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離れたもの

「ミキー!」


 あたしが学校に向かって歩いていると、後ろから誰かがあたしを呼んだ。いつも聞き慣れている声。ナミの声だ。

「ミキ、おはよ!」


 いつもの笑顔で、ナミがあたしの前に立っていたけど、よく見ると、ナミの後ろからもう一人の小さな女の子が恥ずかしそうに顔を出してにっこり笑っている。

「ミイちゃん【神酒のこと】、おはよう」


 ナミの妹の詩織シオリちゃん。今籠目小学校の1年生だ。

 あたし詩織ちゃんのことを、そのまま『シオリちゃん』って呼んでる。


「おはよう、シオリちゃん」


 小さいけど時々少し大人びたことを言う女の子。

 ナミの髪は片側だけ三つ編みにしてるんだけど、この子は三つ編みを2つ編んでいて、ナミをそのまま小さくしたみたいにおんなじ顔をしてるんだ。

 前に『小ナミ』って呼ぼうとしたけど、さすがにそれはナミに「やめて!」って言われた。

・・・まぁ当然か・・・。


「あのさ、ミキ。実は言わなきゃなんないことがあるんだけど・・・」


 急にナミが、いつもとは少し違った雰囲気であたしに話しかけてきた。

 何か重要なことがあったみたい。


「どうしたの?」

「あのね・・・」

 その時、ナミの傍にいたシオリちゃんが急に向こうを指差して、あたしたちにこう伝えたんだ。


「あ、キイちゃんがいるよ!」


 キイちゃん。それはキララのこと。

 あたしたちがシオリちゃんの指さすほうを見ると、キララが向こうから歩いてくるのが見えた。

 キララはあたしたちに気が付くと、少し目を伏せてからちょっとだけおじぎをした。

 なんとなく流れる気まずい雰囲気。

 間違いない。あたしもキララも、多分昨日のこと引きずってる・・・。


 あたしは思い切ってキララに近づいていったんだけど、なぜか足が重いような感じがしてた。

 キララはキララで、少しあたしを避けるような仕草を見せたんだ・・・。

「・・おはよ・・キララ・・・」

「・・おはようございます・・・ミキさん・・」

「あのさ・・・」


 あたしはキララに何を言えばいいか判らなかった。おかしいよね。いつもだったら、何も考えなくても言葉が次々出てくるのに。


「キララ・・・、転校するんだって・・?」

「・・・・聞いたんですね」

「・・・うん・・・。さみしくなるね・・・」


 それっきり、あたしたちの会話はとぎれた。

 離れてしまう悲しさとは全然違う感情。突然現れた大きな壁。

 ずうっと前、あたしはなんだか同じようなことがキララとの間で昔あったような気がしてた。


 それはキララが初めてこの学校に転校してきた時のこと。

 あの時のキララも、こんな風に心を閉ざしているような感じだった。

 でも1つ違うことがある。それはあたしの心。

 あたしとキララの間にできた壁は、多分キララだけが作った物じゃない。

 あたしもなぜか同じ壁を作っている・・・・。


 黙りこくってしまったあたしとキララ。

 するとキララは、

「すみません、ミキさん。私用事がありますので、先に行きますね。」

「・・・・うん・・・。」

 そう言って、先に行ってしまった。


 こんなの、あたし望んでない・・・。



 突然、学校の鐘が鳴った。周りにいた他の生徒たちが昇降口目がけて走り出す。

「ゴメン、ナミ!まだ話の途中だったね!」

「いいよいいよ、また後で話すからさ!」


そして、あたしたちもそれぞれの教室に急いだ。


キララ・・・。


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