもらう必要はあるだろうが、我々はあくまで二手だ」
カトレアが首をかしげると、テンマは得意げにニヤつきながら片腕をテーブルの上に乗せ、カトレアに顔を近づけた。
「この作戦には既に動いている者達がいる。精鋭隊の白虎。そして天馬騎士団ヴァルカン支部の支部長シンと騎士団員カグネだ。ヴァルカンの者達は、わざわざヴァルカンから現地へ直接応援に駆けつけてくれることになっている」
アキとクオンは懐かしい名前に「おおっ」と表情を明るくした。しかしカトレアと青龍は芳しくない。あまり良い気はしていないようだ。
「ふぅん。アビスに残ってた僕と朱雀からすれば、白虎以外は知らない人らだし、不安だなー」
「安心しろ、彼らの実力は私が保証する。それに白虎も付いている。私からすれば磐石の布陣のつもりだ」
「……ま、そこまで言うならお手並み拝見といくよ」
「よし。では班分けを行う!」
────モガミがディザイアを出て『時雨の渓谷』に向かったと報告を受けてから間も無くして、アキ達はそれを追っていた。
俺達がモガミを追う班、白虎とシンとカグネが『時雨の渓谷』に直接向かう班……。そこまでは納得できるけど、さすがにディザイアに常駐している信者をテンマとリベリィだけで叩くなんて、本当に出来るのか? 実力はあれど相手には数の利がある。
「はい発見〜」
青龍の気の抜けた声で、アキは考え事を中断させられた。前方を注視してみると『時雨の渓谷』へと続く『絡み合う森』の道にモガミとその護衛を発見した。静かな森の中ではアキ達の足音もすぐに察知され、一瞬のうちに信者達はモガミを囲んだ陣形になった。
アキ、クオン、カトレア、青龍の四人はモガミとその護衛に対峙した。
暗夜の森に静寂が流れ、目に見えない緊張の糸がピンと張りつめた。




