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不遇の落ちこぼれ扱いされる土魔法使いに転生した僕、異世界における第一次世界大戦の到来によって不本意な成り上がりをしてしまった件  作者: リヒト


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戦況

 戦争は大方の予想通りに始まった。

 ローシャ帝国とフリース王国が何か宣言するよりも前にルノア王国が簡潔に言うとオースティン帝国への干渉を理由とし、両国へと宣戦布告。

 当初の予定通りルノア王国は最小限の国境警備隊をオースティン帝国の国境部へと残してフリース王国への攻勢へと戦力を割いた。


「……まだ、前線の記録はわからないか」


 大攻勢の始まり。

 それを王宮が国民に対して宣言してから二週間。未だ、最前線の情報は僕のいるウィルアード侯爵領にまで届いていなかった。


「そろそろわかってもいい頃合いだと思うんだけど」


 戦争開始からたったの一か月半。

 それがルノア王国に与えられた今戦争の砂時計だった。

 近代化に遅れているローシャ帝国が軍を国境に並べ、進軍を開始するのにはルノア王国よりも一か月ばかり遅いだろうという予測に基づき、電撃的な作戦行動でフリース王国を一か月半で降伏にまで追い込み、二正面作戦を回避する。それがこの戦争における基本方針だった。

 

 既に二週間。

 最初の攻勢が終わり、その基本方針の成否が出ていてもおかしくない頃だった。

 だというのに、まだ情報は何も出てきていなかった。数年をかけて拡張し、大商会にまでなった僕の商会経由でも情報を集めようとしているのだが、それも芳しくない感じだった。


「……ノア」


 どうなっているのか。

 気が気ではなく、ドキマギしながら部屋の中でウロウロしていた僕の名前が呼ばれる。


「……ッ!?ち、父上」


 何時からいたのか。

 何時の間にか開けられていた部屋の扉の先に立っている、こちらへと声をかけてきた父上へと僕は視線を向ける。

 父上は戦争開始三日頃に当初の計画通りに自領へと帰ってきていた。


「戦争の情報をお前に話す必要があるだろう。前線の、情報だ」


「……ッ」


 硬く、重たい父上の口ぶり。

 それから嫌な予感を感じ取った僕は体を強張らせる。


「最初に言おう。緒戦は優勢だ」


「それはっ!」


 それに反し、父上の口からまず出たのは吉報だった。


「だが、あくまで優勢であるだけ。計画の成功は遠い……そして、これからが大事なのだが、我々の想定は何もかもが遅かったようだ」


「……遅い?」


 だが、すぐにその吉報に陰りが指す。


「……貴族は、魔法は終わったのだそうだ。前線の情報によるとな」


「はい?魔法が終わった?」


 何を言っているのか。

 それが理解できなかった僕は言葉を繰り返す。


「……いや、対魔法結界ですか?」


 だけど、すぐに僕は魔法が終わった。そう評される理由に思い至る。


「……うむ。あれは、戦場において絶大な威力を発揮しているようだ。前線に魔法はなく、銃と砲弾が行き交う場となっているようだ」


「なんと……っ!?シーアお姉さまはっ!?」


 であれば、……であればっ!?魔法がダメだった。

 その結果に思い至り、僕は動揺の声をあげる。


「彼女は生きている。だが、リュークは死んだ」


「はっ」


 息が詰まる。


「アイゼンは生死を彷徨っている……三人とも、我が領へと今朝、帰ってきた」


「えっ」


 言葉が詰まる。


「……何処に?」


 だけど、……僕は言葉を何とか絞り出す。


「医務室だ」


「……っ」


 その言葉を聞いた僕は父上の横を通り抜け、医務室へと駆けだしていく。


「シーアお姉さまっ!」


 シーアお姉さまが寝かされている医務室の前にまで走ってきた僕は良くないとわかりながら、ほぼ衝動的にドアを開ける。


「……ッ!」

 

 ベッドに横たわっていたシーアお姉さまはその声に反応し、こちらの方へと視線を向け、そのまま僕と目線があう。


「……シーア、お姉さま」


「……っ」


 シーアお姉さまは上半身を起こしていた。

 布団のふくらみから、その両足は確認できる。顔に大きな傷もなく、お腹の方にも何か傷が残っている様子はない───だが、その腕。肘の少し上から先がなく、代わりに分厚い包帯がまかれていた。


「……の、ノア」


 シーアお姉さまと言えば、……強い、人だった。頼りがいのあり、常に僕の前に立っている人だった。

 そんなシーアお姉さまは、僕を前にして体を震わせ、か細い声で───ノア、と呼ぶ。


「……おかえり、なさい」


 その、シーアお姉さまの姿を見ながら僕はポツリと言葉を吐く。


「……っ!」


「命があって、……本当に良かった」


 言いたいことはいっぱいある。

 疑問も、感想も、慰めの言葉も。だけど、何よりも、僕はシーアお姉さまが生きていたことに対し、安堵の感情をまずは口にするのだった。

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