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第2話:メリーさんと不動産侵奪罪

2話です

1. 聖地法律事務所の深夜残業

深夜の新宿。ネオンの光が毒々しく街を彩る中、雑居ビルの一角にある『聖地法律事務所』には、今日も静かな時間が流れていた。


クラリスは、アンティークのティーカップに注がれた茶を啜りながら、分厚い判例集を捲っていた。

 彼女の外見は、異世界で「聖女」として祀り上げられた二十代の絶世の美貌そのものだ。しかし、その内面は、かつて日本で司法試験に挑み続け、挫折の末に異世界へと放り出された四十五歳の女性、蔵林理沙子の魂である。


「……最近の怪異は、少々権利意識が肥大化しすぎている気がします。前回のテケテケもそうですが、他者の身体資産を『無償』で要求するなど、法治国家の住人としてあるまじき行為です」


彼女の肩で、九つの尻尾を揺らしながら仔狐のコン太が欠伸をした。


(ミ´ωミ) ` 「……(クラリスちゃん、あんた中身が四十五歳のベテランやからって、幽霊相手に説教が長すぎるねん。もっとこう、聖女らしく『光あれー!』とか言うて、華やかに消し飛ばせへんのか?)」


「お黙りなさい。暴力(魔法)はあくまで法執行の手段に過ぎません。

……あら、お客様のようですね」


事務所のドアが控えめに開き、一人の女子高生・ミカが震えながら入ってきた。彼女の手には、ひっきりなしに通知が鳴り響くスマートフォンが握られている。


「……あ、あの……非通知の電話が、止まらなくて……」



ミカが差し出した画面には、一分おきに刻まれた着信履歴があった。


「一分おき……。これは現在地を確認するためのものですね」


クラリスは、かつてのフリーランス生活で培った事務的な冷静さで、即座に現状を分析し始めた。


「……ミカさん、安心しなさい。貴女を追い詰めているのは、ただの都市伝説ではありません。ストーカー規制法に明確に抵触する、犯罪者です」


その時、ミカのスマホが再び震えた。スピーカーから漏れ聞こえたのは、背筋を凍らせるような幼い声。


『……私メリーさん。今、新宿駅に着いたの……』


(ミ゜Д゜ミ) 「(キター! 怪異界のストーカー女王、メリーさんや! 普通やったらお札か塩で追い払うところやけど、この聖女は違うで。四十五年の人生経験で培った『理詰め』で、幽霊のメンタルをゴリゴリに削りに行くからな!)」


「新宿駅東口ですね。位置情報の共有、ご苦労様です。……ミカさん、行きましょう。この『被告』には、直接、接近禁止命令を言い渡す必要があります」





深夜二時の新宿アルタ前。

 静まり返った広場に、カチャ……カチャ……と、古びた人形が引きずられるような音が響く。


『……今、あなたの後ろに……』


殺気が膨れ上がった瞬間、クラリスは神速の動きで振り返り、黄金色に輝く『六法全書』を振りかざした。だが、メリーさんは狡猾だった。


『……残念。ここは、私の「領域」……誰も入れないの……ッ!』


メリーさんの周囲に、赤黒いノイズのような強力な結界が展開される。クラリスの『六法全書(物理)』が結界に弾かれ、空を切った。


(ミ゜Д゜ミ) 「(ヒエッ!? メリーの奴、結界張って引きこもりやがった! これじゃ物理攻撃が届かへんやんか!)」


絶体絶命かと思われたその時、クラリスはスッと本の構えを解いた。そして、どこからか取り出した折り畳み式のパイプ椅子を広場の中央に設置し、悠然と腰を下ろしたのである。


「……は?」


メリーさんの困惑した声が結界の中から漏れる。


「……殴れないのであれば、方針を変更します。被告・メリー。貴女が現在展開しているその結界は、公共の空間における『不法占拠』および『不動産侵奪罪』の疑いがあります。……コン、書類の準備を」


(ミ ̄▽ ̄ミ) 「(お、やるんか!? クラリスちゃん流の『嫌がらせ』を!)」


「では、貴女がその結界の中で干上がるまで、私はここで『占有権認定の民事訴訟』の準備をさせていただきます。地裁から執行官が来るまで、何年でも待ちましょう。……幸い、私は聖女。寿命は貴方たち怪異と同じか、それ以上に長いですから。……四十五年経っても司法試験を諦めなかった私の根性を、舐めないことです」


クラリスは膝の上に広げた六法全書に、淡々と訴状を書き込み始めた。


挿絵(By みてみん)


・・・・・

・・・・

・・・

・・


一時間後。

 ただ黙々と、時折「……あぁ、この条文の解釈は……」と独り言を言いながら書類を書き続けるクラリス。その背後には、圧倒的な「大人の執念」という名のプレッシャーが渦巻いている。


『……もう……やめて……。怖い……この人、怖い……ッ!』


ついに精神的に追い詰められたメリーさんが、自ら結界を解いて、泣きながら謝罪に現れた。


「……示談に応じる気になりましたか。では、接近禁止命令の承諾書にサインを。……コン、強制執行です」


(ミ´・ω・´ミ)ノ 「(よっしゃ! 最後に一発、お仕置きや!)」


サインを書き終えた瞬間、クラリスは「署名完了」を合図に、至近距離から六法全書を――(物理)として振り下ろした。


執行チェックメイト!!」


轟音と共に、メリーさんの霊体は法の重圧によって四散し、新宿の闇に消えていった。


***


「……あ、あの、ありがとうございました……!」


ミカが深々と頭を下げる中、クラリスはパイプ椅子を畳み、請求書を差し出した。


「いえ、仕事ですから。……コン、戻りましょう。次は、学校のトイレに『不法占拠』している者がいるとの通報が入っています。……あそこも、徹底的に立ち退き交渉を行いましょう」


(ミ´ωミ)~` 「(へいへい。今夜も大人の喧嘩は終わりそうにないな!)」



次どうしようかな

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