流れていく雲
どうして今代の聖王は成長しないんだ。という声をよそに、少年はぱたぱたと廊下を走っていた。手に持っているのは古びたアクセサリー。本来は消えて無くなるはずのものを彼はぐっと握りこんてから顔を上げる。
廊下を走り抜けて中庭で待っていたのは一人の中年男性だ。筋肉粒々。いろんな所に傷があり、いかにも戦士の風貌をしている。大神殿には似つかわしくないと誰もが眉を顰めたが、フィゼルの進行を物理で退いた人物なので誰も何も言えない。彼はデリアスの英雄でもある。
「クラベル」
「よぉ。相変わらず羨ましいほどにちっこいままだな。セイオー様」
なんてことを言うんだと後ろから追いかけていた侍従が警戒するがアドラーは手で制した。
「そう言えば、大司祭様はいないんか?」
「ぁあ。あれは相変わらず身体が弱いし、僕が嫌いみたいだから。別に必要はないだろう?」
「そ、か。養い子連れてくるって言ったのに……。全く、ガキの頃から鍛えないから。あ、セイオー様もどうだ?」
どうって何が。と言いたくなったが、堪えてアドラーはそわそわとその後ろに控えている少女に目を向けた。蜜色の髪と――目。聖女としか言えない色味を持つ少女はおずおずと少年に礼をする。
聖女を見つけたとは聞いていたけれど。本物ではないことは分かった。『前回』振り回したロゼリアは啓示によって閉じ込められていると言っていたから。まぁそれを良しとはしない性格だとは知っているが――兎も角として。
彼女が聖女の偽物でも本物でもどうでもいいことだ。神に見捨てられたのか、すでにこの国への加護は薄らぎ、アドラーが倒れることも少なくなっている。
アドラーは小さな手を差し出した。少女はぱちぱちと目を瞬かせている。可愛らしい。と単純に思った。
「お名前を聞いても?」
名を聞かれたことが嬉しかったのだろう。ぱっと軽く頬が染まる。
「シャロン――。シャロン・ハーバリストです」
シャロン。は良くある名前だけれど、最近のはやりの名前だった。身一つでフィゼルに向かった外交官として彼女もまた世間で英雄ともてはやされている。
もう帰っては来ないけれど。
感情がゆるゆると戻り始めた今、未だマニフィスへの憎しみは消えない。ただ、それではダメな事を
アドラーは知っていし、前に向かう事しか良しとしないあの少女の顔が思い浮かんだ。
アドラー。
優しげな声が耳元をくすぐる。
「うん。じゃあ。これをあげるね?」
なぜいきなりそうなったのか分からずシャロンは間を丸くしたまま、アクセサリーを手に取っていた。蝶の形をした竹細工のブローチ。その中心には黒と銀を混ぜたような宝石がコロコロと転がっていた。
「ずっと渡したかったんだ」
「ずっと?」
「うん――ずっと待ってた」
さあっと庭の端に植わっている白い花が小さく揺れる。まるで祝福する様に一陣の風が二人の間を抜けていった。
ここ迄付き合っていただいてありがとうございます。
プロットから中身が離れていきましたが、終わりは考え通りに行って良かったと思います。
永遠長々、だらだら書くのはいい加減良く無いなとは思いつつ、精神の方がついて行かなかったのもありましてww
とりあえずまた機会があればよろしくお願いします。
良い年をお過ごしください。




