第34侘「黄金の暴君」
死闘の末、スーパーロボット同士の激闘を制したのは、セイグリッターだった。
捕らわれた少女を助ける為に戦い、勝利したセイグリッターを、世界中の人が称えた。
ネット掲示板にはシャルルとセイグリッターを称える書き込みが溢れ、SNSもサーバーがダウンするほど盛り上がりを見せた。
「今だ!」
同時に、潜伏していた連合軍の部隊が、ガイストパンドラーが停止すると同時に、響を救出すべく展開する。
「大丈夫ですか、今助けます」
「あ、ありがとうございます………」
磔にされた響の元に駆け寄り、高速具をガス切断機等を使って取り除きはじめる。
異星の技術で作られてはいるが、すぐに響は解放されるだろう。
戦いを終え、その場に佇むスカイセイグリッター。
その隣に、二機の戦闘機が飛来した。
スカイデルタ、そしてシャドウデルタだ。
『………セイグリッター』
気遣うかのように、スピーカーでスカイセイグリッターに語りかける刃。
セイグリッターは、戦いには勝った。
しかし、それは純粋に喜ぶべき勝率ではない。
人質を助ける為とはいえ、シャルルはその素顔を、全世界が見つめる中に晒した。
世界中の人々が、セイグリッターを操る者がシャルルであると知ってしまった。
もう、シャルルに平凡な日々は戻ってこない。
それに、怪ロボットを操る勢力………ウィーズも、これを卑劣な手段に利用しないとも言い切れない。
それを考えると、刃はシャルルが、酷く哀れに思えた。
刃は、セイグリッターのパイロットである事以外の、シャルルの事を知らない。
それでも、刃にとってシャルルは、共に今まで怪ロボット………インベイドベムと戦ってきた戦友でもあった。
『………セイグリッターのパイロットに告ぐ』
改めて、刃はシャルルに訪ねる。
それに答えるように、スカイセイグリッターがスカイデルタの方に顔を向けた。
『………単刀直入に言う、連合軍に来ないか?』
その問いに、シャルルは愚か、その場に居た他の連合軍の部隊員全員が驚いた。
無論、珠江と弥太郎も。
『隊長!』
『解ってる、一応聞くだけだ』
これを訪ねるのは、刃の善性がシャルルのような子供に追われるような日々を送る事に抵抗を覚えるから、というのもある。
だが連合軍として考えても、今まで「一応の味方」というだけで、素性の一切が不明の謎の存在だったセイグリッターが正式に味方になるというのは、とても意味のある事だ。
シャルルを通じて、未だに全貌が解らない敵勢力=ウィーズの正体を知れるチャンスでもある。
「………デオン、どう思う?」
対するシャルルも、デオンに訪ねてみる。
返ってきた答えは。
『野宿生活に戻るよりは、ずっといいかと』
確かに、連合軍に来れば今までより自由度は下がるが、衣食住が保証され、身柄も連合軍の預かりとなる。
単独で戦っていた時とは違い、連合軍のバックアップも得る事ができる。
『………では』
お世話になります。
後で、春香にさようならを言って、地球上での「シャルル・アマーリア」としての記録を抹消しておこうと思いながら、シャルルは刃の誘いにイエスを返そうとした。
だが、その時。
『ところがギッチョンっ!!』
突如、スカイセイグリッターとスカイデルタの間に火線が走る。
「何だ?!」
「うわあっ!」
何百もの光の雨が高原に降り注ぎ、大地を抉り、破壊する。
展開していた連合軍のいくつかの部隊が吹き飛ばされ、報道ヘリのいくつかが撃墜される。
ほんの数秒数える間もなく、十里木高原は炎に包まれた。
赤々と燃える炎が、夜の闇を照らす。
『シャルル様!上です!』
「何!?」
デオンが、その唐突の破壊の犯人の姿を捉えた。
咄嗟に、シャルルは天を見上げる。
そこには………。
『………流石はクソ貴族の生き残り、強化されたガイストパンドラーを倒すとはなァ』
炎に染まる夜空に浮かぶ、一体の機影。
スカイセイグリッターを見下ろしながら、その不気味な瞳を赤く光らせている。
『だが、テメェの無敵伝説も今夜で終わりだ』
その姿を一言で言うなら「異形」と言うべきだろうか。
ベースは人型なのだが、追加装甲により肥大化した手足には、赤いビーム砲がいくつも付いている。
右腕に至っては、ただでさえ巨大なボディに匹敵するほど巨大なビームランチャーを携えている。
頭部のあるべき部分には、本来の頭部と肩を覆い隠すような被り物のようなパーツには、紫色のカメラアイが光る。
そして極めつけは、そのカラーリング。
各部のビーム砲を覗いた、全身の装甲が、目映い黄金の色に染められている。
地上の火の海を反射してギラギラと光るその姿は、むせかえるほど派手で、悪趣味とも言えた。
『このウィーズの獣将軍ヴォルガン様と、その専用機“グラングジョー”でな!』
コックピットに座るヴォルガンが凶悪な笑みを浮かべ、自らが操る新型機「グラングジョー」のビームランチャーを、目下のスカイセイグリッターに向ける。
『消し飛べやクソ貴族ゥ!』
そして、銃身より放たれる、破壊の閃光。
寸前の所でスカイセイグリッターとスカイデルタは飛び立ち、その一撃を回避する。
「クソっ、なんて威力だ………!」
刃が、先程まで自分達が居た場所を見てみると、地表は大きく抉れ、まるで隕石が激突した後のクレーターのようになっていた。
もし直撃を受けていたなら、どうなっていた事か。
シャルルもまた、眼下の惨状を前に、刃と同じ事を考えていた。
だが、シャルルにとってそれよりも、重要な事があった。
それは。
『………解析完了』
シャルルの眼前に、デオンが解析したグラングジョーのデータが表示された。
そこに記されていたのは、グラングジョーとセイグリッターの比較図。
なんと、70%以上のパーツや機能が、セイグリッターと同じという結果が出た。
これはどういう事か。
『………やはりあれは、光輝士の改造機体………おそらく、ブライ様の!』
「兄さんのドラグカイザーだっていうのか………!?」
デオンから告げられた事実に、シャルルは愕然とする。
………以前に述べた通り、シャルルには、上の兄弟に次期国王となる兄ブライが居た。
次期国王に相応しい高潔な人物で、弟のシャルルをよく可愛がり、シャルルも彼を父の次に尊敬する人物として、深く慕った。
「ドラグカイザー」とは、そんな兄ブライが搭乗していた、二体目の光輝士なのだ。
セイグリッターと相対する漆黒のボディを持つその機体は、神殿に奉られているセイグリッターと違い、アマデウス軍の戦力として運用されていた。
とはいっても、平和なアマデウスでは式典か演習しかやる事は無かったが、様々な戦闘データを重ね、強化され続けた。
そしてウィーズのアマデウス進行時にも、パイロットであるブライと共に、ウィーズの軍勢に立ち向かった。
そして最後は、シャルルを惑星外に逃がす為の最後の砦となり、迫るウィーズの軍勢に単身攻撃を仕掛けた。
その、ドラグカイザーが。
シャルルの中では兄ブライと共に散ったハズのドラグカイザーが、黄金の装甲で彩られた………否「汚された」グラングジョーとして、ここにいる。
それが、ウィーズに鹵獲されたドラグカイザーの成れの果てである事は、たった今のデオンの解析で解った。
そして、シャルルにとって、それが最大の侮辱であった。
「う………あああああーーーッ!!」
デオンが今まで聞いた事ほどの怒りの叫びを挙げ、激昂したシャルルがスカイセイグリッターをグラングジョーに向けて突撃させる。
軽率な行動であった。
だがそれほど、シャルルの感じた怒りというのは大きかった。
「あァン?」
対するグラングジョーは、足の装甲より近接戦用のメイスを取り出し、手に握る。
「レーヴァテイン!バーンズアップ!」
スカイセイグリッターも、展開状態のレーヴァテインを、グラングジョーに向けて叩きつける。
バチィッ!と閃光が走り、グラングジョーのメイスがスカイセイグリッターのレーヴァテインを受け止める。
それ程、グラングジョーのパワーが高いという事か。
『ホ?いきなり攻撃か?随分乱暴じゃねぇかクソ貴族さんよ!ハンカチでも投げてみろよ!』
『黙れ!よくもブライ兄さんのドラグカイザーをこんな下品な姿にしてくれたな!』
グラングジョーならセイグリッターに勝てるという余裕からか、怒るシャルルに対し、ヴォルガンはそれを小馬鹿にするような態度を取る。
『ピリピリしてんじゃねーよ!』
スカイセイグリッターに、グラングジョーのビームランチャーが向けられ、ビームの一撃が放たれる。
いつもなら回避が出来ただろうが、シャルルが怒りで頭が一杯だった為に、スカイセイグリッターはその一撃を食らってしまう。
「うわあっ!?」
「そらそらそらそらァ!」
空中でよろめいたスカイセイグリッターに向け、グラングジョーのビーム砲が火を吹く。
「うわあああっ!!」
無数のビームを前に、スカイセイグリッターは回避もままならない。
腕に、足に、そしてガイストパンドラー戦で傷を負った胸に、ビームは容赦なく降り注ぐ。
ドワォ!
その時、ビームの何発かが、スカイセイグリッターの翼………ジャンボフェニックス部分に直撃。
光波推進システムが破壊されてしまった。
「わああーーっ!」
翼を失ったセイグリッターが落下してゆく。
その間にも、グラングジョーは攻撃の手を緩める事はない。
「ギャハハハハ!そらそらそらァ!!」
落下するスカイセイグリッターに向けて、全身のビーム砲を放った。
乱れ撃ちされたそれは、スカイセイグリッターだけでなく、その周りにある物にも容赦なく襲いかかった。
「うわあああーっ!」
爆発と炎がスカイセイグリッターを飲み込む。
スカイセイグリッターの姿が、見えなくなる程に。
「まずい回避を!」
待機していたヤタガラス小隊のデルタ兵機達にも、ビームが降り注いだ。
スカイデルタはその機動性を生かした回避で、シャドーデルタとドリルデルタは内蔵していたバリアを使い、ビームの雨を防ぐ。
そして放たれたビームは、拘束されていた響と、それを救助しようとしていた連合軍の部隊にも襲いかかった。
「く、来るぞ!」
迫り来るビーム。
響の拘束は、まだ解けていない。
このままでは、ビームの直撃を受けて、皆跡形もなく消滅してしまう。
もうだめだ。
諦めた響は目を閉じ、最後の時を待った。
せめて、最後にもう一度だけ会いたかったと、この場に居ない両親や友人達の事を思い浮かべながら。
「………あれっ?」
だが、いくら待とうと意識があった。
最後の時は訪れなかった。
それとも、自分はもう死んだのだろうか?
響は、瞑った瞳を、ゆっくりと開いた。
そこには。
「………えっ!?」
そこにあったのは、降り注ぐビームの雨から響を庇う、上半身だけになったガイストパンドラーの姿だった。
響達の上に覆い被さるようになり、ビームの直撃を代わりに受けている。
「………ブレード、君?」
コックピットに座るブレードは、機体も自分も、もう限界だった。
それでも、ブレードはガイストパンドラーを飛ばし、響をビームの雨から守った。
「………俺は………俺は………」
危険信号の点滅で赤く染まり、搭乗者の危険を知らせるブザーがけたたましく鳴り響くコックピット。
「………何を………やっているんだろうな」
薄れゆく意識の中で、モニターに映る響が無事な事を確認すると、ブレードは今度こそ意識を手放した。
辺り一面に、ばら蒔かれた破壊。
高原を広野に変え、一面の木を燃やし、グラングジョーは名前の通りの帝王のように、そこに佇む。
「………逃げやがったな?あのクソ貴族」
モニター越しに地表を見下ろし、ヴォルガンが舌打ちをする。
そこには、本来なら撃破したスカイセイグリッターの残骸が転がっているハズなのに、何も無かった。
いくら強力なグラングジョーでも、先の攻撃で目標を跡形もなく吹き飛ばすのは無理だと知っていたヴォルガンは、セイグリッターが逃げたのだと解釈した。
「まぁいい、テメェには心の底から絶望を味わってもらわにゃならんからなぁ………!」
邪悪な笑みを浮かべるヴォルガン。
それに答えるかのように、グラングジョーの目が不気味に赤く輝いた。




