奇妙な同居
次の日の朝。
自分のベッドで目覚めた輝蘭は、すぐに辺りをキョロキョロと見回した。
もちろんそれは、昨日出会ったメアリーを探すためだ。
実を言うと、輝蘭は目覚めた時に少し不安な思いがあった。
廃ビルでの奇妙な出会い。
出会った相手が自分の意思を持つ40センチ程度の人形だったのだから、もしかしたら夢だったのでは?
そんな気持ちが浮かんできても、それは無理からぬことである。
右を向いても左を見ても、メアリーの姿はない。
「・・・メアリー?・・・メアリーいるの?」
すぐに返事が返ってきた。しかもすぐ輝蘭の真後ろから。
「どうしたの?キララ」
その返事があまりに間近だったので、輝蘭は驚いて振り返った。
「キャッ!・・・もう!びっくりしました。おどかさないで、メアリー」
「アハハ・・・、ゴメンゴメン」
メアリーがばつが悪そうに頭をかきながら笑った。
「ほら、クセなんだ。人の後ろに回りこむのがね」
「例の『あなたの後ろにいるの・・・。』というアレですか?」
「アハハ・・・、そういうワケさ!」
朝食のテーブル。
父親はすでに仕事で出勤していて、今はこの家にはキッチンで輝蘭の朝食の準備をしている母親しかいない。食卓についた輝蘭は、小声でヒソヒソとメアリーに話しかけた。
「・・・ねえ、メアリー。あなたご飯とかは食べないんですか?」
「食べるわけないでしょ。幽霊なんだから・・・」
すると、そこに母親が輝蘭に話しかけてきた。
急に言葉をかけられた輝蘭はあせった!
「キララ、何かずいぶん機嫌がいいみたいね」
「え?・・・・・そう?」
「ええ、昨日とはずいぶん大違いよ。さてはミキちゃんと仲直りできたみたいね」
「ミキさん・・?」
輝蘭は、つい忘れていた昨日の仲違いのこと、そして神酒のことを思い出した。
「ミキさん・・・。何か言ってたの?」
「昨日ケンカしたんだって?ミキちゃんあなたに謝るって言ってキララのこと探してたけど、昨日ミキちゃんに会えたんでしょ?」
輝蘭の顔色が曇った。
「そう・・・。ミキさん、そんなこと言ってましたか・・・」
輝蘭の転校が発端になった2人の間の亀裂。
どちらが悪いわけでもないのに、【どちらと言われれば輝蘭が悪いのだが・・・】なぜか自然に輝蘭から神酒の心が離れたような気がして、輝蘭は少し学校に行くのに抵抗を感じ始めていた。
「行ってきます」
ランドセルを背負った輝蘭が家の玄関をくぐった時、彼女の右肩にフワリとメアリーが降りてきた。
「どこ行くの?キララ。」
「学校です。メアリーも一緒に行きます?」
メアリーはちょっとだけ考えてから、首を横に振った。
「ううん。今日はやめとく。そのうち一緒に行くけどね。今日はメリル探しをすることにするよ」
そう言うと、メアリーは空に再び舞い上がったが、何か思いついたようにフッと輝蘭を見た。
「あのさ、キララ。」
「?」
メアリーは少しだけ考えたような仕草をしてから、輝蘭にこう言った。
「キララ。がんばれ!」