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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第38話「翼、ふたたび」

沈黙を破ったのは、空気を切り裂いて飛来する飛行音だった。



「おい!あれを見ろ!」



すっかり戦意を喪失した民衆の内の一人が、それに気付き、空を指差した。


シャルルの、春香の、勝一の。

その場に居た全ての人々の視線が、真っ暗な夜空に集中する。


そこには、シャルルのいる方向を目刺し、一直線に飛来する、インベイドベム・ドラッヘンの姿。

ガイストパンドラーより増設されたバーニアを内蔵したウイングバインダーが、火の鳥の翼のように羽ばたいている。



「見つけたぞクソ貴族!」



コックピットに座る少年兵は、メインモニターにシャルルの姿を捉えると、狂気を孕んだ笑みを浮かべた。


そして、周りに居る無関係な人々に躊躇する事なく、ドラッヘンに攻撃命令を下した。



ドラッヘンの脚部が開く。

そこにあるのは、ガイストパンドラーに装備された物と同じ、バルチャーミサイル。

案の定、それはガイストパンドラーの物よりも数割ほど多い。



「バルチャーミサイル!発射ぁ!」



シャルル。そしてその周りの人々を巻き込み、バルチャーミサイルが放たれる。


それは幾分もの迷いを見せる事なく、ロックオンしたシャルルに向けて飛来する。



「うわああ!」

「ミサイルがこっちに!」



バルチャーミサイルは全てシャルルに向けて放たれた物。

だが、その着弾による被害の規模には、春香や勝一達は無論の事、この場に居る民衆達にも及ぶ。


今から逃げても間に合わない。

バルチャーミサイルは、目と鼻の先まで迫っていた。


せめて少しでもダメージを減らそうと、身を屈める者。

反射的に、身構える者。

全てを諦め、目を瞑る者。


そして、シャルルは。



「来い!セイグリッター!!」



バルチャーミサイルの着弾より数秒早く、光に包まれたシャルルが、秋戸家の屋根から夜空へと飛び出した。


それは飛来したバルチャーミサイルを、全て体当たりで破壊。

そして、空中のドラッヘンに向けて飛来する。



「なッ!?」

「たあああーーっ!!」



そしてドラッヘンの眼前で、それはセイグリッターの巨体へと変わる。

驚き、一瞬気を取られた少年兵に対し、シャルルはセイグリッターを突撃させた。


ガキン!


鉄のボディがぶつかり合うタックル。

セイグリッターの不意をついた一撃を食らったドラッヘンは、秋戸家から離れたビル街に向けて落下した。



「ぐわああ!」



頭からビルに突っ込むドラッヘン。

避難勧告により、ビル街に誰も居なかったのが、せめてもの救いか。



「ぐうう………!」



少年兵は悔しさの表情を浮かべ、ビルの破片を払わせながら、ドラッヘンを立ち上がらせる。

よろよろと立ち上がるドラッヘンの前に、ズンと地面を揺らしながら、もう一機の機体が降り立つ。


セイグリッターだ。


ドラッヘンに対して不意打ちを仕掛ける事には成功したセイグリッターだったが、その姿は、とても無事とは言い難い。


胸には、ガイストパンドラー戦で出来た傷がそのまま残っている。

各部の装甲には、グラングジョーの砲撃によって受けたのであろうダメージが、生々しく見て取れた。


一目で解る。

セイグリッターは、十里木戦でのダメージが完治していない。



「………デオン、今のセイグリッターでどれだけ戦える?」



シャルルもそれに気付いていたらしく、デオンに向けて問いかける。



『敵が赤いインベイドベムと同等と見た場合………30分も持たないでしょう』



デオンから帰って来た答えも、気弱な物だった。


ドラッヘンはその赤いインベイドベム………ガイストパンドラーの系列機。

性能もガイストパンドラーに迫る物がある。


対するセイグリッターは、十里木戦で受けたダメージがほとんど残ったままの、ボロボロの状態。


勝負は、する前から決したような物だ。

だが。



「………それだけあれば十分さ」



シャルルに引くという選択肢はない。

仮にこれが、シャルルの最後の戦いになるのなら。



「皆が逃げるまでの時間は、稼いでみせる!」



せめて、春香達や民衆が逃げるまでの時間を稼ぐだけ。

ボロボロのセイグリッターを、ドラッヘンへ向けて突撃させる。



「来るか!ブラッディランサー!」



ドラッヘンが、肩からブラッディランサーを抜き、セイグリッターに向けて振るう。

流石はガイストパンドラーの量産機、これまで完備している。



「ショルダーカッタァーーッ!」



対するセイグリッターも、両肩から二本のショルダーカッターを抜き、構え、ドラッヘンのブラッディランサーを受け止める。


実体の剣とビームの刃がぶつかり合い、真っ暗な街に目映い火花を散らす。



ぶつかり合う、二体の巨大ロボット。

その姿は、少し距離を置いた秋戸家からも、当然ながらよく見えている。



「ここに居たら巻き込まれるぞ!」

「早く!早く逃げて!」



セイグリッターがドラッヘンを食い止めてるうちにと、民衆達が避難を始める。



「お姉さんも早く!」

「え、ええ………」



勝一に手を引かれ、春香と勝一達も、民衆に混ざって避難する。


このまま自分がここに居ても、かえってシャルルの戦いの邪魔になるという事は、春香には解っていた。


それでも、この場所にシャルルを置き去りにするのだと思うと、春香の胸は締め付けられるように痛んだ。



「シャルル君………!」



せめて、無事で居て欲しい。

それが叶う可能性の低い願いだと言う事は知っていたが、今の春香にはそう願う以外の事はできなかった………。



「うわあああーーーっ!!」



ショルダーカッターの一撃を、ドラッヘンに向けて振り下ろすセイグリッター。

だが。



「効くかあっ!」



ドラッヘンのブラッディランサーはそれを軽く受け止め、逆に叩き折ってしまった。


宙に飛んだショルダーカッターの刃が、二機から離れた地面に突き刺さり、その刀身にドラッヘンの姿を写す。



「こ………このおおおっ!!」



ならば、と、もう片方のショルダーカッターで、ドラッヘンを斬りつけようとした。


だがドラッヘンはそのショルダーカッターを素手で受け止め、バキンとへし折ってしまった。



「食らえクソ貴族ゥッ!」



ドラッヘンを操る少年兵が下品な言葉を吐き、ドラッヘンはセイグリッターを乱暴に………いわゆる「ヤクザキック」と呼ばれる蹴りで吹き飛ばす。



「がうっ………!」



蹴り飛ばされたセイグリッターが地面に叩きつけられ、破壊されたアスファルトが散らばる。



………ドラッヘンから見下ろしたその姿は、とてもではないがセイグリッターが元は御神体として崇め奉られていたとは思えないほど、惨めな姿だった。


装甲の各部は黒く焦げ、ひしゃげ曲がり、内部の機械が露出している。


ぱっくりと開いた胸部や、四肢の間接からはバチバチと火花が散り、動かすとギギギと嫌な音が鳴った。


(カメラアイ)に至っては、内部機器が故障したのか、切れかけの蛍光灯のように点滅している。


誰の目からしても、セイグリッターはもう限界であった。

とても、戦える状態ではない。

スクラップ寸前と言っていいだろう。



「まだ………だぁっ!」



それでも、シャルルは、セイグリッターは立ち上がる。

背後に居る春香達を守るため、機体を震わせ立ち上がる。



「セイグリッターが………!」



その姿は、避難する春香達からも見えていた。

ボロボロになりながらも、立ち上がるセイグリッター。


そんなセイグリッターを、痛め付け続けるドラッヘン。

セイグリッターが立ち上がる度に、ブラッディランサーを叩きつける。



「………もう、やめて」



春香には耐えられなかった。

シャルルが、ここまで自分を犠牲にする事が。

ここまで、傷つく事が。



「もうやめてェッ!」

「春香さん!?」



気がつけば、春香は身を乗り出して叫んでいた。

勝一達が、そんな春香を必死に引き留め、避難させようとする。



「あなたがこんな事する必要ないの!余所の星の人の為に、傷つく必要なんて!」



だが春香は、ボロボロになるセイグリッターを前に、涙を流して叫んでいた。

もういい、もう止めろと。



「誰か、誰かシャルル君を助けてよ!今まで守ってもらってきたんでしょ?!だったらシャルル君を助けてよぉ!!」



年甲斐もなく、まるで子供のように泣き叫ぶ春香。

そして願う、誰かシャルルを助けてくれと。



「トドメだ!クソ貴族め!」



だがそんな願いも虚しく、ドラッヘンはブラッディランサーをセイグリッターの頭部目掛けて突き立てる。


戦いを見守っていた誰もが、セイグリッターの最後を悟った。

今まで地球を守ってきたセイグリッターにも、ついに完全に敗れる時が来たのだと。





「………任務、了解」





その時である。


ドラッヘンのコックピットに座る少年兵が、敵機の接近を知らせるアラートを聞いた。


センサーに目をやるより早く、ドラッヘンを衝撃が襲った。

上空より突撃してきた「何か」は、ドラッヘンを弾き飛ばし、セイグリッターを守るかのようにその前に立つ。



「あ………アレは!?」



ノイズの走るセイグリッターのコックピットで、その姿を見たシャルルは目を疑った。


月光を反射して輝く赤いボディ。


ドラッヘンの物より古い、巨大なウイングバインダー。


応急手術のように取り付けられた、義手義足を思わせる左腕と右足。



「馬鹿な………お前はガイストパンドラー!?」



少年兵が、本来は味方であるハズのその機体を前に、戸惑いの声を挙げた。


そこに居たのは、ドラッヘンの原型でもあり、グラングジョーの攻撃により破壊されたハズのガイストパンドラー。


そして、そのコックピットに座る、パイロットであるブレード。



「あの赤い怪ロボットって!」

「セイグリッターと何度も戦ったヤツ!」



戦いを見守っていた人々も、それまでセイグリッターと何度も刃を交えたガイストパンドラーが、逆にセイグリッターを庇うように立つ姿を前に、困惑と驚きを見せる。



「………そうか、ブレードお前、裏切ったのか!」



少年兵は、ブレードの行為を裏切りであると断じ、憤った。

同じウィーズに忠誠を誓った仲間でありながら、セイグリッターを守るなど、と。



「貴様ァァァ!」



ドラッヘンの脚部のバルチャーミサイルが一斉に放たれる。

その全てがガイストパンドラーに標的を定めており、誘導されている。


回避は不可能と思われる。

だが。



「………ッ!」



次の瞬間、ガイストパンドラーはウイングバインダーを広げ、空へと飛び立つ。


迫るバルチャーミサイルは、その全てがガイストパンドラーを追った。


すぐに当たって撃墜されると思われた。


だが、ガイストパンドラーはまるで曲芸かツバメのように空を舞い、その全てを回避してみせた。

バルチャーミサイルは、互いにぶつかって次々と破壊されていった。



「このおっ!」



しびれを切らした少年兵は、ドラッヘンのウイングバインダーを広げさせ、空に飛び立つ。

ミサイルがダメなら、空中戦を仕掛けるつもりなのだろう。



「この裏切り者め!」



ドラッヘンがブラッディランサーを構え、ガイストパンドラーに迫る。

対するガイストパンドラーもブラッディランサーを構え、それを迎え撃つ。


何度も、空中で二本のブラッディランサーがぶつかり合い、紫色の火花を散らす。



「お前もウィーズの戦士だろう!何故裏切った!?何故あのクソ貴族に従う!」



少年兵は、ブレードに向けて怒りと失望を込め罵声を飛ばす。

ガイストパンドラーのパイロットという大役を与えられながら、何故ウィーズを裏切り、セイグリッターを守るのだと。



「なんとか言ったらどうだ!おい!」



何度もブラッディランサーをぶつけ、何も言わないブレードに怒りを飛ばし続ける。


しかし、ブレードは何も答えない。

何も言わず、ドラッヘンの振り下ろしたブラッディランサーを、ガイストパンドラーのブラッディランサーで受け止めさせるだけだ。



「………何か、勘違いしていないか?」



黙っていたブレードが、通信という形で少年兵に答える。


そして次の瞬間、ガイストパンドラーのブラッディランサーが、ドラッヘンのブラッディランサーを弾き飛ばした。



「今の俺は、もうウィーズではない」

「な………ッ!?」



そして、次の瞬間であった。


気がつけば、ドラッヘンのボディは、ガイストパンドラーのブラッディランサーの一降りにより、真っ二つに斬り裂かれていた。


ガイストパンドラーが、セイグリッターにそうされた時のように。



「う、ウィーズばんざァッ………!」



ウィーズ万歳と叫ぶ間もなく、切り裂かれたドラッヘンは爆発。

破片が飛び散り、少年兵も炎の中に消えた。



セイグリッターを追い詰めたドラッヘンを撃破したガイストパンドラーが、月を背にセイグリッターを見下ろす。


もはや半壊といっていいほどボロボロになったセイグリッターが、そのガイストパンドラーを見上げている。


十里木の時とは、逆の構図だ。



「………僕を助けた、のか?」



こちらを見つめるガイストパンドラーのモノアイを、よろよろと立ち上がりながら見つめ、その行動に疑問を覚えるシャルル。


夜は、元の静寂を取り戻していた。

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