第七節 ヤンデレな転校生
ドアの方を向くとそこには今日転校してきたアリーシャス・ニューソルディアがいた。
「どうしたんだニューソルディアさん、もうてっきり帰ったかと」
「い、いえ……お昼休みに案内してもらえなかったので、学校の案内を頼んでもよろしいでしょうか?」
そういえば朝、せりか先生がそんな事を言っていたな、と思い出した俺は、直ぐに了承した。
「わかった、それじゃあ行くか」
「はい!紫咲さん、ありがとうございます!」
元気よく笑みを浮かべるニューソルディア。
流石に時間も遅いので高等部の校舎だけ、次回中等部、大学部やグランドなどの案内すると言う事で食堂、保健室、音楽室―――――と沢山の教室を一階から上に上がっていきつつ紹介していく。それらをニューソルディアは興味深そうに眺めて、楽しそうに見て回っていた。
純粋な子だなあとまるでお爺ちゃんの様な感想を抱き、最後に俺たちは屋上へと来た。
この学校は屋上の解放されている学校だ。現在の時刻は五時過ぎ、四月と言ってもまだ肌寒く段々と暗くなっている。だがその分夕日が綺麗に見える。
…ん?屋上?何か忘れているような…
「わあ、風が気持ち良いです‼見晴らしも良いですし、何よりこの学院の広さを改めて感じられます」
「そうだな。確かにこの学院は広いが、広いだけじゃなくて設備もとても充実しているしな」
ニューソルディアの言う通り、改めてこの学院の広さを感じる。
サッカーコートではサッカー部が練習やミニゲームなど、野球場では野球がランニングやキャッチボールなど、他の運動部も精を出していた。
「良い学院ですね」
「ああ、そうだな」
感慨深そうに呟いたニューソルディアは、柵の外へ向けていた体をくるりと回して、夕日をバックに内側にいた俺へと向く。夕日に当てられ煌めく金髪を風に遊ばせ、その風からニューソルディアの甘い香りが俺の鼻孔をくすぐる。
そして笑みを浮かべながら彼女は口を開く。
「ありがとうございました!榊修斗さん!」
「ん。どういたしまして―――――え?」
驚きで、体が硬直する。
何事もないかのように、当然のように微笑むニューソルディア。彼女は固まった俺をじっと可笑しそうに微笑みながら見つめて、そしてゆっくりと口を開いた。
「忘れてると思った?修斗。忘れるわけがないじゃない、貴方の事を」
突然変わる口調。
雰囲気が、一瞬でがらりと塗り替えられる。
ぴりっとした緊張感を孕む、妖しく危険な空気。それを纏ったニューソルディアは、昼間の様などこまでも青く澄み切った湖の様な瞳ではなく。濁っていながらも魔性を秘めたサファイアの様に美しい瞳で俺を見据えた。
「修斗……ずっと会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった」
そして、光を失った瞳で暗く呟き続けるアリーシャス・ニューソルディアを見て。
俺は一人、心の中で叫ぶ。
また厄介ごとか‼
変化した空気に、息が詰まる。
心の中で叫んだ俺は、ハイライトが無くなったニューソルディアから少し後ずさる。俺の後ろには屋上の扉がある、この状況から俺は一刻も早く脱出したいのだが。
「……どこ行くの、修斗?」
どうやらニューソルディアが許してくれないらしい。
「ずっとずっとずっと貴方の事を考えて、この日を待ってたのに。ねえ、覚えてる?私の事。また昔みたいにアリスって呼んで。もしかして覚えてないかな?ううん、怒らないわよ。忘れてても仕方ないもの。……昔だもん。それにあの日の私とは似てもつかないもの。でも、あの日から、あの日からずっと‼ 貴方に会うためだけに努力して来た。勉強して日本語を覚えてスタイルも良くしようと頑張ったんだよ?」
すまない、覚えてないです。
ニューソルディア改めアリスの口調からして、どうやら俺達は昔、会った事があるらしい。
俺の昔の記憶とかは濃いことが多すぎて殆どわからない。
「胸は、あの事もあったけど遺伝のお陰で更に大きくなったし、自分で言うのも何だけど料理も勉強も運動も出来る」
だから、とアリスは告げる。
「ずっと――――私の傍で私だけを見て私だけの為に私と一緒に私と生きて私と死んでくれるわよね?」
…どうすんだこの状況
怖い、はっきり言って怖い。今まで感じたことのない恐怖だがここで逃げるわけにはいかない。
「手紙を出したのはアリスなのか?」
「手紙?何のことかはわからないけど、まさか修斗が隣のクラスの天月美香さんだったかしら、その子に告白されたと聞いてとっても焦ったわ」
「何故このタイミングで告白したんだ?俺が天月に告白されたのは知っていたなら?」
「だからよ。さっきも言ったでしょ修斗、貴方は私だけを見て私だけを愛せばいいの」
やっぱり女の思考回路はわからん。だがこれだけはわかる。アリスは俺を1人占めしようとしている。天月や草凪以上に
天月や草凪を振って死ぬときまでずっと一緒にいろと言うことだろう。
「で、どうなの?やっぱり私を選ぶわよね?」
「落ち着けって‼」
俺はアリスを落ち着かせるために大声で突っ込む。
「そんなに直ぐに答えが出せるわけがないだろう。それにまだ色々と…」
「色々って…天月さんの事?」
「ああ、放置ってわけにもいかないだろ」
「……そう…。やっぱり私より天月さんを選ぶのね…」
そう小さく呟いたアリスはゆらりと俺に近づいていや、俺の後ろにあるドアの方へ向かう。
「ん?何処へ…」
「天月さんの所…」
天月の所?もしかして潔く諦めてくれたのか。それならとても嬉しいな……、いやじゃあ何でわざわざ天月の所に行くんだ?
「…今から天月さんを殺して、そして修斗一緒に死にましょう」
「待て待て待て!落ち着け!早まるな!」
「修斗……なら一緒に天月さんを殺して逝てくれるの?」
「行くか!それに字が違う!もう俺は人を殺さないし、誰が喜んで地獄に一緒に駆け落ち何てするんだ!」
「…やっぱり天月さんと付き合うのね…行ってくるわね…地獄の底だろうと一緒にいるわ」
「おいマジでやめろぉ!まだ天月と付き合うって訳じゃ――――」
「本当!」
アリスの虚ろな瞳に僅かな光がともった。良かった。これで何事もなく……
「それじゃあ、私と付き合ってくれるのね」
「おい待て、何故そうなる。それに直ぐに答えが出せるわけ無いだろ。時間をくれ!」
アリスはハイライトの無い瞳で俺を見つめる。しかしアリスは何もしなかった。
「……絶対、絶対修斗を私の物にしますから……。覚悟してくださいね……?」
その『覚悟してくださいね』は、俺へのアプローチが激しくなるという意味なのか、それとも別の意味があったのだろうか。
やがて、アイリスは屋上から去り行く際に俺の耳へ『愛してますよ』と囁いて行った。
「……どういう事だ……」
何なんだ今日は!厄介日か!アリスってあんなカオスな子だっけ!素直で優しい子じゃないのか!
「…もう嫌だ…もう帰りたいな、だけど手紙が…」
草凪の告白で忘れそうになったが俺は後三通の手紙がある。その中の一通、万年筆で書かれた異様な殺気の付いた手紙の指定場所は屋上だ。だがアリスは手紙の事を知らなかった。と言う事は…
俺が後ろを振り向くとそこには、たぶん手紙で呼び出した人物が立っていた。
「屋上で待っていたら、まさか他の女の子に先を越されるなんてビックリしました。いえ一番ビックリしてるのは修斗さんの方ですよね。」
そこにいたのは、世界をまたにかける大女優ガブリエル・ルシフォードだった。
「違いますか、元天獄:熾天使、序列第一位ルシフェル・ルシファー」




