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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
11章:『無色の幸福(モノクローム・ハピネス)』

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第3節:『鉄の心臓』

 その光景は、何の前触れもなく現れました。整然とした灰色の街並みが、定規で線を引いたように唐突に途切れ、その先に鎮座していたのは、圧倒的な質量を持つ「鉄の塊」でした。

 見上げるほどの巨大な壁。そこからは太い血管のようなパイプが何本も伸び、街の地面へと突き刺さっています。ドクン、ドクン、と巨人が地底で眠っているかのような規則正しい脈動が、足裏から伝わってきました。

 扉の隙間から見えたのは、赤黒く燃え盛る巨大な心臓のような炉でした。


『――見なさい。あれが精製炉(せいせいろ)


 ヴィオラさんの声には、嫌悪と、苦い後悔が混ざっているように聞こえました。


『街中の色を吸い上げ、塔の動力源となる「黄金色アウルム」を作り出す搾取装置よ。姉さんの支配の象徴ね』


「じゃあ、アイゼンを直す場所は……」


『もっと奥。……精製炉のさらに深層にあるわ』


 私たちは、施設の深部へと続く重厚な扉の前に立ちました。高さはアイゼンの倍以上。分厚い装甲板が幾重にも重なり、中央には「眼」の形をしたガラス質のパネルが埋め込まれていました。その無機質な瞳は、私たちの価値を値踏みしているかのように、冷たく光を反射しています。


「……おい、これどうやって開けるんだ? 爆破するか?」


『野蛮な真似はやめて。私の認証コードは姉さんに剥奪されているわ。……ここから先は、正規の鍵が必要よ』


「鍵?」


『リア』


 名を呼ばれ、私の後ろに隠れていたリアがびくりと肩を震わせました。


『前に出て、そのパネルに触れてみなさい。大丈夫、痛いことは何もないわ』


「……こわい、よ」


 リアの小さな背中を、私はそっと押しました。


「大丈夫。私がここにいるから」


「……うん」


 リアはおずおずと進み、冷たいガラスパネルに小さな掌を押し当てました。その瞬間、パネルの奥から黄金色の光が溢れ出しました。光はリアの瞳の色と呼応するように輝きを増し、扉の表面に走る幾何学模様を瞬く間に満たしていきます。


『――認証確認。第二鍵セカンド・キー、承認』


 感情のない機械音声が頭上から降ると同時に、地響きのような音が鳴り響きました。プシューッ、と白い蒸気を吐き出しながら、巨大な鉄の扉が左右へ開き始めます。そこから吹き付けてきたのは、油と熱、そしてどこか「血」に似た鉄錆の匂いが混じった、生々しい空気でした。


「うわ、あっつ……」


 ヴェールさんが顔をしかめ、リアが私の元へ駆け戻ってきます。開かれた闇の奥には、天井の見えない広大な空間が広がっていました。無数の機械腕が垂れ下がり、その中心――遥か彼方には、天を衝くようにそびえ立つ、青白い光の「柱」が見えました。それは地下から伸び、遥か頭上の天井を突き抜けて、塔の最上階まで続いているようです。


『ようこそ』


『あれが「純正炉」の基部ボトム。……塔の最上階にある本体まで、血管のように繋がっている魂の循環機関よ』


 ヴィオラさんが静かに告げます。


『そして……かつて私が人類の希望として夢見て――今は姉さんの悪夢に変わってしまった場所』

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