表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エタニティオンライン  作者: 足立韋護
深淵
104/157

運営の諦観

────『これを見つけた者へ

 まずこの文書が、西倉修本人が記したものであるとここに宣言しておく。この文書を見つけた者がどういった人物かはわからないが、どこかの同僚や、どこかの後輩のような、物好きな人物が見つけたものとして話を進める。それ以外の場合、このデータは削除してもらって構わない。


 こちらの身勝手で事を引き起こしてしまい、申し訳ない。何年もかけ、皆の手でようやく作り上げたエタニティオンラインを潰してしまうような真似をしてしまい、本当にすまないと思っている。

 すべて、俺の身勝手だ。人間として欠落している俺達が引き起こしてしまったことだ。


 ここからは明日以降の話をしたいと思う。この事件によってエタニティオンラインは、恐らくサービスを中止せざるを得ない状況となる。いくら俺が全責任を背負おうとも限度があることくらいは理解しているつもりだ。

 以下に、俺の人脈を用いた就職先ではあるが、それらを残しておいた。エタニティオンラインを作り上げた優秀な人員が揃っていると話はつけてある』


 その文章の下には、二十社ほどの大企業の名前がずらりと並べられていた。


『再就職に時間はかからないとは思うが、万一のため、部署の仲間一人一人の家に俺の全財産を均等に分配し、配送しておいた。謝礼金だと思ってほしい。一年間は無理なく暮らせる程度の額だ。

 それに加えて、俺の独断と偏見ではあるが一人一人の優秀な点と見直すべき点、そしてこれから得ていくべき技術と知識等のアドバイスがそこに入っている。今後に活かしてほしい。

 さて、必要最低限のことは書き終えた。


 お前達から見て、西倉修はどう見えたのだろう。そこに人間性はあったか? 俺は、それがよくわからない。まるで自分が冷たい機械のようだ。そのように育てられたのだから仕方ないのかもしれない。


 ある時俺は、自分が生まれて初めて人間であると思える機会に巡り合えた。生まれて初めて感動した。今俺のしでかしているこの事件は、自分が人間である可能性を確信に変えたいがために起こしたものだ。

 だが、迷いもある。この事件を平然と起こしている時点で、俺はまともではないのかもしれない。この世界にとっての悪なのかもしれない。


 そこで、俺を捕まえる義務のある者達へ伝えてほしい。

 俺は現実世界で残り三日生きている。三日経過するまでに見つけられたなら全てを諦めよう。だがもしそれまでに探し出せなければ、向こうの世界に残っているプレイヤーを全員力ずくで追い出すか、もしくは全員抹殺する。そして以降、この世界に帰ってくることはない。


 この文書データが開かれた時点で、俺の持つ端末に通知が送られる。

 その時から三日、ひたすら待っている。

 よろしく頼む。


 西倉修』


 西倉の残した十六進数の文字列は日本語に変換することができた。その後、所々にあるアナグラムなど複数の暗号を使用された難解な文を十時間以上かけて解析した。

 結果、淡々とした、どこか哀愁の感じられる文が現れた。


 それを見つけた良太と美月はすぐさま警察に文書データを見せたが、既に修の捜索は始まっており、期限が追加されたことで一層警察を焚き付けただけにしかならなかった。一方で巧妙に姿を消した修は、警察の手から完全に逃れていた。


 運営部は怠惰に包まれていた。事件の犯人が内部の者であり、それが西倉修相手ではクラッキングを修復できるわけがないという諦観からだった。その中に三枝美月と相良良太の姿もあった。二人は席に座り、ぼんやりと灰色の天井を眺めている。


「先輩、部長の文章見る限りログアウトホールは安全っぽいですよ。もう公式の発表として告知したらどうです?」


「……いいや。あと三日あることだし、少し様子を見る」


「間に合わなくなるかもしれないじゃないですか」


「本当にもう一度ログアウトホールを開いたなら告知する。文章は出来てっから安心しな。

 今はそれより、ちと気になることがある」


「なんですか突然」


「修の文書だよ。『通知が送られる』って、なんでそんなややこしいことしたかなーって思っただけ」


「通知が来なかったら、誰も見つけられなかったってことです。その場合最後の砦はなかったのだと判断して、プレイヤーの追い出し、抹殺に取り掛かっていたんですよきっと」


「そりゃな、確かにそうなんだけど……書く必要あったか?」


「几帳面ですからね部長は」


「几帳面だからだよ。あいつの気持ちが詰まってるこの文に無駄なところなんてないんだ。俺らに止めて欲しいって思ってるなら、まだ何かあるはず……!」


 良太は体を起こして、文書が表示されたディスプレイを凝視し始める。

 それを横目で見た美月は椅子をゆったりと回転させながら、おもむろに目薬をさした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ