第2節:赤い禁断症状
限界でした 。
村から逃げてきてから三日 。まともな食事も摂らず、不眠不休で「鉄の騎士」を引きずり続けているのです 。
膝から力が抜け、私は熱い砂の上へと崩れ落ちました 。
「ぅ……」
受け身も取れず、頬を砂利に打ち付けます 。
視界が黒い斑点で埋め尽くされ、遠くで耳鳴りがしていました 。
空腹と渇きで、内臓がねじ切れるような感覚 。
(でも、水は飲めない)
なら、どうする?
答えは、私の身体の中にありました 。
私は震える手で腰のナイフを抜き、自分の指先へ押し当てました 。
スッ、と刃を走らせると、ぷくりと赤い雫が浮かび上がります 。
灰色だらけの世界で、それだけが刺すように赤い。「命」の色 。
私はその指を口に含み、強く吸いました 。
鉄錆のような味が、舌の上に広がります 。
以前よりも、味が濃い気がしました 。それに、色も……記憶の中にある鮮やかな赤より、どこか黒く黒く濁っているような 。
(……まずい)
けれど、それが喉を通って胃に落ちた瞬間、カッと灼熱のような熱さが体内に灯りました 。
私の「色」が、私の中で循環する 。
尽きかけた命に、無理やり火をくべ直すような、歪で危うい全能感 。
けれど、それは新しく増えた命じゃない 。
自分の中の残りカスを、無理やりかき集めて燃やし直しているだけだ――そう、どこかで分かっているのに 。
ふと見ると、血を舐めとった指先が、ありえないほど白く変色していました 。
……いいえ、白いだけではありません 。まるで蝋細工のように、骨が透けて見えるほど透明になっているのです 。
「……なに、これ……?」
テオの時と、同じだ 。
「……また、透けてる」
他人にあげた時だけじゃない 。自分で自分の色を回しただけでも、こうなるの? まるで「色」に触れるたび、私という存在の輪郭が削り取られていくみたい 。
ドクン。
心臓が早鐘を打ちました 。
右手の「痣」が、ミチリ――裂けるような音を立てて脈打ちます 。
手首から痣が、ゆっくりと皮膚の内側を這い上がっていく 。袖を捲り上げなくても分かります 。
「色」を使うたび、「黒」が警告してくる 。
自分で自分の命を削り、その削りカスを燃やして足を動かす 。
それは、止まれば死に、進んでも死ぬ道でした 。
「はぁ……あぁ……」
荒い息を吐きながら、私は立ち上がりました 。




