中間地点
姉は自己犠牲が嫌いだと嘯く。そんなことは間違っているとも。でも、思うのだ。無意識にいつだって自己犠牲をしているのは姉自身なのだと。そのことに姉は気付きもしない。
それが腹立たしかった。
人の為に。自身の為に命を投げ出すなんて、愚かだ。
いつか誰かに言っていた『貴方の代わりはいない』なんて言う姉だって代わりなんてどこにもいないのに。
ここは、何処だろう。
目の前には知らない空間――と言うより鉱山の跡地と言った方が多々しいのだろう。何処までも続きそうな大きな空洞がぽかりと穴を開けていた。いったい私は何処から来たのか――いくら考えても記憶はない。
最後の記憶と言えば……。
必死になってトトの傷を治していた――と思う。少しだけトトの目が開いて笑ったので大丈夫だろうけど。
「私が大丈夫じゃなかったかぁ」
はははは。
と言うことは死んだのかも知れない。まぁ、死んでしまったなら仕方ない。とは思うし、自業自得だなとも思う。
そんなに命はないと言われていたので。
後悔が無いわけではないけれど――。後悔したところで何も変わらないでしょう?
『――』
かわらないよね?
ふと瞼の裏に浮かんだ表情が離れない。必死に叫んで、声がかれる迄必死に泣いて。私はその人にもう『ごめんなさい』一つ言えないのだし。
言えなかったのだし。
……後は生きている人の役割だ。きっと。
未練を振り切るように頭を振った。
「なんにせよ。トトが助かって良かった」
そして王様は呪われてほしい。意味が分からないから。私が、トトが何をしたと言うんだろう。治癒できたからいいものの。下手をすればトトも私も共倒れだ。
まったく――。考えても分からないものは分からないんだけど。
溜息を大きく落としていた。
にしても。死後はお花畑で、知っている人が迎えに来てくれるというけれど。何だろう。このどこまで言っても不気味で暗い空間は。いや、精霊石が等間隔で埋め込まれているために明るいのだけど、なんか違う気がする。
前回のことをよく覚えてないけど、こうだっけ?
おまけに寒いし。死んだままの姿だし。ずるりとスカートの裾が歩くたびに地面を這ったので徐に、力いっぱい破ってみた。
シュガーがいたら目を剥いて走ってきそうだ。ついでにポイ捨ても何となく気が引けたので首回りに巻いてみる。
意外と温かかった。足は剥き出しだけども。プラマイゼロな予感。
……。
とりあえず、後ろに行っていいのか、前に行っていいのか分からない。冷たい風が前から微かに頬を撫でたので、前に行けばいいだろうか。
「よし」
落ちていたと言うより放棄されていた角材を拾ってから歩き始める。……つい、癖で。落ち着くのでいい気がした。何かあるわけではないだろうけれども。
たぶん。
「目指せ天国」
何となく、囚人が入れられる牢獄にも似通っている気もしたが気にしない。きっと幸せな天国が待ち構えているはず。誰が迎えに来てくれるのか――と考えても楽しいが思いつかないのは悲しかった。私の周り大して亡くなっていないのはいい事なんだけど。
両親、とか?
無いな。うん。あの人たちが私を覚えていると思えないし私も覚えていないし。ぱっと顔を上げて続く洞窟の奥に目を向けていた。
「ま、いっか」
誰も来なければ、私が『待て』ばいいのだし。そんなことを考えながら喜々として鼻歌交じりで歩き始めていた。




