ボルフ少年期③
俺が16歳の話だ。
俺は副分隊長という役職が付いて、階級も兵卒から兵長になっていた。
戦場で3年も生きれば、古参兵扱いされる。
16歳で古参兵とはおかしな話だがな。
その日の俺達は小隊で動いていた。
ゴブリンの前哨基地を潰す作戦で、俺達の小隊が正面から揺動攻撃を掛け、別の小隊が側面から本格的な攻撃を掛けるというもの。
偵察によるゴブリン兵の規模は、一個分隊程度、多くても二個分隊との報告だ。
それならば、二個小隊で十分に落とせる。
俺達みたいな散兵は、大抵が敵の動揺や混乱の為に使われる。
身軽だからというのと、本格的な接近戦闘に耐えられる様な武装を持って無いからだ。
だがその頃の俺は違った。
手には長剣と手斧を持ち、上半身には革鎧を身に着けていた。
散兵にしては良い装備だが、全て戦利品だった。
革鎧なんかは、盗賊討伐の戦利品だ。
散兵の給金ではとても買えない。
この当時の俺達下級兵士の収入は、こういった戦利品を金に換える事で成り立ったいた。
俺達は命令のままに、敵の前哨基地の正面から出来るだけ近付く。
揺動が目的だから敵に姿がバレても構わない。
敵の基地にバレるや、直ぐに弓矢が飛んできた。
散兵戦術ではその名の通り、兵は固まらずに散解して行動するため、弓兵にとっては狙い難い相手となる。
ゴブリンの矢など、そう簡単に当たるものではない。
この散兵部隊の良い所は、各自が自由に動けること。
初めの内はスリングで投石の距離を行ったり来たりするが、敵の矢が尽きてきたら更に前に出る。
その頃になると、ゴブリン兵は俺達に夢中になる。
そこへ側面の軽装歩兵部隊が姿を現した。
そして叫び声を上げるや、軽装歩兵小隊が突撃を始めた。
軽装の革鎧に身を包み、長剣と丸盾を装備した兵士達だ。
これは俺達の圧勝だと、味方の誰もが思ったはずだ。
だがゴブリンの守備隊には隠し玉があった。
突如ゴブリンの前哨基地の上空に、暗雲が立ち込める。
次の瞬間、空に稲妻が走り、轟音と共に雷鎚が地上に落ちた。
その雷鎚は味方の軽装歩兵部隊を黒焦げにする。
さらに天からの雷鎚が二つほど落ちて、味方の軽装歩兵は壊滅的な被害を被った。
もう突撃どころではない。
恐怖が先にくる。
生き残った軽装歩兵は我先にと逃走を始めた。
その雷鎚は俺達の頭上にも落ちた。
物凄い衝撃だった。
一瞬で数人が吹っ飛ばされて黒焦げになった。
だが散解していて軽装歩兵部隊よりは被害が少ない。
しかし俺達の散兵小隊は、見た目が強力そうに見える攻撃に非常に弱い。
散解戦術をとる故に、指揮が行き渡らないからだ。
兵達は勝手に動く為、逃げるのも勝手なのだ。
雷鎚で何人かが逃走を始めると、それを見て次々に戦場を投げ出す者が増えて行く。
総崩れというやつだ。
だが俺はその時、どうにも物足りなかった。
なんたって、俺は無傷なのに撤退とか有り得ない。
どうせなら何か戦利品を持って帰りたい。
大混乱する部隊の中、俺は一人敵陣に向かっていた。
敵陣に近付くと、戦っている味方の兵士が見えた。
ちょっと驚きである。
この状況で逃げない兵士がいるなんて、どんな奴だろうか見てみたい。
近くへ行くと、そいつらは三人の軽装歩兵だった。
俺は興味を引いたこともあり、その三人に混じって戦い始めた。
「加勢する!」
そう言って戦列に入ると、驚いた顔で俺を見て言った。
「お前、散兵小隊だろ。何で逃げないんだ……」
そう言ったのは体格の良い短髪の男で、俺と同じ兵長の階級をつけていた。
「ちょっと懐事情に問題があってな、分かるだろ?」
俺の言葉に他の兵士達も一緒に笑う。
「はははは、理解した。それなら目的は一緒だ!」
しかしゴブリン兵の数が多い。
それに先程の魔法。
どこかにゴブリンシャーマンがいる。
そいつを何とかしないと。
どこにいやがるのか…………
俺は戦いながら探す。
居た!
櫓の下に護衛兵二人と一緒に隠れている。
しかしゴブリンシャーマンは俺と目が合うと、護衛のゴブリンに何か指示を出した。
すると護衛ゴブリンの1人が弓を構える。
それを確認した俺は走り出す。
するとゴブリンシャーマンが印を組み、詠唱を始めた。
魔法を使う者は敵でも味方でも、今まで何人も見てきた。
しかし印を組む姿は初めてだ。
ゴブリンシャーマンは魔法を発動させると、ゴブリンが構えている弓の矢の周囲に3本、新たな魔法の矢が浮かび上がった。
ゴブリンが矢を放つと、全部で4本の矢が俺に迫る。
俺は寸での所で地面に伏せて矢を避ける。
―――――否、避け切れない!
避けた筈の矢3本が、軌道を変えたのだ。
マジックアローという魔法の矢が3本だ。
俺は寝転びながら剣で矢を弾く。
しかし弾いたのは1本だけ。
残り2本の魔法矢が、俺の肩口と左脚に突き刺さる。
「この程度で……」
歯を食いしばって立ち上がり、足を引きずる様にして尚も前へ進む。
ゴブリンの矢が飛んでくるが、魔法が掛かっていなければ、当たりはしない。
俺に気が付いた他のゴブリン兵が、こちらに走り寄る。
そこで急に肩が軽くなった。
男が俺に肩を貸してくれていた。
軽装歩兵の短髪の男だ。
「よせっ、お前もやられるぞ!」
そう言って振りほどこうとするが、男の力はかなりのもので、俺の肩をがっちりホールドしている。
そして近付くゴブリン兵を斬り倒しながら言った。
「おい、おい、お宝の独り占めは良くないぜ?」
短髪男は俺をゴブリンシャーマンの所へ連れて行ってくれるらしい。
後少しの所で、ゴブリンシャーマンがまたしても印を組みだす。
だが俺はそれをさせるつもりはない。
「肩、助かったぜ。後は俺に―――」
そう言って短髪男から離れると、地面に落ちていた短槍を広い、大きく振りかぶった。
「――――任せろ!」
気合いと共に短槍を投げ放つ。
短槍は狙い違わずゴブリンシャーマンの胸を射貫く。
「ギャッ」
ゴブリンシャーマンは一撃で地に伏した。
短髪男が「ヒュ〜」と口を鳴らす。
ゴブリンシャーマンが倒されたと分かると、残ったゴブリン兵は我先にと逃げ出し始めた。
短髪男が俺に話し掛けてくる。
「名前聞いても良いか」
「ああ、ボルフだよ」
「俺はマニーラットだ」
そう言って手を伸ばしてきた。
一瞬意味が分からなかったが、直ぐに理解して、その出された手を握った。
「よろしくな」
「こっちこそな」
その後マニーラットとは長きに渡り戦場を共に生き延び、俺の唯一の友人となる。
これが俺とマニーラットとの出会いの話だ。




