愚者の集い
────アキは唖然とし、クオンもどこか神妙な面持ちでフラメルの話に口を挟んだ。
「宗教団体と食糧危機、ですか?」
「ええ、教祖的立場のモガミという美しい女性が率いている宗教団体、名を『フールギャザリング』。先ほどの叫び声のようなものは、モガミの演説に興奮した信者の声です。」
「その宗教団体はこんなゲームの中で、何の神を信仰しているんです?」
「神でなくこの世界、エタニティオンライン自体を信仰しているとだけ表明しています。
しかし宗教団体というのは名ばかりで、ディザイア中のNPCのお店から食糧を買い占めて価格を高騰させ、そして食糧の買えなくなったプレイヤーに、団体への入会を条件に食糧を分け与えていたと聞きました」
突然、クオンが「はーいはーい」と場にそぐわない快活な声を上げながら挙手した。
「クオンさん、どうかされましたか?」
「その人達は、入会さえすれば結局みんなに食糧を与えてるんでしょ? 良い人達なんじゃないの?」
フラメルは答えかねているようで、首を捻りながら唸り始めた。
「んー、それがわからないんですよ。入会した方達は皆、ディザイアの北東にある『時雨の渓谷』へと頻繁に連れて行かれているようなのです。時々、街にも帰って来ているようなので、入会した方のお知り合いが問いただしてみたようなのですが、口止めされていたようで……。
街に残ったプレイヤー同士で探りを入れているんですけれど、正直な話、何をしているかも、目的が何なのかも、さっぱりわからない状況です」
仮面の奴らと状況こそ似ているけど、あいつらほど危険なわけではなさそうだな。入会した人々を街に帰している辺り、話せば分かり合えそうだ。
でも『時雨の渓谷』は上級ダンジョンだ。一体何をしてるんだろう。
「そういえばここに来る途中にNPCの魚屋の前を通ったけど、誰もいませんでしたよ? 見張りとかつけてないなら、値下がりした隙を狙えるんじゃ?」
「それはサダオさんが先日調べてきてくださいました。結果として、路地裏からプレイヤーが数人現れ、武器を突きつけ、買うことを断念させてきたそうです。なので今となってはこの街で食糧をまともに買うことすらできない状況です」
飢餓はペナルティタイムへ直結する。まだ俺達精鋭隊がディザイアを出発する前、フラメルさんやユウと食糧をかき集めようとしたのも、空腹状態が続いた際のHPの減少を心配したからだ。何も食べられずにHP減少が続き、そしてHPがなくなったその時、ペナルティタイムへと突入する。
食糧の独占によって、備蓄をしていなかったプレイヤー達はペナルティタイムに入りたくないがために、フールギャザリングへと入る。
問題はその先なんだ。『時雨の渓谷』で何をしているのか。エタニティオンラインの何に崇拝しているのか。モガミに会って、直接話を聞こう。そうでもしなくちゃキリがない。
もしこれからも多くの人を傷つけ、苦しめるようなら────容赦はしない。
「俺、モガミって奴に会ってきます。話を聞かないと始まりません」
椅子から立ち上がったアキの腕を、フラメルは両手で力強く掴んだ。
「アキさんもクオンさんも、もう戦わないで下さい。ここで運営がログアウトホールの安全を保証するまで、一緒に待ちましょう」
「アッキー、それも良いかもしれないね」
二人に見つめられたアキはフラメルの手を取り、自分の腕からゆっくりと離していく。
「ありがとうございます。それでも、もう決めたことです。きっと、ユウや他の人々を守ることのできなかった自分の為なんです。どうか行かせて下さい」
「アキさん……」
「何かあったらすぐ伺います。どうせしばらくはディザイアにいるつもりですから」
心配させまいとアキが穏やかに笑うと、フラメルは諦めたように苦笑いした。「あっそうだ」とアキは思い出したようにメニュー画面を開き、何やら操作を始めた。
腰に携えているアイテムチェストから、茶色い麻の袋が現れた。重みのあるものが入っているのか、底の部分が弧を描いている。
「これ、渡し忘れてたオータムストアとオータムセキュリティのお金です。一応、フラメルさんに預けておきますね」
「え、しかしもう籠城作戦は……」
「良いんです。きっと使う時が来ますから」
アキがカウンターに麻袋を乗せてから出口へ向かって歩き出すと、クオンが慌ただしく席を立ち、その後に続いた。フラメルはアキの背中から勇ましさと僅かな悲哀を感じ取った。




