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夢のニートライフ

 

 「さあ、プレートに音声入力をしてみよう」


 我ながら出来の悪いチュートリアルみたいで恐縮だが、思考だけではなく音声でもプレートに入力可能だ。


 「地図」

 『選択』

 イメージ・テキストがプレート直上に表示される。


 「ダンジョン2F」

 ダンジョン2Fというファイル名で保存した地図が浮かんだ。


 このプレート、スマートフォンみたいにフリック操作もできたりする。

 空中に浮かんだ画像を二本の指で挟むようにすると、画像サイズが小さくなった。

 タッチパネル画面のような二次元ではなく三次元での操作なので、ちょっとしたコツがいる。とはいえ、現代の情報機器を使い慣れた世代なら、すぐに慣れる程度だ。


 もちろん思考でも同じ操作が可能。

 ただし、雑念が入ると操作がリセットされたりするので、テキパキ操作したかったら指がお勧めだ。

 言葉がわからなくても、指がなくても操作可能とは、まさにユニバーサル・インターフェースだ。

 これを元の世界に持ち帰ってGo○gleかMicros○ftにでも売却すれば、一生遊んで暮らせるほどがっつり稼げるだろう。



 新事実。

 どうやらこの階層は、ダンジョンの地上から地下2層目にあるそうだ。


 そして、プレートはこのダンジョンの名称も教えてくれた。

 フェアボーテン。

 そしてここはフェアボーテン第2層の裏方だ。

 

 プレートに保存した地図を呼び出した。 

 空中に画像が表示された。


 地図の形状はおおまかに角の取れた正方形。

 食堂、霊安室、トイレ、待機室、治療室などが克明に記されている。

 待機室はモンスターが居住するスペースだ。

 形状は一辺3メートルくらいの立方体。つまり第1マイホームと同じ形。

 これが待機室のデフォルト設計らしい。


 試みに満室の待機室に入ってみたこともある。

 腕……というか触手をうねうねさせたキノコ2体が、驚いたように目を見開いて、俺を見ていた。

 そしてすぐに胴体の中ほどまで口を開き、歯むき出しにして威嚇してきた。


 まあ、不思議はない。

 いきなり自分のアパートに見知らぬ男がひょっこり入ってきたら、そりゃ怒るだろう。

 武装していると移動中にでくわしたモンスターどもが戸惑うので、こちらは丸腰だ。キノコバイトや触手ウィップを食らう前に逃げ出した。


 ちなみに、キノコの最終奥義というか必殺技は、傘の縁から撒き散らすイリュージョンパウダーというものらしい。


 ちょっと興味をそそる技の名なのが困ったものである。



 第1マイホームの中は、俺の生活スタイルに最適化している。

 中央の新聞紙に寝転がった状態で、必要なものには手が届く。

 まあ、シンプルを旨とするロハスな俺の生活信条の成果といえよう。

 ちなみにロハスの意味を知らないし、今後調べることもないだろう。


 毎日の生活パターンはこのところ固定化してきていた。


 朝 

 食堂でモンスターが飯を食う音で目覚める。

 ヒゲを剃り、仕事着のキノコフェイクに着替えて食料調達。


 昼 

 お弁当フレークで食事。

 金目の物が落ちていないか軽くパトロール。


 夜 

 午後から深夜にかけて暇を持て余す。

 ときには蜜ゲットのボーナスイベントをこなしたり、リカバリーユニットでタダ入浴。

 暇に任せてタブレットのSDカードに保存したお宝画像を観賞したり。

 (ちなみに、蜜で軽くRC遷移してから画像を拝むと、「こんな世界があったなんて……」的なバ○アグラのバナー広告みたいな状態になるのは秘密だ)


 まるで、「俺ニートだけど本気出せば就職くらいできる。コミュ障じゃないし。買い物くらい楽勝よ」とか高言する、ダメな真性ニートそのもののぬるま湯生活なのは否めない。

 あとは、amaz○nや楽○市場で買い物できれば完璧なのだが。

 そうすれば三食昼寝つきのニート天国の完成だ。


 ちなみに部屋の隅には使用済みのワーカーの胴体がいくつか転がっている。

 そこの君、誤解しないでもらいたい。

 あー、その、つまり、機能や構造を研究する素材としての役割を終えたワーカーの死骸なのだよこれは。

 ……研究の具体的方法は最高機密なわけだが。


 真面目な話、ワーカーはただのモンスターではないと思う。

 ある日、試みに食堂のプレートや食料桶をイシキリで一打ちしてみた。

 すると穴からワーカーの一隊が現れ、破損部分に群がった。

 彼らは口もとの小さな脚に、キラキラ輝く金属を持っていた。


 明らかに道具だった。


 彼らは道具を器用に使ってプレートを壁から引きずり出した。

 それがゴトリと床に落ちるのと同時に、穴を通じて全く同じ大きさのプレートが運ばれてきた。

 ワーカーたちは、またたく間に破損箇所を取り替えて、つむじ風のようにせわしない動きで立ち去った。


 部品はユニット化されており、破損すれば自動的に素早く修復される。

 どうやら、ダンジョンのシステムは高度に規格化されているようだ。

 ということは、ワーカーが出入りする穴は、もはや巣穴というよりは、メンテナンス通路と呼ぶべきなのだろう。


 ある日、ワーカーに細長くよった紐をくくりつけて、メンテ穴の深さを調べてみた。

 紐は20メートルほど断続的に進んで、やがて止まった。


 翌日、紐の中ほどに携帯をつないでワーカーに引っ張らせてみた。

 携帯は石畳みでカタカタ弾みながらメンテ穴の奥に消えた。

 紐の長さが足りるか若干心配だったが、幸いいくらか余裕を残して紐の動きが止まった。


 数分間泳がせてから、おもむろに剣をふりかぶってプレートを傷つけた。

 瞬間、紐にかかっていたわずかなテンションが消えた。

 案の定、破損を検知したワーカーが、すぐに戻ってきた。


 俺は剣を背中側に隠し、両手で紐を巻き取った。

 「よし、携帯回収」

 実験に協力してもらったワーカーを紐ごと吊り上げて部屋から連れ出した。


 ワーカーは戸惑ったように「ギッ? ギッ?」と首を左右に振っている。

 他のワーカーは、仲間の運命には無関心らしい。気にせず修理に精を出していた。


 ワーカーの首と胴体のつなぎ目は細い。

 ナイフでこじると、首はポロリと落ちた。こうなればもう安全だ。

 触覚を蠢かせる頭を、手近なメンテ穴に蹴りで返却、胴体と脚も少し引っ張った上で、つなぎ目で切断した。


 その後、胴体はあくまで研究材料として、第1マイホームに持ち帰らせてもらいました。



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