プロローグ
自分という存在を、分かりやすく説明する時、僕は決まってこう答えてきた。
深夜の交差点、人通りもなく、車も通らない中、歩行者用の赤信号が青信号に変わるまで、ただひたすら待ち続ける人間。それが僕だ、と。
詰まる所、僕は白か黒で言えば白なのだ。
正義か悪かで分けるのであれば正義側。
ただし、どこぞの胡散臭い正義の味方に憧れる、痛い人間というわけではない。ファンタジーの世界において勇者を名乗るつもりも無いし、非日常の凶悪事件に巻き込まれたとき、機関銃を片手に犯人に突っ込むようなアクションヒーロー張りの活躍は見せない。
しょぼい正義側なのである。
どれくらいしょぼいかを説明すると、混雑したバスに年配の方が乗車して来た時、真っ先に椅子譲りゲームには参加をせず、取り合えず寝たふりをしながら様子を見る。そして誰も名乗り出なかったとき、さも寝ていて気が付きませんでした的な空気を醸し出して席を譲る。そんなしょぼさだ。
こんな僕が、もし異世界に行ったら。或いは召喚。トリップ。
無いけどね。無いのだけれど、例えばの話し。
おそらく勇者ではなく、そのサポートをする魔法使いになるだろう。
結構合っていると思うのだ。前に立って積極果敢には戦えないが、少々距離のある所から、ちまちまと魔法で敵の体力を削る。
そんなしょぼい戦い方が僕にはきっとぴったりだ。
断じて、勇者などありえないという事だ。
無理だ、無理無理。
世界を救う? 誘拐された姫を救出? それは警察とか、あるいは騎士隊とか、クリスタルに見い出された戦士とか、ハイカラな格好をした髭づらの配管工とかの仕事だろう。僕ではない。
総じて、魔王などなりえないという事だ。
無いね、無い無い。
世界を征服? 崇拝された姫を誘拐? それは犯人とか、あるいは山賊衆とか、真の大魔王に見い出された手下とか、トゲトゲな甲羅をした鬼づらの大カメとかの仕事だろう。僕ではない。
いや、いやいや。
僕は何を考えているのか。異世界とか、勇者とか魔王とか。そんなもしもを考えている自分が恐ろしい。クリエーターにでもなる気か? 或いはゲーマー? オンラインゲームの中では僕、勇者だから。的な? 勘弁してくれよ自分。そういうのはせいぜい夢だけにしてくれ。ドリーマーで十分だ。
そう思っていた。
現実的に。
常識的に。