エピローグ
「いいえ、貴方は村人です」
目の前の女。恐ろしいほど愛くるしい容姿をした悪魔。そう、悪魔としか表現し難い格好をした人物が、微笑みながら僕に告げたのだった。一瞬で人を虜にするような、大きくて美しい金色の瞳。絹のような光沢で輝く金髪。純白すぎて背景が透けてしまいそうな肌。全身を黒い衣で覆い、細くしなやかな腕と足だけが魅力的に露となっている。
それだけではない。気が付けばそこは、薄暗く、鈍重な空気に包まれた空間だった。一枚岩がくり抜かれたような起伏の激しいドーム状の部屋で、壁面は妖艶に燃え盛る紫の炎を灯した松明によって、不気味に照らし出されていた。そう、それはさながら物語に登場する邪悪なる者の住まう魔窟のような――って、
「村人かよっ! とてもじゃないが現在地の情景描写を事細く考えている場合じゃない! 場合というかこの場はどこ! 私は誰……いやいや、僕だし。成瀬日和、高校一年生」
「そうです。貴方はナルセ=ヒヨリ。学生であり、成績は若干優秀。スポーツもまあ優秀。容姿もなんとなく優秀。性格も設定的には優秀で、性癖も憂愁。よって村人が妥当なのです」
「褒められているようだが、最後の漢字の間違いで悪意にしか感じられない! そもそも性癖が憂愁な人間が妥当な村なんて、どんな村なの?」
愛くるしい微笑をこちらに向けてくる。女性は悪魔だった。
それも、陰湿そうな悪魔だった。
いやいや、村人って。そんなジョブがあるというのだろうか。
ここは○○村です的なコメントをする事を生業とし、レベルが上がるとキーワードを喋り出す、みたいな?
僕はついカッとなった。
だが、それはどうでもいい事だ。大切なのは、現状を把握し事態の打開を図ることである。
まずは現状だ。目の前に悪魔的な、いや悪魔であろう女性がいる事も異常ではあるが、この異質な空間は何だ。
思い出す。そう、僕は変わりない日常風景に溶け込むかのような、いつもの学生生活を終えて、自宅に帰った。母の適度に愛情こもった晩飯を食べ、風呂に入り、少しゲームをして、筋トレなんかもしちゃって、寝たのだ。
それがどうして、描写するにあたり適当な表現として、邪悪なる者が住まう魔窟、などと書かねばならないような場所にいるのだろう。
事態の打開を図る為の答えなど簡単だった。
穴埋め問題の解答が、次の問題例文に書いてあった並に簡単だった。
寝たつもりが目が覚めて、目の前に悪魔がいて、異常な場所に立っている。
「夢か! いやーありがちな夢を見たもんだな僕も」
麗しい女悪魔は今だ邪悪に笑っている。好きになってしまいそうだ。そして、夢だという結論に不安が募る。
「そう、夢です。察しが良いですね」
やはり夢では無いようだ。と言う事は現実。確かに目の前の女性はリアルで生き生きとしているし、地面の感触だって、空気の重い感じだって、本物の――
「え、夢なの? 夢落ち? すでに物語りがフィナーレを迎えようとしているっ!」
「はて、物語とは?」
「いや……ごめん忘れてくれ、興奮して変な事を口走った」
なんと夢だった。
夢落ちだった。
皆さん、物語は終わりそうです。
それでは、また会う日ま――
「納得できない! ああ納得できないとも。是非とも否定をしていただきたい。ここは異世界で、召喚とかされちゃった普通の高校生である僕が、これから勇者なり、魔王なりになって、きっといきなり最強の能力とか手にしちゃって、色々な女の子と仲良くなっちゃう。そんな物語が始まるんじゃないの?」
僕が惚れてしまった、目の前に立つ悪魔は、露骨に引いた表情をして、ジト目で見つめてくる。
「はぁ……そんな都合の良い話しがあると本気で御思いなのでしょうか。勇者? 魔王? 極普通の高校生である貴方が? 考えても見てくださいよ。例えば敵に攻められて窮地に立たされている異世界の王国で、そんな普通の高校生である貴方を、求める誰かがいると御思いですか? 逆に悪の頂点に立てると? 人間を苦しめろ、滅ぼせ、魔物に安住の地を? または最強の力? 誰が与えるんですか、神様とか? 有り得ません。そんなことをしている暇があったら、神を信奉している国を救いなさいと私は神に噛み付きたい」
最後が駄洒落であったのは置いといて、怒られてしまった。
夢に出てきた悪魔に怒られてしまった。
大好きな女性の悪魔に怒られてしまったのだ。自暴自棄になっても、誰も文句は言えまい。いや、僕の夢だし。
そうだそうとも、僕の夢ではないか。それを好き勝手いいやがって! こうなったら、僕だって好き勝手に喋り捲るからな! 時空とか、設定なんて糞食らえだ。
「プロローグはどうすんだ? モノローグ調でなんだか達観した主人公っぽく語ってたじゃないか。前振りだろ伏線だろと思った描写があったじゃないか。あれで勇者にも魔王にもならなかったら、いきなりこの物語は破綻したことになるぞ!」
言った、言ってやった。決して言ってはいけない台詞を。
僕の敬愛する悪魔は、思わずたじろぐ。ふははざまあみろ僕の夢!
「な、何を言っているのでしょう。プロローグ? 意味が分かりませんが。きっと夢を見る前、そう、寝る前に何か考え事をしていたのでしょう。それがプロローグという形となっているのです。きっと夢を小説形式でごっちゃにしているんですね。大丈夫ですよ。私は分かっていますから」
分析されてしまった。
理解されてしまった。
しかも憂いを帯びた視線を向けられていた。
死にたい。僕を見ないでくれ! これが禁忌に触れるということなのか!
「そうか、思えば確かに寝る前に、異世界だ勇者だ魔王だと、考えていた気がするよ。いやーよかったよかった。夢ね、うん夢夢」
僕はついさっき言った台詞を忘れることにした。ていうかなんか言ったっけ。
さて、結論として夢となったわけだが、事態はちっとも解決してなどいない。今のところ分かっているのは、どうやら夢の中で悪魔に、村人としての役割を与えられそうだという残念な事実だけである。と言うか、こんな夢を見ている僕ってどうなのだろう。
僕は溺愛する悪魔に聞いてみた。
「これが夢って事は、僕の深層心理が関係しているって事なのかなぁ。正直ヘコむんですが」
悪魔は笑顔になる。それも、自愛に満ち溢れた、やさしい笑みであった。
「ご安心を。貴方の深層心理によって作られた夢ではありませんので。この夢は貴方の現実とあまり関係がないんです。関係があるのは、貴方を村人として選別した際の、分析だけです」
それを聞いて僕は安心した。だってそうだろう。僕好みの悪魔が出てきて、やれ村人だの言い出す夢を、僕の深層心理が作り出していたのであれば、本当に死にたくなる。
いやいや良かった本当。でも言っておかないといけないよな。
「ありがとう。おかげで安心したよ。でもな、断じて僕の性癖は憂愁を感じさせるものでは無い! その分析とやらだけは撤回させてもらおうか」
眩い魅力を放つ悪魔は驚きを隠さない表情をした。
「え、撤回するのですか? 貴方の唯一つの個性を? 私はかまいませんが、それだと貴方、何の個性も無いキャラクターになってしまいますよ? 読者アンケート人気投票で一位になれない主人公ほど悲しいものはありません。それでもかまいませんか?」
「嘘です! 見栄を張りました。僕は読者アンケートで誰しもが認める、憂愁な性癖を持った男です!」
まあ、不人気は嫌だよね。だよね?
と、まあこの件はさておき、この悪魔、どうも気になる事を言った。僕の深層心理に関係ない夢だと? ではこの夢は何だと言うのだろう。
僕は疑問符を一ダースばかし頭の上に浮かべながら、親愛なる悪魔を見つめた。僕と付き合ってください。
悪魔は、一度咳払いをし、僕の求めていた説明を始めた。
「さぞ疑問に御思いでしょうから、説明します。この夢ですが、実のところ正確には夢ではありません。夢とは貴方がここに存在する手段でしかありませんから。もちろん先ほど否定した通り、異世界でも無いですよ? ここは現実の世界ですから。あと、すみません。まだ出会ったばかりなので、お付き合いするのはちょっと……」
心を読まれている!
まあ、それはいい。良くはないがいい。感触も予想よりいい。お友達から大歓迎である。
それよりもだ、夢が存在する手段? 現実? なんだかふざけた物語から、急にシリアスモードに切り替わったようである。
僕は、さらに疑問の外堀を埋めるよう、話しを進めた。
「夢が手段ってどういう意味? ここが現実ってことは、僕は幽体離脱でもしてここに来ているとかなのかな。ていうか君は本当に存在するってことなのか? この胡散臭い場所も?」
「ええ、存在します。ただし、ここは人によって千差万別の方法でたどり着く所なのです。言葉では説明できない場所なんですが、言ってしまえば、皆が共有する物語の中とでも思ってください。人によっては妄想。人によっては書籍、人によっては絵、人によってはゲームなどなど、あらゆる手段で繋がっています。貴方は夢でしたけどね。ゆえに貴方は〝ドリーマー〟です。幽体離脱という手段もありますが貴方は違います。それと、申し遅れましたが、私はデュアルと言いまして〝観測者〟をしています。ですから……ご期待に添えられず申し訳ないですが、悪魔ではありません」
もはや深層心理で構成された恥ずかしい夢のほうがマシだった。それくらい心の中を読まれている。読み込まれている!
まあ、それもどうでもいい。重要なのはデュアルが僕の好みであるということ、もとい、どうやら夢というだけでは片付けられない事態に巻き込まれているということだ。
「率直に言ってくれ。僕はどうなる。ただ夢を見ているだけなのか? この胡散臭いが、でも現実、みたいな場所にいる夢を見ている目的は何?」
「いいでしょう。率直にいいます。ここ、そうですね〝世界の終焉〟とでも言いましょうか。世界の終焉では、今大きな問題が発生しているのです。実は貴方のようにここへ来た人間はいっぱいいます。先ほど言った色々な手段でです。ですが、最近一人の人間〝ゲーマー〟のようですが、その人間が不正な力を用いて、この世界の終焉を荒らしているのです。皆が共有する物語のような存在であるがゆえに、あまりひどく荒らされると、物語同様、世界の終焉は破綻します。ですので、貴方にはそのゲーマーを止めていただきたいのです」
なんとも信じがたい話である。まあ夢だからね。手段らしいけど。
目的は分かった。でもなぜ僕なのだろう。この、デュアル評するところによる、村人である僕に何が出来る。
「いいよ目的はわかった。ゲーマーって要はチートってやつだろう。よくわかんないけどさ。でも、僕である理由はなんなのさ」
僕の質問に、デュアルはきょとん顔をしている。何と可愛らしいのだろう。
「ちーと? よく分かりませんが。でも貴方である、貴方ではならない理由が二つあります。一つ目は、貴方がドリーマーであると言うこと」
「夢でここにいるからと言うこと?」
「そうです。そもそもここ、世界の終焉に来る人達は、皆、ここで存在するそれなりのアドバンテージを、たどり着く方法で持っているのです。例えば〝ライター〝であれば自身を投影したキャラクターを世界の終焉に送り込むことが出来ますし、正常なゲーマーであれば、レベルアップという手段で、世界の終焉をよりスムーズに活動できるようになります。ですが、ドリーマーはアドバンテージがありません。夢ですから、自身で加工や操作も出来ませんからね。それが理由一です」
何も無いドリーマー。駄目じゃん。
デュアルは続ける。
「つまりですね、今問題である、ゲーマーが何らかの方法で、この世界の終焉を加工しているという事は解りますよね。意図的な能力強化や、強力な武具生成、貨幣の増殖などが主だった行為です。でも言った通り、ドリーマーはここでは何も出来ません。この世界に対して干渉する力がないんです。全くというほどに。でもそれは、観測者としては好都合なんですよ。私が干渉しても影響がありませんから。それであなたに接触しました」
「なるほど、確かに他人の夢には介入できないわな」
デュアルは嬉しそうに頷く。
僕も嬉しそうに頷いた。友達から宜しく。
「理由二です。なぜ貴方なのか。先の分析どおり、貴方は世界の終焉では村人です。普通に普遍な、物語にあまり関与しない村人。物語に影響を与えないドリーマーで、かつ物語りに無害な村人属性。私の協力者にぴったりなんです。それに、村人ならゲーマーも眼中にさえないでしょうし」
「そうか、言うなれば、僕は毎日食べている食パンの数の一つような存在だと。オラオラですね」
なるほど理解した。心の声に対する回答が無いのは残念だが、まあいい。
でもだ、まだ疑問はある。
「話しはわかった。でもさ、そのゲーマーをやっつけるのに無力なドリーマーの村人である僕にどうしろというのさ」
考えてみると、夢の村人というのも、結構ひどい話である。
「そうですね。確かに普通のドリーマーでは、太刀打ちできないでしょう。そこで、私が貴方の前に現れたのですよ。本来観測者は観る事が仕事なのですが、今回はお手伝いしていただく貴方に、特別な力を与えます。ふふ、まさか無力なドリーマーが観測者から力を与えられているなど、考えもしないはずです」
目の前の存在が放ついたずらっ子独特の愛らしさに、僕の心は真夏の棒アイスになっちまいそうだ。いやそんなことより今の話だよ重要なの。
「来たなおいっ! なんだか今風な物語の展開だ!」
あれ、でもさっき最強の力とか否定されたな。神に噛み付けないな。
「ただし、タダで与えるわけではありません」
やはりか。試練ってやつだな。まあ在りがちな展開だよな。突然最強の力を与える。に、すこし捻りを加えた程度の構成力だ。
「世界に散らばった龍の玉を七つ揃えれば――」
「ちょっと待ったーっ! 駄目だ、駄目だ! それ以上言うとこの物語は危機的な状況に陥る。盗作はいかん、大人の事情を考慮すべきだ!」
「そ、そうですね」
ふう、危ない危ない。何が危ないかは知らないし、僕も彼女も何も言ってはいない。いいね?
「で、では、世界を探して回るのは都合上、あるいは文字数、時間、コスト的に大変なので、ここにすべて揃っています!」
変な方向に解釈されている!
デュアルは意気揚々として、言葉を発する。辺りは神秘的な雰囲気(ライトのような光)と荘厳な霧(人工的に見えるスモーク)で支配される。
「さあ、願いを言え。どんな願いも話しだけなら聞いてやろう!」
ここまでいわれたら仕方が無い、展開は危険だし、理由も意味わからないけどな。このフレーズを言われたら言うしかないだろう。願いを。最強の力、最強の武器、違う。
「よ、ようしっ、言うぞ! ギャルのパンティーおーく……って、話を聞くだけなのかよ! 叶わないのかよ! 思わず古典的なギャグに乗ってしまったじゃないか。それより、この展開、ちゃんと伝わるのか? 今時はこのネタ古くないか? 大海賊時代の幕開け的に、この世界の全てをそこに置いてきた。くらいが妥当なのでわ?」
「大丈夫かと、名作は永遠です!」
デュアルは豪語した。ならばよしとするか。
いや、よくない。返してくれよ。僕の願い、返してくれよ。
その時、事態が急変した。
僕が悶々と、精神と時の部屋を行ったり来たりしている最中、突然、事は起こったのだ。
凄まじい轟音であった。ドーム状の岩部屋が大きく振動したのだ。まるで、近くで巨大な何かが倒れたかのような感じであった。
慌てた僕は、すぐにデュアルへ視線を向けた。彼女は苦虫を噛んだかのような顔で、轟音の響いた方角を睨みつけていた。
「もうここまで来たの?」
「な、何が来たのさ」
僕と彼女の間に沈黙が流れる。
「勇者です」
「……は?」
「ゲーマーですよ。さっきの音は、ここを守る門番、まあ中ボスみたいなものですが、彼がやられた音です」
いや、中ボスて。
世界の終焉、軽い物語のようだった。
まて、それより疑問がある。
「一つ聞くが、なぜその、中ボスとやらがここを守っている?」
「ここが、ゲーマー、今は勇者ですが、ゲーマーにとって、最後に訪れる場所だからですよ」
ゲーマー、君は勇者だったのか。なるほど、つまり勇者が最後に訪れる場所ということは、ここは――
「もしかして、ここは魔王の間的な?」
「先ほどから察しが良くて助かります」
ゲーマーにとって最低のゲームだーっ!
最後のラスボスの所に、普通の村人がいちゃったよ。
「なぜここに僕がいる?」
「まあ話すのに、ここが一番静かでしたし、先ほど言った通り、ゲーマーにとっては一応一番到達が困難な場所ですから」
そいつはごもっともだ。だが、もう勇者が通り過ぎた村とかでも、よかったのではないのだろうか。僕、村人だし。
「あ、ちなみにここにいた魔王は、貴方が行く予定の村へ、一時的に行ってもらっています」
「ぼ、僕の村がっ! 性癖の憂愁な人が集う僕の村が魔王に滅ぼされてしまう! 勇者様! お助けをぉぉ!」
もう、むちゃくちゃだった。
言っては何だが、すでに世界の終焉、破綻している。
動かない、ただの屍のようだ。
凄まじい音がまた響く。
分厚い扉が、破壊されたかのような音が。
分厚い何重もの列を成した扉が、破壊されたかのような音が。
デュアルはここに来て慌てふためいてた。正直かわいい。キスがしたい。
「ど、どうしますか? あ、ああ貴方には選択肢が、ああああります。一つは、所定の村へ瞬間移動をするか、です。もう一つは――」
凄まじい音がまた響く。
分厚い扉が、破壊されたかのような音が。
最後の部屋を守る為にある扉が、破壊されたかのような音が。
「ここが魔王の間か! さあ出て来い! 私が決着をつけてやる」
「ゆ、勇者様は私が守りますう」
「へっ、あたしだって負けないからね」
「なによ、まったく。せっかく付いてきてあげたのに……ぶつぶつ」
勇者様ご一行が到着なされた。
どこからどう見ても、ハーレムだった。
完全無欠の、ハーレムだった。
僕は、心の中でモノローグを語る。
自分という存在を、分かりやすく説明する時、僕は決まってこう答えてきた。
深夜の交差点、人通りもなく、車も通らない中、歩行者用の赤信号が青信号に変わるまで、ただひたすら待ち続ける人間。それが僕だ、と。
詰まる所、僕は白か黒で言えば白なのだ。
正義か悪かで分けるのであれば正義側。
以下、略。
それら、達観を帯びた僕の信条とも取れるモノローグが、音を立てて崩れていくのを、僕は見た気がした。
ああ、僕の中に眠っていた魔王が目を覚ましそうだ。
――ふははははは、よくぞここまで来た。だが、そんな貧弱な女どもを連れていては、話にならんぞ! どれ、貴様を倒した後に、じっくり楽しんでやろうではないか――
「――さんっ! ヒヨリさんっ! 帰ってきてください!」
「はっ! 今のは一体?」
僕はゲーマーが飛び込んできた瞬間、どうやら気を失っていたらしい。
しかし、恐ろしい光景だ。反吐がでる。自分の欲求を物語に投影しているのだろうか、馬鹿みたいだ。データ改ざんまでして。ああなっては御終いだと、まるで、他人の振り見て我が振り直せ、ということわざの語源を見ているようだ。
「ど、どうしますか? 選択肢は先ほど言った二つですよ! 決めてください!」
はて、二つ? どうやら、僕が遠い異世界へ旅立って、魔王を演じている間に、選択肢の二つ目が説明されていたようである。
「二つ目、もう一度説明してほしいんだけど」
「え? 聞いてなかったんですか? 二つ目は――」
デュアルが口を開いた瞬間、勇者様ご一行からの攻撃が僕たちに炸裂した。
僕は勢いよく吹き飛ばされ、壁に頭を強打し、思わず頭を擦る。
デュアルも同じ目に合っていたようで、涙目で頭を押さえ、勇者様ご一行もといゲーマーを睨みつけ、
「こ、このチート野郎! ゲームでさえ努力も出来ない出来損ない人間のくせにっ!」
大分イメージ通りの暴言を吐いていた。
て、言うか普通にチートって言葉を使ったな。
どうやら彼女、二重人格らしい。正直、好みだ。
「あの、すみませんが二つ目を……」
「ああすいません。二つ目は、このまま目を覚ますか、です」
随分と、迷いようも無い二択であった。
「目を覚ましていいの? ここまで展開させといて? プロローグの後にエピローグみたいな?」
デュアルは、目に入れても視力が上がる効果がありそうな、きょとん顔をする。食べちゃいたいなどと下賎な言葉は要らない。いただきます。
「当然じゃないですか。何度も言う通り、貴方はドリーマーですよ。ここにいる手段は夢なんです。目を覚ます選択肢を選べば、普通に朝がやってきます。あ、ちなみに今は朝の八時半です」
「遅刻だーっ! あの目覚まし野郎起こせよ!」
まったく、災難しか生まない夢である。選択肢も糞も無いではないか。十人十色という四字熟語があるが、こんな選択肢、誰に聞いても答えは一つだ。
だから僕は言った。言ってやったとも。
常識的に考えて選ばれる方を。
「僕は――――」
またしても勇者様ご一行もといゲーマーの攻撃が、僕達に向けられた。しかし今回は外れたようで、すぐ近くの岩を発泡スチロール製みたいに粉々にしている。
悠長にしている場合ではなさそうだ。
デュアルの顔を見る。どうやら僕の選んだ選択肢は、彼女の耳にしっかり届いていたらしい。
彼女は僕の目の前に手を伸ばし、
「さあ、私につかまってください。どんな願いも一つだけ叶えてやろう!」
最後に魅力的な笑みと、言葉をくれた。
「よ、ようし、俺を不老不死にし――」
僕はそのボケにしっかり答えつつ。彼女の手を握る。
まったく、災難な夢だ。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。これからもこの作品は――続きません! ええご期待通り続きません。日和がどういった選択したかは、ご想像にお任せします。
そういう作品でしたっ!
嘘ですっ!
別の鳴かず飛ばず底辺作品を書いていて、最近人気の異世界ファンタジーに嫉妬しましたっ! その嫉妬を全力でぶつけた醜作です。続きは頭の中にだけありますが、現在の作品を書き上げるのに忙しくて、アイデアを頭の中から吐き出したかった、と言うのも書いた一つの理由です。そんな作品に付き合わせてしまい、まことに申し訳ありませんでした。
何、異世界? ボッコボコにしてやんよ!
……みなさん、ジョークって知ってますか。




