視点
────天馬騎士団アビス支部、円卓の会議室。
「その事件の後、服装をボロの服に変えて、しばらくは人の目を気にして歩いた。二日もしないうちに運営から修正の通知が来て、ダークネスドラゴンは俺のスキルメニューから消えていった。
それから全財産を使ってひと気のない場所に店を構えて、今に至る。これが事の真相だよ。
本当に……ごめんなさい」
アキは椅子の一つに座り、対面に仁王立ちするカトレア、困り顔のテンマに対して全ての過去をひどく悪びれた様子で打ち明け、一言謝罪した。
その横に座るクオンが眉尻を下げながらアキの様子を窺っている。青龍は両者の間に立ち、半ば呆れながら行く末を見守っている。
「私は許したい、と思っている」
テンマがそうアキへと声をかけた。
「正直なところ、私には目立った害はなかった。私にとって最も価値のあることは、強大な敵に皆で立ち向かったことそのものだったからだ。
それに悪意が微塵もないこと。そしてそもそも、ダークネスドラゴンにまで使役を適用した運営のせいだ。運営側もそう感じて様々修正したのだろうからな。よって、私は許せる。
だが、カトレアはそうはいかないだろう。私のように論理的に考え、一口に許すと言って片付けられるほど、この事件の闇は浅くはないのだ。アキ」
アキはテンマの言う『事件の闇』という単語に眉をひそめ、問いかけるようにカトレアへと視線を移す。
「……あなたは、蒼龍月華がどうなっていったかを知らなくてはいけない義務がある」
「わかった。全て聞くよ」
「あの後、逃走したあなたへのやり場のない怒りは、誰にぶつけられたと思う? あなたを採用し、狩りに移行しなかったクランリーダーのハインと幹部のテンマは何十人ものメンバー達から執拗に咎められた。
ハインと私は現実世界で恋人だった。ハインは自身の抱える懊悩を何度も私にこぼし、一年かけて育てたクランを解散することをようやく決心したの。でもね、それだけでは終わらなかった。
家や仕事先を教え合うような内輪のクランだったことが災いして、ハインの住んでいた実家には様々な嫌がらせをされ、仕事先にまでハインに関する変な噂が流れるようないたずら電話が二回ほどあった。テンマはオフ会に参加していなかったおかげで被害はなかったようだけれど」
「そんなことが……」
「彼は偶然実家の二階の窓から、表札に悪戯書きをしている人物を見かけた。それがクラン結成時からずっと支え合ってきた幹部数人だったらしいわ。その内に彼は自責の念と一週間毎日行われた嫌がらせ、作戦失敗のトラウマから人間不信に陥り、対人恐怖症を引き起こした。
明るくて、優しかったハインは表情をあまり顔に出さなくなってね。結局彼は仕事を辞め、引きこもりになっていき、遂には私と別れたいと申し出てきた。『君にだけは絶対に迷惑をかけたくない』と言っていたわ」
淡々と語っていたカトレアは、ハインの話になった途端、悔しげに表情を歪めて涙をにじませた。
「私が力を付けたのは全て、幻の竜使いへと復讐するため。未だにこの世界に居続けるのは、何かの弾みで幻の竜使いが現れやしないかと切望していたため。全てはあの日から……私と彼、蒼龍月華全員の運命を変えたあなたへの復讐のためなのよ。幻の竜使い!」
キッと目尻を釣り上げて睨みつけてきたカトレアは、蛇の像が絡まるカドゥケウスをアキに突き出した。それにクオンが反応し、アキを庇うように立ちはだかる。
「どんな理由があっても朱雀がアキに攻撃するなら、私は本気で殴りに行く」
クオンを見上げたアキは口をつぐんで俯き、膝の上で拳を作った。
「……ふん。亀と蛇の関係は伊達ではないということかしら。それでも私は────」
「あーあ! 馬鹿馬鹿しい!」
予想外の声にアキ、クオン、カトレア、テンマが円卓の横に立っていた青龍へと顔を向けた。わざと大声で呆れ果てたように、顔の前で手をひらひら振ってみせる。
「何、あなたには関係ないでしょう?」
「いつ終わんのこの話。当事者だけで話し合うなんて、感情論アリアリでなーんにも解決しなさそうじゃん」
「何が言いたいのよ」
「殺すの?」
青龍はカトレアへと視線を向ける。純粋な疑問を投げかけるように、瞼は大きく見開いていた。
カトレアは息を飲み、眉をひそめる。カトレアの返答を待たずに、青龍が続けた。
「馬鹿馬鹿しい。あー馬鹿馬鹿しい!」
「青龍、何が言いたいのだ?」
「朱雀が真に恨むべきは誰か、ということだよ。銃を作り出した運営側でも図らずも引き金を引いたカメさんでもない。自分勝手な強欲と逆恨みで彼氏さんを追い詰めたクランメンバーでしょ。
なーにが幻の竜使いなの。なーにが事件なの。勝手に争い始めたのはどこの誰よ?」
「でも、そもそもアキが事件を起こさなければあんなことには!」
「ボクのいたクランは竜狩りの秘宝をクリアできなかった。イベント終了までに間に合わなかったのさ。もちろん経験値も報酬もない。それでも誰も恨むことなく『こういうこともあるか。しゃーない!』ってすぐに切り替えた。それが運営の決めたルールなんだから、諦めるのは当然。
それに比べたら君らの蒼龍月華はワガママ過ぎるね! 君らクランイベント失敗したことないんじゃないの? そんなんじゃあ遅かれ早かれ争いが起きるに決まってんじゃん。そのキッカケがたまたまカメさんだったってだけなのに、逆さ恨みもいいところだっての! ホント馬鹿馬鹿しいでしょ?」
青龍は半笑いしながら、四人を見回した。




