世界の常識とうちの家庭事情の話
「えーと、忘れ物はないっと」
朝の時間、ごはんの前に今日の持ち物チェックをする。え?前日にやっとけって?ふふん、俺は前日に準備して朝起きてからもう一度確認する派なのだ。
「かずくーん? はやくごはん食べちゃいなさーい」
はいはーい。
お母さんの声に返事して鞄片手に台所に行けばそこには美味しそうな朝ごはんと今日もニコニコと良い笑顔なお母さんの姿。
「おはようかずくん」
「お母さんおーはよ」
今日の朝ごはんは焼いた食パンとコーンポタージュ、それに目玉焼きとベーコン、それにサラダが少々。
なんという理想的な朝食。毎朝毎朝お母さんには感謝しかない。
「いただきます」
パンを半分にちぎって片方をコーンポタージュにつけて食べるのがマイブーム。うん、ほどよくコーンポタージュの味がパンに染み込んでおいしい。
パンを一口食べてコーンポタージュをごくり。なんと朝から贅沢なのだろうか。
これぞ実家住まいの特権だ。そんなことを考えながら食べ進めるとあっという間にコーンポタージュはなくなった。儚い。
もう半分のパンにベーコンと卵を挟んでかじっていると不意に頭部に柔らかい感触。お母さんだ。具体的にいうとお母さんの胸部装甲だ。
ああー、マザコンになる。実の親だから性的なあれは無いんだけど柔くて温かくて癒し効果が半端ない。
とはいえもう高校生なので恥ずかしさもある。そう思って一度やめてほしいと言ったことがあるのだがこれは義務だからと拒否されてしまった。つか義務ってなに?怖・・・。
「ねえかずくん、好きな人できた?」
「お母さんそれ年頃の男の子にとってはデリケートな話」
「やっぱり恥ずかしい? ごめんねー?」
ちなみにうちは母子家庭である。今時珍しくない、というかこの世界では基本男は男が好きなので大抵離婚する。ちゃんと夫婦やってるのなんて10組に1組いれば多い方だ。
うちも父親が俺が産まれる少し前くらいに「俺は愛に生きる!」とか言って職場の同僚(男)とどっか行ったらしい。死ね。人に迷惑かけてなにが愛だ。
というかゆるふわ天然系美人であるお母さんを捨てるとか父親はホモかよ。ホモだったわ。
「でも・・・まさか男の子のこと好きになっちゃってたりは・・・」
「ないです」
あなたの息子は女好きですから!・・・いやそれもどうだ?
「でも心配だわぁ。 かずくんはとても良い子だから。 その気がなくても無理矢理なんてされちゃったら・・・」
それ洒落にならないですお母様。そういう事件たまにあるから困る。
だから鞄の中には防犯グッズを忍ばせているんだよね。まだ未使用なのはとても良いことだ。
お母さんは男が男と恋愛することを良く思っていない。というか世の女性の大半はそうなのではないか。
誰が好き好んで子供を産んだら捨てられる人生を望むというのか。その辺ほんと歪な世界である。
子を残すのは義務で、義務を果たしたら後は知らん顔。世の中にはそんな人間が溢れてる。反吐が出る。
さて、俺の心の闇は置いといてそろそろ学校の時間だ。行かなくちゃ。
「それじゃお母さん、そろそろ学校いってくるね」
「ええ、気をつけてね」
「いってきまーす」
鞄をつけっぱなしのテレビがニュースを流してくる。
『昨今、世界中で少子化が問題となっており・・・』
最近こんなニュースが多い。世界中でBLってるんだから妥当であるけど。
人口減少で人類滅亡ルートかな?そんなことを思いながら玄関のドアを開けるのだった。
いつものごとく真と合流して学校へ向かう。
道すがら話すのは昨日見たテレビのことだったり学校で出された課題のことだったり。
だけど今日は少し違う話題を振ってみた。
「それでお前はどうしたいんだよ?」
ニュースでやってた昨今の少子化について聞いたらこう言われた。
「どうしたい、と言われてもしょーじき難しいよね。 当たり前だけど俺一人にできることなんて少ないし」
声をあげることに意味があると言う人もいるだろうが俺が気にしているのはこの世界の常識である。
言わずもがな、常識を変えるというのは非常に難しい。当たり前のことを常識と言うのだから当然だ。
たとえ俺が「男と男が好き合うのはおかしいから男女で恋愛しましょう」と言っても返ってくるのは「何言ってんだこいつ」的な反応なのは間違いない。
この場合、おかしいのは俺の方なのだ。
そもそも俺が女好きなのも男と男が恋愛することに疑問を抱いているのも前世の記憶や常識によるものが大きいからだし。
「テレビでいくら「少子化が問題になってます」って言ってても対策を立てる人はいないもの。 みんなにとっては男は男と好き合うのが普通なんだろうからね」
その辺の認識についてはもう諦めてる。だからこそ目をつけられないようにしてるわけだし。
「でもさ、女の人は捨てられて当たり前っていうのはおかしいと思うんだよね。 同じ人間なのになんでそこに差があるのかな?」
「それは・・・そうだけどよ」
「どうも変に感じるんだよねえ」
うーむ、改めて考えてみるとこの世界俺と女の人に厳しいな。それこそあからさまに。
・・・いや待てよ?ここまで女の人不遇ならナンパとかできるのでは?昨今女の人に自分から声をかける男なんていないわけだし。
おお、正直知らない人に話しかけるとか緊張しすぎて吐きそうだけどやる価値はあるのではないか。
うまくやればお母さんに孫を抱かせることができるのでは!・・・思考が飛躍した感がある。
そんなこんな話してたり考えているうちに学校が近づいてきた。
おや?あれは・・・。
「あ、桜井だ」
昨日話してる途中で突然現れたイケメンに拐われた桜井聖がいた。
「・・・お前、あいつと知り合いなのか?」
「ん? クラスメートだよ。 というか真も桜井と友達系?」
この友達の友達が友達だった時の少し微妙な気分はなんなんだろうね。
それはともかく桜井とは結局あのあとは話す機会がなかったからな。挨拶でも・・・と思ったら走ってきたショタい人―――たしか上級生だった気がする―に飛びかかられてる。
あいつ色んな人に好かれてるんだなあ。(目そらし)
「あのバカ、何やってんだ・・・」
目をそらした先には頭痛を堪えるように頭に手を当てている真の姿。
もしやあの先輩とも友達かい?・・・あの、俺が言えたことじゃないけど友達は選んだほうが・・・。
あらためて桜井の方を見ればショタ先輩に好き好きオーラ出されたり抱きつかれたりしている。
これはひどい。朝から見る光景ではない。
そして桜井もショタ先輩の好き好きオーラを素でスルーしてるあたりひどい。鈍感系主人公か君は。
とりあえずこれはあれだ。関わりたくない。
「ねえ真、進路の迂回を進言したいんだけども」
「採用だ。 知り合いと思われたくねえ」
そういうことになった。
「あの、真? ほんと・・・友達のこととかで悩みがあったら言ってね? ほら、話聞くぐらいはできるから・・・」
「ま、真顔で言うんじゃねえ。 不安になるだろ・・・」