第13話 統率者1
「勝った」
「勝ったのに神妙な顔だね」
「だ、だって……」
また一試合終えて、メイタロウは再び思案顔になっていた。
この大会、ほとんどロド一人の力で勝っている。と言える。
自分のしていることと言えば、攻撃術に専念する彼女の信頼に応えて、防御魔術を張り続けていることだけだ。
そしてその防壁が相手の術で壊される前に、ロドの術が向こうのシルドを破壊している。
まさに快進撃だ。
相手側の魔術師とロドの力の差が大きく、勝負がほぼ一瞬で決まるため一試合が短い。
確か予選では、アマチュア大会・ペアの部予選最速通過記録を出したとか。
この大会にエントリーしたときは予想もしていなかった。今自分がここにいること。
トーナメント表をものすごい早さで上へ上へとのぼっていくこと。
明日は本戦三回戦目。
勝てばロドとメイタロウは準決勝進出となる。
思案中のメイタロウはほっといて、最強魔術師のロドは会場ロビーの隅で退屈そうに伸びをしている。
その背を見ながら急激に自分の無力さと、彼女に対する申し訳無さがつのった。
いいのかな、こんなので……。
「ロド、僕の魔術のことなんだけど……」
「うん?」
「ごめん。僕、試合中何もできなくて。君、本当に強いね。まるでプロみたいだ。……それに比べて僕は、守るばかりで正直足手まといかなって」
ロドは伸びを解いてこちらを振り返り、二、三度瞬きして、表情を変えずにこう言った。
「何もできてなくなんかないよ。防御術で守って、あたしの攻撃術の完成を助けてくれてる。攻撃と防御、二人で連携して勝つ。それがペアの部だよ」
「……でも」
「メイタロウの防御術は強度が高くて持続力もある。しかもそれをあたしが使ってほしいタイミングで使ってくれる。魔力の強さだけじゃなくて、ペア戦、すごい慣れてるね」
この、どんなときでも無表情に近い表情で話す、彼女の言葉は本当だろうか。
とりあえず、「ありがとう」とだけ返しておく。
そう、防御術だけ。
今までの試合、メイタロウは術を繰り出すロドを守ることしかしていない。つまり、一切の攻撃術を使っていないのだ。
ロドはそれを許容してくれているが、普通なら責められる行為だろう。
確かに攻撃と防御の内、お互い得意な術に絞って戦うというペアは珍しくはない。しかしこうも極端に攻守に分かれて戦うペアは他にいないだろう。勝ち進めば相手に戦略を予測されて、対策もされやすくなる。
しかしロドは何故とは聞かなかった。
何も聞かず、自然と攻撃術に徹してくれている。
彼女はもともと優れたシングルプレイヤーなのだろう。メイタロウに合わせるというより、目の前の相手を倒すために、自然に勝つための戦略を選んでいる。
メイタロウが防御に徹するなら自分は攻撃術を、ということだ。
だったら合わせているのは確かにメイタロウの方だ。魔力は弱くとも、組んだ者の力を最大限に引き出す。そういう、ペア戦専門の魔術師がいるのも確かだ。
そうだな。自分の防御術が賞賛に値するかはともかく、ペアを活かす戦い方に慣れているというのはその通りだ。そういう点では、メイタロウも全くの無力ではない。
「……昔はよく、ペアの試合に出てたから」
思わず遠い目になる。そう、あいつと一緒に……。
遠い日を思い出す。あの日までは普通に使えていた攻撃術。
あの日までは普通に見交わせていたあいつの目。
全部遠い水面の向こうだ。もう手が届かない。
すべては変わり、メイタロウは一人水底に取り残された。
そんなことを考えていたら、
「あのー、ちょっとすいません。お話をお伺いしたいんですけど」
「は、はい?」
突然見知らぬ男性に話しかけられたのだ。
ハッと、思わず肩をびくつかせる。他人に声を掛けられるのは大の苦手だ。
彼は手にメモ帳とペンを持ち、腰を低くしながらこちらをうかがっていた。
その後ろには顔が半分隠れるほど大きなカメラを持つもう一人の男性。
メイタロウと目が合うと、メモ帳を持つ男性はさらにもう一歩こちらに近付いてきた。
「日刊競技魔術新聞の者です。今回の魔術大会の特集記事の取材中なのですが、予選ブロックを最速通過されたペア戦の選手の方ですよね? よろしければ少しお時間をいただいても?」
「え、え? 取材、ですか?」
思わず上ずった声が出る。まさかこんな所で新聞の取材が来るなんて思ってもいなかった。
狼狽しきるメイタロウに構わず、記者は言葉を続ける。
「はい。今回の大会に参加された経緯と、ここまでの快進撃の秘訣を是非お聞きしたいと思いまして。今お二人に大会関係者の注目が集まっているんですよ? お二人とも今大会のまさにダークホースだと」
なるほど、無名のアマチュアが最速記録を出してここまで勝ち上がったことが珍しいのか。
……でもそんなこと言われてもな。この大会はほとんどロドの力で勝ってるし。
メイタロウは添え物みたいなもんだし。
困りに困って、青年はロビーの隅にいるはずのロドに助けを求めて視線を巡らせる。
って、あれ? いつの間にかロドがいない。
さっきまでそこにいたのに、一体どこ行ったんだろう?
「す、すいません。えっと、今ちょうどパートナーがいなくて……」
あたふたと手を振る。
しかしメイタロウがそれ以上取材に答える必要はなかった。
青年があたふたしていると、不意に記者の後ろにいたカメラマンが何かに気付いたように背後を指差す。
「おい、あれ」
その言葉に後ろを振り返った記者は『それ』を見つけると、メイタロウから一気に興味を失ったようだった。
メモ帳を小脇に挟んで、素早い動作で回れ右する。
「ああ、それじゃあパートナーの方がいるときにまた取材させて下さい。失礼します!」
そしてさっさと別の場所へと移動し始めた。
ほっ。
助かった。取材なんて何しゃべったらいいか全く分からないんだから。
しかし一体彼らは何に興味を移したのだろう。
その先を目で追う。
いつの間にか、ロビーの入り口付近に人だかりができていた。




