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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第21話「刃と由子」

そこは、東京グランドピラー内のレストランとしては、安い方である。

しかし、壁一面のガラス張りの窓からは、東京の美しい夜景を一望する事ができ、人気のスポットの一つだ。


覚悟は、出来ていた。

由子自身、電話で聞かされていた時から、この瞬間が来る事は知っていた。

成人式以来となるかなり久々のドレス選びも、まったく心が踊らなかった。



「俺達の関係は、もう終わりにするべきだと思う」



中学の頃から付き合っていた彼氏に告げられた、この一言。

それは由子の心に深々と突き刺さり、沈んでゆく。

それはまるで、死刑宣告のように。



「………何でよ」



思わず、由子の口から言葉が漏れる。

当たり前だ。

例え解っていたとしても、納得など出来る訳がない。



「私達、ずっとやってきたじゃない………それを、いきなり終わらせるなんて………」



目を潤わせ、訴えかける。

普段教師として生徒達に接している姿からは想像できない。


その姿に負けたかのように、刃は一息ついてから、その口を開いた。

どっち道、これは話さなければならない。



「………俺がアメリカ空軍に居た時の話だ」



デルタのパイロットとして召集される前。

刃は、アメリカ空軍にパイロットとして在籍していた。



「そこで、俺に空戦のイロハを叩き込んでくれた上官が居たんだ」



教導隊。

平時のエースの使命である、後続の人材を育てる為の仕事。


その教導隊に、あるエースパイロットが居た。

名を「ダイモン・ラッセン」。

歴史上は人類最後の戦争と言われている「クルジス紛争」で活躍したという、ベテランパイロット。


彼の教導を一言で表すなら「鬼」そのものだったという。

全ては、後任のパイロットを空で死なせない為という彼の優しさからではあったが、その時代錯誤とも言えるハードな特訓についていけず、多くの新人パイロットが辞表を出した。


ただ一人。

日本からやってきた刃を除いて。


まるで殺すような勢いの彼の教導に、刃は必死に噛みつき、ついていった。


ダイモンの教えに、刃はどこまでもついて行った。

そしてそんな刃に、ダイモンはいつしか強い信頼を抱き、刃もダイモンを父のように慕った。


だが。



「………二年前、俺がエースと呼ばれるようになったあの事件の時の事だ」



二年前。


某国の大陸間弾道ミサイルが、アメリカのニューヨークに向けて誤射された。

もし着弾すれば、ニューヨークに甚大な被害が及び、それによる経済への莫大な損失も予想された。


それを阻止する為に向かったのが、ダイモンと刃の二人である。

だが、そこで彼等を待ち受けていたのは、所属不明の戦闘機の部隊だった。


………後で解った事だが、弾道ミサイルは誤射でもなんでもなく、テロリストに買収された某国の軍部が偽装してやった事だった。


刃はダイモンから教わった事の全てを、この戦いに動員した。

生まれて初めての、空での戦いだった。


ダイモンとの息のあったコンビネーションもあり、戦況は刃達の有利に進んだ。


数機の敵機を撃墜し、敵は後一機。

ミサイルは彼等のすぐ近くまで迫っている。

早く最後の一機を撃墜しようと考えた。


その時、ダイモン機の放ったミサイルが、最後の敵機を撃墜。

やった!と喜んだ、その時だった。


撃墜された敵機の残骸が、その後方を飛んでいたダイモン機に迫り、コックピットを貫いた。


刃には、一瞬何が起きたのか理解できなかった。

唖然とする刃の眼前で、ダイモン機はそのまま空中分解を起こし、空に散った。


呆気ない最後だった。


その後、混乱しながらも刃は弾道ミサイルを撃墜し、ニューヨークを壊滅の危機から救った。

それ以外に、何をするべきか解らなかったからだ。


刃は、アメリカ空軍のトップガンとして祭り上げられた。

敬愛する教官の命と引き換えに。



「………呆気なかったよ、殺しても死なないように思えた人が、こうも簡単にって」



そしてダイモンの死を通じ、刃はある事を確信した。

それは。



「………きっと、俺も空で死ぬ、パイロットである以上、きっとな」



自分も、ダイモンのように死ぬという事。

いくら、今の愛機(スカイデルタ)が強力な機体であろうと、それは避けられぬ宿命であるという事。


そして、それに備えてにやるべき事を、二年間考えた。

そして出した結論が、由子との関係を終わらせる事だった。



「………俺の事は忘れてくれ、きっと俺は、お前と添い遂げる事は出来ない」



子供に言い聞かせるように、刃は優しく語りかける。

諭すように。


対する由子はうつ向いたままだ。

そして。



「………嫌」



刃への返答は、呟くようだった。

感情を押さえ込んだかのように、震えていた。



「………どうして解ってくれないんだ」

「解りたくなんかないよ!」



次に放たれた言葉は、その押さえ込んだ感情を全て吐き出すがごとく、強かった。



「そんな、自分が死ぬなんて、そんなのただの決めつけじゃない!私、そんな理由で別れるなんて嫌だし、死ぬにしてもそれで後悔なんかしない!!」



由子の怒りはもっともだ。

彼女からすれば、不確定な予想で別れ話を切り出されたような物だ。

納得など出来ないし、する筈もない。



「俺は戦闘機乗りだから解るんだよ、俺は長生きはできないって」

「だったら何よ?!そうだとしても私は貴方と一緒に居たいの!」

「俺は君を悲しませたくないんだ、解ってくれよ!」

「嫌よ!そんなの!」



二人の会話は平行線を辿っていた。

由子の為に別れようとする刃と、何があっても別れたくない由子。



「………私、あなたと一緒に居たいのよ、悲しい結末になったとしても、何故ダメなの?」



とうとう、由子は目を潤わせて泣きそうになっている。

別れ話を切り出した自分に非がある事は解っているのか、刃は黙り込んでしまう。


お互い、何を言えばいいか解らない。

静寂が流れる。


その時だ。



「なッ?!」

「きゃっ!?」



ズワォ!という轟音と共に、刃と由子が居たレストランの床が揺れたのは。





………………





突如、東京グランドピラーに走った衝撃。

それは、試写会を直前に控えたシャルル達にも襲いかかった。



「な、何?!」

「地震!?」



咄嗟に身を屈める春香とシャルル。

そして試写会に来たシャルル達以外の来客達。

グラグラと床が揺れ、立っていられないのだ。



『シャルル様!緊急事態です!』



こんな時でも、他人に感付かれないよう気遣っているのか。

周りに聞こえないように、デオンがシャルルに呼びかける。



『ウィーズのインベイドベムです、インベイドベムがこの東京グランドピラーを攻撃しています!』

「何だって!?」



こんな日にまで仕掛けてくるのか。

しかも、自分と関係のない春香や他の客人を巻き込んでまで。

ウィーズへの怒りで、シャルルは怒りで顔を歪める。



「………僕、行ってきます!春香さんは安全な所へ!」

「シャルル君!?」



自分が行かなければならない。

シャルルは春香を置いて、その場から駆け出した。


そして混乱に陥る東京グランドピラーの中で、なんとか人の居ない男子トイレに駆け込む。



「行くよ、デオン!」

『はい!戦闘礼装、展開ッ!』



光の中で、シャルルの着ていた服が分子レベルにまで分解され、デオンの中へと吸い込まれる。



一糸纏わぬ姿になったシャルルの身体に、今度はデオンの中に圧縮格納してあった戦闘礼装………戦う為の戦闘服が展開する。



シャツに包まれていた上半身には、肩章のついた青いきらびやかな服が。


ズボンを履いていた下半身には、白く長いズボンが、それぞれ展開する。



手の周りに白い手袋。


足には黒いブーツ。


背中に白いマントが靡く。


そして仮面が、その顔を覆う。



最後に、デオンが光に包まれる。


デオンはペンダントの姿から、柄に赤い宝石の輝く一振りの剣の姿「デオンカリバー」へと変化。


それをシャルルが持ち、構える。



変身が完了した。





………………





それまで、人々が買い物やデート等を楽しんでいた港区の街は、今や悲鳴と嘆きに包まれていた。


美しい町並みを踏みにじり、人々の日常を破壊する敵。

優雅に過ごす港区の人々に激怒したヴォルガンが送り込んだ、新たな資格。



かつて出現したシュピンネと似た姿をしているが、その頭部にはセンサーをより強化する為のバイザーが追加されている。


背中の腕はデフォルトでビーム砲の形状となっており、両腕は蛇腹状の鞭か触手のような姿となり、延びている。


そしてカラーリングも、毒々しい赤と黒に変更されている。


シュピンネを元に強化を施したその機体は、「タオゼントフース」という名前がつけられていた。



『ギュゴオオオ!!』



悪魔のような凶悪な咆哮と共に、タオゼントフースは背中の砲身を再び東京グランドピラーに向ける。


一度目の攻撃を受けた東京グランドピラーからは、火が上がっている。

二度目で、今度こそ破壊するつもりだ。



『………ギュ?』



次の砲撃を行おうとしたその時、その東京グランドピラーより、一筋の光が飛び出したのを、タオゼントフースはそのメインカメラで捉えた。


他でもない、シャルルだ。

白いマントを靡かせて、東京グランドピラーからタオゼントフース目掛けて飛んで来る。



「来い!セイグリッター!」

『ギュグオッ!?』



シャルルがデオンカリバーを構えると、そこから魔方陣が展開。

タオゼントフースを吹き飛ばす。


倒れるタオゼントフースを前に、巨大に展開した魔方陣より現れる、鋼鉄の巨人。

シャルルを乗せたセイグリッターが、タオゼントフース向けて駆ける。



「行くぞ!」



タオゼントフース向け、シャルルがセイグリッターの拳の一撃を叩き込もうとした、その時。



「うわっ!?」



突如、セイグリッターの背中に走る爆発。

そしてセイグリッターの頭上を通り過ぎる、紅の翼。


シャルルの眼前で、それは秒を数える間もなく変形し、その姿を形成する。

そしてタオゼントフースと挟むように、それはセイグリッターの背後に立った。


ガイストパンドラーだ。



「………目標、確認」



空に浮くガイストパンドラーのコックピットから、セイグリッターを見下ろすブレード。


これは、以前のようにセイグリッターを誘き出す為の作戦でもあった。

シュピンネを更に強化したタオゼントフースに加え、改良により稼働限界時間を伸ばしたガイストパンドラー。


強力な二体のインベイドベムに囲まれたセイグリッター。

どこにも逃げ場所はない。


敵はこれで今度こそ、セイグリッターを仕留めるつもりだ。



「………任務、開始!」



ブラッディランサーを構え、ガイストパンドラーが突撃した。





………………






「か、怪ロボット?!それに、青いロボットまで………」



レストランの窓から、二体のインベイドベムの攻撃に晒されるセイグリッターを見下ろし、由子は呟く。


こんな日に限って、こんな事に出くわしてしまうとは、と。


レストランの入り口は、一度目の砲撃によって瓦礫で塞がれてしまっている。

周りには、自分達のようにレストランの中に閉じ込められ、右往左往する他の客が数人。



「………由子」



若干慌てている由子に対し、職業柄こんな緊急事態は慣れているのか、冷静な刃。

由子の方にポンと手をのせ、説得するように語りかける。



「俺のやっている仕事ってのは、こういう事は日常茶飯事さ、もっと危険な事だってある、もしかしたら君を巻き込む事だってあるかも知れない」



うつ向き、目を合わせようとしない由子。

それでも聞いているのは解っている。

刃は話を進めた。



「………それでも、俺と一緒に居たいか?」



突き放すように、試すように、刃は問いかける。


冷たい男と思われようが、由子を危険な目に合わせる事だけは避けたかった。

だから、刃は自身の思いを封印し、由子から離れようと考えた。


だから、こうしてここにいる。


今の恐怖と混乱を持って、由子も分かってくれるだろうと、刃は考えた。


だが、運命は彼の望むようにはいかなかった。



「………うん」



否定の言葉が帰ってくる事を期待していた刃の耳に飛び込んできたのは、

こんな危険な目に遭っても、なお一緒に居たいという返答だった。



「本気で言っているのか?!」



流石の刃も、由子の肩を掴み、声を荒げた。

こんな危険な目に遭っても、考えを変えない由子に。



「本気よ」



顔を合わせた由子の表情は、真剣その物であった。

真っ直ぐに刃を見つめるその瞳には、一つの曇りもない。



「………確かに、怖い目に遭うのは嫌だけど、自分の気持ちに嘘をつくのは、もっと嫌」



嘘や冗談ではない。

由子は心の底から、刃を愛している。

今も、そしてこれからも。



「………やっぱ私、刃の事好きだから」

「由子………」


由子はそう言って、笑って見せた。


折れたのは刃の方だった。

これだけの事を言われ、なおかつ本気だという事を考えれば、もう何を言っても無駄だと。

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