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魔女は直したい。 〜動かなくなった鉄塊(あなた)と明日を迎えるため、私は世界を塗り替える〜  作者: wattamen
2章 砂の海の迷い子

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第1節:軋む鉄、乾く喉

キィ、キィ、キィ。

 世界には今、この音しか存在しないかのようでした。

 私の背丈の倍はある巨大な鉄の騎士を乗せ、古びた台車が悲鳴を上げています。


「……はぁ、……はっ」


 喉の奥が張り付いて、呼吸をするたびに紙ヤスリで擦られたような痛みが走ります。

 空は相変わらずの鉛色。太陽さえも白濁したシミのように滲んでいるのに、熱気だけが肌を焦がします。

 肩に食い込む革ベルトの下は、もう皮がめくれて血が滲んでいるはずです。けれど、不思議と痛みはありませんでした。

 この重みだけが、私がまだ生きているという証拠。

 そして、後ろに彼がいるという、唯一の安らぎだったからです。

 私は一度足を止め、震える膝に手を置きました。

 振り返ると、アイゼンが、砂塗(すなまみ)れになって鎮座しています。

 動かず、喋らず、ただそこに在るだけの、圧倒的な質量。

 そっと、その足先の装甲に触れてみました。


「……っ、熱っ」


 火傷しそうなほどの熱さです。

 かつてはひんやりと冷たくて、私の熱を冷ましてくれた鉄の肌。今は、この過酷な太陽の熱を溜め込み、触れることさえ拒絶しているようでした。


「ごめんね、アイゼン。……暑いよね」


 私は水筒の口を開けようとして――指が止まりました。

 中を振ると、チャプ、とあまりに軽い音がします。

(残りはあと……半分あるかな……)

 次の街まで、あとどれくらいかかるかわかりません。ここで私がこれを飲んでしまえば、もしもの時にアイゼンの軋む関節を冷やす水が、なくなってしまう。

 私は、渇きで張り付いた喉を無理やり鳴らして、水筒を閉じました。

 その時、ふと、視界が揺らぎました。

 暑さのせいだけではありません。頭の奥で、冷たい疑問が鎌首(かまくび)をもたげたのです。

(私は……何をしているんだろう)

 一年前の記憶は、砂嵐のように空白です。

 自分がどこで生まれ、なぜあの廃工房に落ちてきたのか。

 なぜ、村人たちにあんなにも忌み嫌われ、殺されかけなければならなかったのか。

 私には、何一つわかりません。

 名前も、過去も、生きる意味さえも持たない空っぽの私。

 だというのに。


「……アイゼン」


 ただ、この鉄の塊に対してだけは、心臓が痛いほど脈打つのです。

 重い。苦しい。捨ててしまえば楽になれる。

 頭ではそうわかっているのに、指先が強張るほど彼にしがみついている。

 それが「愛」なのか、それとも私に刻み込まれた「呪い」なのかさえ、今の私にはわかりません。


「……でも、いいの」


 私は、誰に向けたわけでもなく呟きました。

 理由なんて、後でいい。

 世界中が私を「訳のわからない化け物」だと拒絶しても――この背中の重みだけは、私を拒絶しないから。

 私は再び、革ベルトを肩に食い込ませました。

 痛みで、思考を塗りつぶすために。


 ギィィィ、と。

 悲鳴のような音を上げて、私の世界(アイゼン)が再び動き出しました。

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