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【本編完結】 少女クロスボウ小隊〜部隊を率いたのは魔を狩る者と恐れられた男だった〜  作者: 犬尾剣聖


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189 狼の聖地


最終話です!

ちょっと長いです。







 


 吸血剣から俺へと、力のみなもとのようなエネルギーが流れてくる。

 前に俺の傷を癒すために貰った時と同じあの力だ。

 活力がみなぎってくる。

 俺が元気百倍となったところで吸血剣が告げた。


――良し、そいつに噛みつけ


 噛みつくのか?


――そうだ、どこでも良いから早くしろ


 そ、そうか、分かった。


 俺はメイケの小さな手を自分の口元へと持ってくると、貴族令嬢の手にキスをするような恰好で指の根元に軽く歯を喰い込ませた。


 俺からメイケの中へと何かが流れていくのがわかる。

 すると死んだ様になっていたメイケの身体がビクン、ビクンと脈打つ。

 そして今度はどういう訳かメイケの血液が、俺を介して吸血剣へと流れていく。


 どういうことか疑問に思うが、今はメイケを救うと言う吸血剣の言うことを信じるしかない。

 俺は気にしないようにつとめ、指示に従う。


――もう大丈夫だ、上手くいったようだな


 その言葉でやっと俺はメイケの手から口を離した。


 メイケの様子を見ると、吸血剣の言葉通り血色が徐々に戻ってきているようだ。

 さっきまでは死人の様に真っ青だった顔色が、今や朱色にまでなってきた。


 そして、突然メイケのまぶたが開いた。


「……あ、れ……私、どうしちゃったんです……か?」


「メイケ、俺だ。わかるか!」


 少女達から感嘆の声や歓声が上がる。


「……ボルフ、隊長?」


「ああ、そうだ。よかった、本当によかった……」


 思わず眼がしらが熱くなるが、必死に笑顔を保つ。


 するとメイケの手が俺の顔へと伸びてきた。

 柔らかな小さな手が俺の(ほほ)を撫でる。


「……ボルフ隊長、もしかして……泣いてます?」


「ば、ばか言ってんじゃねぇ。俺が泣く訳ないだろ」


 俺はそう言って、袖で目をこすった。

 そこで気が付く。

 どうやらまたしても俺は泣いてしまったようだ。


 俺は照れ隠しをする様にその場で立ち上がると、周囲を見まわしながら声を上げた。


「他に、他に重傷者はいないか!」


 すると重傷者はいるが命が危ない者はいないようだ。

 というのもフェイ・ロー伍長と一緒に来た者の中に、高価なポーションを持っている少女がいたからだ。

 高価といっても中級ポーションだが、それを個人で幾つも持っている兵士など貴族くらいなもんだ。

 そう、その貴族とはホッホ曹長で、ポーションは彼女の私物である。

 そもそもホッホ曹長は負傷でロックヒルへ下がれと命令したんだが、ポーションを自分に使って直ぐに戻って来たらしい。

 どうやら彼女も小隊に対しての思いが募ってきたようだ。

 しかも、持っているポーションを全て小隊に提供したそうだ。


 馬鹿な奴だ……


 しかし、おかげで死なずに済んだ少女が多数いる。


 捕虜だった少女達も解放され、治療も進んだところでホッホ曹長に点呼を取らせた。

 結果を聞くのが恐ろしい。


「ボルフ小隊長、点呼の結果、八名の死者です……残念です」


 なんてことだ。

 八名も死なせてしまったのか。


 周囲を見まわすと、少女達は消沈している。

 こんなに死傷者を出したのは初めての事だ。


 一応だが仇はとった。

 小隊の皆は良くやったと褒めてやりたい。

 小隊の誰もが傷付いている。

 もう、終わりにしてやりたい。


 だが敵である魔族が目の前に多数いる現実。

 

 その魔族はと言うと、少女達の外側をぐるりと取り囲んでいる。

 しかし武器は持っているが攻撃する意思はないように見える。

 そう言えば魔族の社会ではより強い個体が他の者の上に立つと聞いた。

 もしかして……


『ゴブリン兵、戦場の死体を片付けろ』


 魔族語でそう言うと、ゴブリン兵らがすごすごと動き出した。

 死体を片付け始めたのだ。


 少女達もそれを驚いた表情で見ている。


 マクロン伍長がつぶやく。


「ボルフ隊長、あなたはいったい……」


 そう、俺は悪魔を宿す身体。

 つまり魔族の崇拝する神が俺の中にいるってことだ。

 そうなると俺は人族の部類から外れることになる。


 早い話、俺は人類の敵だ。


 その証拠にゴブリン兵が俺の命令に従っている。


 そこへフェイ・ロー伍長が一歩前へと歩み出て、俺の前に立って口を開く。


「少しばかり時間を貰ってすまなかった。しかしじゃな、収穫はあったのじゃ。色々と調べて分かった事があるのじゃ。お主はもう解かっているとは思うがのう、悪魔憑あくまつきのことじゃ」


 これだけ人前で力を見せつけてしまったのだし、バレてもおかしくは無いか。

 俺は観念して自ら口を開いた。


「そうだ、俺の中には悪魔がいるらしい」


「やはりそうなのじゃな。それとその魔剣じゃがのう、それもそうなんじゃろ?」


 デーモン・ソードだな。


「ああ」


 フェイ・ロー伍長が神妙な顔つきでしばし地面を見つめる。

 沈黙が流れる。

 そして突然顔を上げて口を開く。


「ボルフ兵曹長、ここから逃げるのじゃ」


 わかってはいた。

 この身体では人族の中で生活できない。

 間違いなく宗教裁判に掛けられて火あぶりだ。


 そこでハッとしてメイケを見た。


 “眷属けんぞく”と言う言葉を思い出す。


 そうだ、吸血剣はメイケを眷属けんぞくにすると言った。

 つまりメイケも人族ではない……


 くそ、何てことしてしまったんだ、俺は!

 

 メイケが不思議そうに俺を見つめる。

 その目は赤い。

 やはり人族では無くなっている。


 俺は取り返しのつかないことをしてしまった。


「メイケ、すまない……」


 当のメイケは何のことか解からずオロオロするばかり。


 俺はフラフラとメイケの所へと歩いて行き、目の前に来たところでギュッと彼女を抱きしめてしまった。


「……え、え、えっと……これって夢?」


 メイケは俺の背の高さに合わせようと、必死に背伸びをしている。

 そこへすかさずアカサが大きな声を上げる。


「ああ~! ずっるいわ~、それっ」


 周囲の騒ぎなど気にせず、俺はメイケの耳元で言葉をかけた。


「すまない。命の代償として、メイケを魔族にしてしまった』


 初めに反応したのはフェイ・ロー伍長だった。


「お主、まさか、その吸血剣で……いや、そんなあり得ないのじゃ。魔剣の状態でそこまで力を発揮できるものなのか……」


 この魔剣は成長するからな。

 だが今は俺が奴を支配している。

 逆に俺がこれを手放したら危険な存在になるだろう。

 だから手放すという選択肢はない。


 俺は覚悟を決めた。


「第一ワルキューレ小隊の皆、聞いてくれ」


 俺が話を切り出すとザワつきが止まり、座り込んでいた少女達も立ち上がる。

 起き上がれない者も上半身だけでも起こして俺を見ている。


 少女らを一度見わたした後、俺は再び話を続ける。


「俺の中には悪魔が宿っている。皆が悪魔憑あくまつきっていうあれだ。どうやらそれは迷信ではなかったってことだ。それでどうなるかと言えば、俺は人族の中ではいられない。間違いなく討伐隊が出て来るだろう。だから俺は隊を離れる。そして人がいない場所で暮らすことにする。ペルル男爵には俺は死んだと報告してくれ。俺は二度と人前には姿を現さない」


「待ってくださいって、そんな事しなくてもちゃんと説明すれば解ってくれますって。少なくてもペルル男爵やワルキューレ部隊の皆は味方ですよ」


 そう言って来たのはサリサ伍長だ。

 続いてアカサが追随する。


「そう、ボルフ隊長一人で決めつけないでくださいよ。話せばわかりますって」


 だがそれを否定するようにマクロン伍長。


「でも全員が理解するとも思えないわよね……」


 そしてフェイ・ロー伍長がそれを決定づけた。


「例え、貴族の大半がそれを許したとしてもじゃ。教会が許さないと思うのじゃ。そうなるともう王族でも止められん。悪魔を人族の中で野放しにするほど教会は甘くないのじゃ」


 そこでミイニャ伍長が何か言いたげに俺を見つめている。

 いつもこういう場面だったら、必ず何か変な事を言ってくる彼女にしては珍しい。

 ならばこっちから冗談でも飛ばしてやろうか。


「ミイニャ伍長、俺が人族から離れてもな、焼きモロコスの賞品に釣られて俺を討伐しに来るなよ」


「……ダメにゃ、そんな……にゃ」


 ミイニャ伍長が何かモゴモゴと言っているがよく聞き取れない。


「ミイニャ伍長、皆に迷惑かけるなよ」


 するとミイニャ伍長が突然号泣し始めた。


「行っちゃダメにゃ~、うわあああ、ボルフにゃんが居なくなったら誰がおごってくれるんにゃ~、いやにゃ、どこにも行かないでにゃ~~、ふにゃあああっ」


 泣きながら俺の足にまとわりついてくる。

 思えば野良猫のように名前もなく路地裏で暮らしていたんだっけな。

 ミイニャって名付けたのも俺だしな。

 懐かしいな。

 あの時に比べたらミイニャも成長したもんだが、今はまるで駄々っ子だ。


「ああ、そうだ。メイケ、お前はどうする。さっきも言った通り人族から見たら魔族になる。一緒に来るか、それともそれを隠して皆と残る――」


「一緒に行きます!」


「お、おう」


 メイケの奴、何かはっきりしゃべったな。

 しかも即答だ。


 するとアカサがしゃしゃり出て来た。


「わたし、私も行く。ね、ね、いいでしょ?」


「ふにゃああ、いっちゃダメにゃあっっ~~」


 うるさくて会話できないじゃねえかよ、ったく。

 引き続きミイニャは俺の足にすがっている、


「アカサ、お前が何で一緒に行くんだ、意味ないだろ」


 そうは言ったがその言葉は非常に嬉しい。

 こんな俺でも一緒に来たいと言ってくれるその気持ちがだ。

 あ、ミイニャもうれしいぞ、言わないけど。


「私も行くにゃ~、連れてってにゃ~」


 にゃ~にゃ~とまるで仔猫だな……


「ミイニャ、お前はムードメーカーだ。小隊を明るくするのが役目だろ、だからいつまでも泣くな」


 そこでフェイ・ロー伍長が言ってきた。


「すまんな。べ、別に、お、追い出したい訳じゃないの、じゃ。本当は、残って、欲しいーー」


 そこまで言って言葉に詰まり、顔を背け肩を震わすフェイ・ロー伍長。


 涙を見せたくないようだ。


「皆、元気に暮らせよ。あ、そうだ、ゴブリン兵達は俺達が連れて行くな。人族領内には入らないから問題ないだろう」


 俺はそう言って魔族達に旅の準備をさせる。


 黒砦の倉庫には食糧や武器などが無傷で残っていたので、それは有効利用させてもらう。

 カートやワゴンも多数あったので、荷物はそれらに載せていく。

 その作業はすべて魔族兵がやってくれた。

 魔物の狼も多数いるから牽引も楽だ。


 こうして俺はまさかの魔族達と一緒に旅立つことになった。


 ここは危険だと言うのに中々立ち去らない少女達。

 俺達を見送りたいという。

 

 そして準備が整い、いよいよ出発という時だった。


 ウサ耳の獣人が前に出る。

 サリサ伍長だ。


 何か言いたげだが、涙を(こら)えるのに必死で言葉にならないのが丸わかりだ。

 ただ俺はそれに対して手を振りながら答えた。


「頼む、最後は笑顔で別れてくれるか」


 するとサリサ伍長は号泣を始めた。

 そして言葉の変わりに地面を「ダンダン」と力強く蹴る。


 するとサリサ伍長の足ダンに呼応するかのように、一人また一人と足ダンの数が増えていく。


 この我が小隊特有の儀式の「足ダン」も見納めか。


 メイケはすでに号泣だったが、遂には小隊の全員が泣き出した。

 それでも足ダンは止まない。


 あのフェイ・ロー伍長までが子供の様に泣きじゃくっていて、まるで駄々をこねる子供のように地面を蹴っている。


 ゴブリン共はそれを不思議そうに見ていた。


 俺達はその足ダンに見送られながら黒砦を発った。


 笑顔で別れるつもりが涙の別れになってしまったな。


 俺は振り返るのを我慢しながら歩を進めた。


 振り返ったら後悔しそうだから。






 足ダンはボルフ達の姿が見えなくなっても、しばらく続いていたという。

 それに加えて「にゃ~」という叫び声もずっと響いていた。


 第一ワルキューレ小隊の生き残りはその後、ボルフやメイケを含めた戦死者の報告を上官に伝えた。

 その時、ペルル男爵やロミー中尉は驚愕きょうがくの表情をしたという。

 だが、タルヤ准尉だけは「ふふ~ん」と言ってほくそ笑んだ。


 その後ボルフは自らの死と引き換えに黒砦を陥落させた英雄として、国王からナイトの爵位が授爵された。

 平民が授爵するのはこれが初めてのことで、王都周辺の街では大きな話題となった。


 ただし黒砦の攻略を境に人族の快進撃は止まってしまい、両軍とも再び膠着こうちゃく状態となった。

 そして両軍の支配地域の間には再び、広範囲の緩衝(かんしょう)地帯が発生する。

 それは以前あったものよりもずっと広大だ。

 

 そして最近になってその緩衝(かんしょう)地帯で、悪魔が魔族と戦闘をしているという噂が流れるようになる。

 また「あれは神々の戦争だから人族が干渉してはならない」と言う者まで現れた。


 それからしばらくして、第一ワルキューレ小隊は解散した。

 理由は定かではないが戦闘での負傷や精神障害で兵士数が激減して、小隊を維持できなくなったからだという。


 そして退役した少女達は退役後すぐに行方が分からくなり、街で話題になるもすぐにそんな話は忘れられた。


 だがその後になって、変なも目撃情報が流れるようになった。

 ある者は緩衝かんしょう地帯で少女を見たとか、狼にまたがるウサ耳少女を見たとか、木の上を走る猫人を見たとか、噂だけは絶えなかったがそれが証明されることはなかったという。


 そして緩衝かんしょう地帯には、行先の分からない荷物を送り届ける密輸マフィアがいるらしいという噂まで流れだし、役人たちが躍起になってそのグループを探し始めるが、そもそもその地帯には狼の群れがいるらしく、役人達は被害を恐れて奥まで踏み込むことはなかった。

 無理に奥に行こうとすると黒い霧が発生し、狼の群れが現れると言う。

 だが不思議なことに負傷者は一切出なかった。


 そんなことからこの一帯の緩衝かんしょう地帯だけは、どちらの軍も避けて通るようになる。


 そして現在、その地帯は『狼の聖地』として誰も入って行かない。





 









  ――完――




















11か月にわたり連載したきました「少女クロスボウ小隊」は今回で最終回となりました。

応援してくれた皆様、本当にありがとうございました。

最終話に向かうにつれ徐々にブックマークが減って焦りましたが、気にせずに最終話に突入しました。

最後はちょっと駆け足気味でしたが、なんとか最後まで書き上げられました。

誤字脱字職人の皆様にも感謝です。


それと最終話まで読んでしまったあなた、ポイントなど温存しているあなたですよ、ここはドーンと評価ポイントなど入れてみてはいかがでしょうか。

ついでにブックマークも!


それでは最終話フィーバーを楽しみにしていますw




もしかして後日談などの話もアップするかもです。






それでは次回の新作小説でお会いしましょう!










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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様でした とても楽しい時間をありがとうございました。
[一言] 完結お疲れ様でした。作品の連載を楽しみにしてました。 可能なら番外編で後日談も読みたいです。
[一言] お疲れ様でした。今日までありがとうございました
感想一覧
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