第13話「倒せ!三つ首インベイドベム」
校舎から、まるで決壊したダムから水が噴出するがごとく、生徒達が飛び出してくる。
生徒も教師も、激流がごとく学校から逃げ出してゆく。
「………落ち着いて!皆落ち着いて!」
2年C組担任・久家由子は、その中で必死に生徒達を避難させていた。
自分も今すぐ逃げ出したかったが、生徒達を放っておく訳にもいかない。
「………えっ?!」
その時、彼女の目に飛び込んできたのは、学校から逃げ出す生徒達の流れに逆らい、学校の方へ逆走する4人の生徒達。
一目で解った。
勝一、早苗、響、そしてB組の匠。
彼等は、一人を除いて自分の受け持つ2-Cの生徒達だ。
「あ、あなた達!」
自殺行為そのものを行っている4人を前に、由子は弾き出されたかのように駆け出す。
他の避難する生徒達を掻き分け、先頭を走る勝一の肩を掴み、引き留めた。
「あなた達何やってるの!」
「シャルルが居ないんですよ!もしかしたら、まだ学校の中に………」
まだシャルルが学校に取り残されてるかも知れないと、由子を説得し、学校に向かおうとする勝一。
その時、彼等のすぐ側でズゥンと地響きが響いた。
見れば、体育館を破壊したヘルヴェロスが、その巨体で勝一達を見下ろしていた。
無理矢理つけたような三つの狼の頭から、鋭く巨大な牙を剥き出しにして、ガルルと唸っている。
『………アノくそ野郎共かァ………!!』
ヘルヴェロスに取り込まれている三白眼の不良が、足元で震え上がる勝一達を前に、ふつふつと怒りを燃え上がらせる。
彼等からすれば、自分達をコケにしたシャルルだけでなく、
それに助けられた匠や、その場にいた勝一達も憎悪の対象だ。
逆恨みだったとしても、ヘルヴェロスに取り込まれて憎悪を増幅されている今の彼等に、それを判別する事はできない。
同じ理由で、ただの逆恨みだと説教できる者もいない。
『ガグゥオオオーーーッ!!』
ヘルヴェロスは、その熊手を思わせる爪を振り上げ、勝一達向けて一気に降り下ろす。
鉄筋とコンクリートで組まれた体育館を砂の城を崩すかのように破壊した一撃。
それが、生身の勝一達向けて放たれる。
「うわあっ!!」
咄嗟に身構える勝一達だが、これでは防ぎようがない。
誰しもが死を覚悟した、その時。
「星光一閃!エトワールトネェーール!!」
『ギャワンッ!?』
爪を降り下ろそうとしたヘルヴェロスの横より、光の一撃が叩きつけられた。
倒れこそしなかったものの、ヘルヴェロスはよろけ、甲高い悲鳴をあげた。
「あ、あれ!」
匠が学校の方を指差す。
そこには。
「………王子様?」
その姿を前にして、早苗が最初に抱いた感情は、それであった。
カッと輝く太陽の逆光を浴び、校舎の上に凛と立つその姿。
青を基調としたきらびやかな服装に、靡くマント。
赤い宝石の埋め込まれた剣を手に、中世の貴族がするような青い仮面をかけている。
そう、シャルルだ。
戦闘礼装に身を包んだシャルルが、デオンカリバーを手に校舎の上に立っていた。
「皆さん、早く避難を!」
「が、学校にまだ友達が残ってるかも知れないんだ!」
学校の上より呼び掛けるシャルルに対し、仮面の為にそれがシャルルとは解らない勝一が返す。
早苗や響、匠も勝一と同じ意見。
ヘルヴェロスが迫る危険も省みず、友を助けるため学校に向かう勇気。
無謀とも言えたが、シャルルはそんな彼等に深く感動し、そして感謝した。
「………その友達は僕に任せてください、絶対に助けます」
同時に、なんとしても守らなければならないと、深く決意した。
見れば、ヘルヴェロスはエトワールトネールの一撃を受けた事で怒り、こちらを睨んでいる。
「早く!」
「お、おう!解った!」
勝一達は由子に連れられて、学校から逃げてゆく。
ようやく逃げてくれた、と、安堵するシャルル。
『グルガァァァ!!』
無視すんじゃねぇ!と怒鳴るように、ヘルヴェロスがシャルル向けて爪を振るう。
直前、シャルルは空に舞い上がり、回避。
ヘルヴェロスの爪は校舎をわずかに削るのみに終わった。
「エトワールトネールじゃ決定打にはならない、セイグリッターを呼ぼう!」
『承知しました、シャルル様!』
そのまま、シャルルは学校の運動場の上に降り立つ。
そして。
「来い!セイグリッター!」
天高く剣をかざし、叫ぶ。
するとどうだろう。剣から光が走り、天に向けて広がった。
空に広がる、王族の紋章の描かれた魔方陣。
そこから、青き光輝士・セイグリッターが、召喚されたモンスターのように現れ、降りてくる。
デオンの内部に、圧縮されて格納されていた物を、元に戻しているのだ。
「たあっ!」
地面に降り立ったセイグリッター向けて、シャルルが飛び上がる。
瞬間、その身体は光に包まれ、セイグリッターの額に吸い込まれてゆく。
吸い込まれたシャルルは、セイグリッター内部にある戦闘用のコックピットに降り立つ。
「ブレードセット!」
眼前の機械に剣を差し込む。
すると、たちまちコックピットの機材が起動し、シャルルの身体をスキャンする。
『同調完了です、シャルル様』
デオンがスキャン終了を知らせると同時に、球体状の壁に、セイグリッター外部の光景が映し出された。
セイグリッターを通した視界が、シャルルの目に映っている。
シャルルが腕を動かせば、セイグリッターも腕を動かす。
シャルルが足を踏み出せば、セイグリッターも足を踏み出す。
今ここに、少年と巨大ロボ(セイグリッター)は一つとなり、ここに降り立った。
『グルガァァァ!!』
ヘルヴェロスの三つの狼の顔が牙を剥き、セイグリッター向けて突撃する。
「ぐうっ!?」
咄嗟に身構えたセイグリッター。
中心の頭の顎を両手で掴み、防ぐ。
だが両腕を左右の頭に噛みつかれてしまった。
『グルルル!』
してやったりと嘲笑するようにヘルヴェロスは唸り、左右の腕に噛みつく顎の力を強める。
「ぐう………おりゃあ!」
しかし、そんな事で怯むシャルルとセイグリッターではない。
噛みつかれた状態のまま、柔道の背負い投げのように、ヘルヴェロスを運動場目掛けて投げつけた。
『ギャンッ!?』
投げつけられたヘルヴェロスは、噛みついていた左右の顎をセイグリッターから離す。
見れば、左右の口の牙が数本折れている。
「デオン!スキャンだ!」
『はい、シャルル様!』
倒れて怯んだヘルヴェロスを、セイグリッターを通してデオンがスキャンする。
内部に取り込まれた人間を探しているのだ。
『………スキャン完了、発見しました』
スキャンの結果が、シャルルの見つめる前に映し出される。
ヘルヴェロスに取り込まれた人々………三白眼の不良達は、ヘルヴェロスの中心の頭の中に埋め込まれていた。
「よし、あそこを避けて攻撃する、できるね?」
『私の電子頭脳を持ってすれば、余裕、というものでございます』
自信たっぷりのデオンに、シャルルはニコリと笑って返す。
『グルガァァァ!!』
なめるな!と怒るように、ヘルヴェロスは左右二つの首から火炎弾を吐き出した。
「エネルギーシールド!」
すかさず、セイグリッターはエネルギーシールドを展開。
飛来した火炎弾を弾き返す。
「お返しだ!ショルダーカッター!」
次に、セイグリッターの両肩が展開。
そこから現れた取っ手を勢いよく抜く。
セイグリッターの両手に、二振りの短剣「ショルダーカッター」が握られる。
「行けっ!」
セイグリッターが、ブーメランのようにショルダーカッターを投げる。
二振りのショルダーカッターは回転しながら飛び、ヘルヴェロスの左右の首を切り落とした。
『ギャギギギギ!?』
二つの頭が運動場に落下し、悶え苦しむヘルヴェロス。
「止めだ!レーヴァテインッ!」
そして、シャルルはこの機を逃さない。
シャルルの声と共に、背部にマウントされたレーヴァテインが展開。
その持ち手を、セイグリッターの腕が掴む。
「レーヴァテイン………ブレイズアップ!!」
狙いを定めるように、その切っ先をヘルヴェロス向けて構える。
刀身より、ライトグリーンのエネルギーの刃が展開。
そこから放たれたエネルギー波が、ヘルヴェロスを拘束し、自由を奪う。
『ギャワワッ?!』
自由を奪われるヘルヴェロス。
瞬間、セイグリッターはレーヴァテインを振りかざしたまま、スラスターからのホバー走行により、滑るようにヘルヴェロス向けて迫る。
「だりゃあっ!!」
そして剣を大きく振り上げ、その一刃を向ヘルヴェロス向け、叩き込んだ。
ズワァーッ!
たちまち、ヘルヴェロスのボディはエネルギーの刃によって、真っ二つに切り裂かれる。
『ガグ………ギッ………!』
切り裂かれたヘルヴェロスの前に立つセイグリッター。
構えたレーヴァテインのエネルギーの刃が焼失し、元の姿に戻る。
それを、セイグリッターが再び肩にマウントすると同時に、ヘルヴェロスは大爆発を起こした。
ズワォ!
ヘルヴェロスは、跡形もなく爆発・四散する。
炎の中佇むのは、敵を撃破したセイグリッターの、雄々しい姿。
胸の金の装飾が、勝利を告げるようにキラリと輝いた。
………………
「………ん?」
気がつけば、三白眼の不良は学校の運動場の真ん中に倒れていた。
見れば、金髪やピアスもまるで伸びたかのように、運動場に倒れている。
何故自分がこんな所に倒れているか、説明がつかない。
必死に思い出そうとするも、体育館の裏で金髪、ピアスの二人と愚痴を話していた事しか思い出せない。
そこから今に至るまでの記憶が、ごっそり抜け落ちているのだ。
「………俺、今まで何してたんだ?」
呆然とする三白眼の不良の眼前で、沈む夕日が、そこら中に転がるヘルヴェロスの残骸を赤く染めた。
………………
全てが終わった後、勝一達は学校に戻ってきた。
体育館は全壊している。
が、校舎はセイグリッターが頑張った事もあり、一部が削れただけに終わっている。
「………シャルル君、どこ行っちゃったのかな」
学校を見回しながら、早苗が呟く。
あの後、彼等はシャルルと会う事はなかった。
セイグリッターに乗っていたので当然だが、勝一達はあの仮面の少年がシャルルだという事は知らない。
「まさか、戦いに巻き込まれて………」
「そんな訳あるか!」
最悪のケースを思い浮かべた匠を、勝一が一喝する。
「シャルルは死んじゃいない!きっと生きてる!そうに決まってる!」
そうは言ってみるものの、シャルルが見つからない以上それを証明する事はできない。
勝一達に、暗いあきらめのムードが立ち込めてきた。
その時。
「おーい!」
聞こえた。
今朝から聞いたばかりの、聞き覚えのある声が。
まさかと思い、勝一達は声のする方向を向いた。
そこには。
「おーい!」
大きく手を振り、こちらに走ってくる一人の少年。
一目で解った。
あれは。
「シャルル!!」
勝一が大声を出して喜ぶ。
そう、シャルルだ。
シャルルがこちらに走ってきていた。
「無事だったんだな!シャルル!」
「よかったぁ………」
他の面々も、無事に帰って来たシャルルとの再会を喜んだ。
まるで、戦場から帰還した友人との再開を喜ぶかのように。
「心配かけてすいません、お恥ずかしながら、恐くて学校の中で動けなくなってしまいまして………」
自分の正体はたとえ彼等にも話す訳にはいかない。
罪悪感を感じつつも、シャルルは彼等にそう嘘をついた。
「なにはともあれ、無事でよかったよ、ほんと………」
勝一が、そう笑いかける。
皆、いい友人だ。
今朝会ったばかりシャルルを心配し、ここまでしてくれる。
彼等の優しさを前に、シャルルは改めて誓う。
そんな彼等のいるこの地球を、なんとしてもウィーズの魔の手から守らねばならないと。
夕日がそれを称えるかのように、赤く輝いていた。
………………
「………何のつもりだ、ジャクス」
ディアボロに帰還したジャクスにかけられたのは、縄張りを侵されたような顔をしたヴォルガンのその一言であった。
あの時、ジャクスは地球に降り立ち、自身の操るインベイドベムをセイグリッターにけしかけていた。
「私の開発したインベイドベム生成システムが地球人にも通じるか実験したのよ」
「そういう話じゃねぇ、地球は俺の管轄だつってんだよ」
本来、地球進行はヴォルガンの担当であり、ジャクスの行為はヴォルガンからすれば横槍を入れられたような物だ。
「………総統から指令が入ったのよ」
「何だと?」
総統の名前を出した途端、ヴォルガンの態度が変わる。
総統………ウィーズの最高司令官でありながら、将軍である二人ですら、その姿を見た事がない。
「“地球進行作戦はジャクスと共同で行え”………とね」
「なんだと………!?」
ギリリと歯を食い縛るヴォルガン。
ジャクスは、その指令が今まで三体のインベイドベムを撃破したセイグリッターに対する対策である事を理解している。
しかし、ヴォルガンからすればそれは「お前一人では心許ないからジャクスにも手伝わせる」と、自分の実力を否定されたにも等しい物だった。
「………クソッ!」
自分の実力不足と、得意気に笑うジャクスを前に、ヴォルガン苛立ちを隠そうともせず、ずけずけとその場から去ってゆく。
「………さて、地球はどれだけ私を楽しませてくれるのかしら?」
その場に残されたジャクスは、モニターに映る地球を見つめて、ニヤリと妖しい笑みを浮かべる。
まるで、新しいゲームを見つけたゲームプレイヤーのように。




