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光輝士セイグリッター  作者: なろうスパーク
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第14話「強敵は雨と共に」

その少年は、暗闇の中にいた。


何も見えぬ闇の中であっても、少年には周りに何があるか解った。

そして、何をどうすればいいのかも。


バシュッ


暗闇の向こうより、一筋の光が飛来する。

30cmほどの金属製の針が、弾丸のように少年目掛けて飛んできた。

もし当たれば、大怪我所の騒ぎではない。



「………ッ!」



少年は腰に差していたホルダーより、一本のナイフを抜く。

そして自分の首に迫っていた鉄針を、そのナイフの一撃により弾いた。


カラン、と鉄針が少年の足元に落下した。


しかし、それで終わりではない。

鉄針は次々と、まるで降りしきる豪雨のように、四方八方から少年に向けて放たれる。



「………ッ!」



しかし、少年はそれを次々に、ナイフ一本で弾き落とす。


少年は額に汗をかくことも、表情を歪ませる事もなく、飛来する鉄針をただ弾き、落とす。


暗闇に、鉄針を弾く音が何度も響いた。



そして数秒の後、間鉄針の来襲は止んだ。


辺りには弾き落とされた鉄針がいくつも転がり、その中心に少年が立っていた。



「テスト終了、いかがですかNo.9755の性能は」

「中々だな、こいつなら“アレ”の乗り手に相応しい」



暗闇に光が灯り、少年の前に、二人の男が現れる。

いつも見る白衣の男と、自分“達”の主たる褐色の男。


光で照らされた事で、少年の姿も明らかになってきた。



セットされていないのか、寝癖のように所々が跳ねた灰色の髪。


太陽の光も浴びていないのか、吸血鬼のように白い肌。


ぴくりとも動かぬ、張り付けたような表情のない顔には、渇いた血のように赤黒い瞳が光る。


そしてその身体を覆うのは、ウェットスーツを思わせる、一部に装甲のついた強化服。



「No.9755」



褐色の男が少年を呼び、少年はそれに答えるようにひざまづく。



「てめぇに任務を与える、セイグリッターの撃墜だ」



自ら名乗った事で、彼等ウィーズですら知る事になったその名を呼びながら、男はその敵の姿を立体モニターに映す。


今まで三度に渡り、ウィーズの地球進行を邪魔してきた、青きスーパーロボットの姿を。



「てめぇに任務を与えるに至って、名前を与えようと思う」



今から勝利を確信したのか、男………獣将軍ヴォルガンは得意気に笑う。

その言うことを、少年は黙ってただ聞いていた。



「No.9755、今日からてめぇの名は………………」





………………





その日は、酷く雨が降っていた。

それでも、街は多くの人が傘を射して歩いている。


それもその筈。

今日は、日曜日なのだ。

例外こそあれど、日本において今日は仕事も学校も休みの日。


多くの人々が、普段は仕事のために出来ない事をしに、街に出掛ける。

ある者は買い物に、ある者は遊びに。



「別に僕は床でも構わないのですが………」

「そんな訳にはいかないでしょ?」



そんな中に、春香とシャルルも居た。

二人とも普段着に着替え、傘を射して雨の中を歩いている。

二人が目指すのは、街中にあるデパート「るりや」だ。



『私も、春香さんの言う事には賛成です』

「デオンまで?」



ペンダント状態のデオンが、周りに感づかれない程度の声で会話に割り込んできた。



『床の上では十分な休息は取れません、きちんとした寝具を使いませんと』



………シュピンネ戦後、春香の労働環境が改善されてから、しばらくの時間が流れた。


それまでは、ハードな仕事に押されて気にもしなかった。

だが、仕事が楽になってからしばらくして、春香はその問題にようやく気付いた。


シャルルの寝具が無いのだ。


それまでは、シャルル自身が自分の意思でそうしたという事もあり、シャルルは春香のベッドの隣の床で眠っていた。

だがそれでは適切な睡眠は取れないし、何より端から見れば虐待もいい所だ。


忙しさ故に給料にあまり手を出していなかった事もあり、資金に余裕がある。

ので、この日はデパート・るりやにシャルルの寝具一式を買いに来たというわけだ。



「………ここがデパート………」



るりやの自動ドアをくぐった向こうを前に、シャルルは目を見開いた。


華々しく並べられた製品の数々。

大きな店内の中に流れる流行りの歌。

そして、行き来する人々。


目に入る情報量の多さが、シャルルにはまるでパレードか遊園地のように見えた。



「………もしかして、シャルル君デパートは初めて?」



目をキラキラさせているシャルルを前に、春香は遠慮がちに訪ねる。

すると、シャルルは恥ずかしそうに答えた。



「………買い物って、あまり行った事がなくて」



はにかむシャルルを前に、春香は心がほんの少しだけ温かくなった。

こんなに喜んでくれるなら、連れてきてよかった、と。



「買い物終わったらレストラン行こっか」

「えっ、いいんですか?!」

「ふふ、今日は特別だよ」



シャルルが喜んだ姿を見て気をよくしたのか、涼子はそんな事を言い出した。


子供のように喜ぶシャルルを前に、春香は「子を持つお母さんってこんな気持ちなのかな」と思いながら、共に寝具売り場へと向かっていった。





………………





相変わらず、雨はザアザアと降っていた。


所は変わり、住宅地。

靴を雨で濡らしながら、一人の少女が傘を射して歩いていた。



「まさか帰りに降られちゃうなんて………傘持ってきてよかったぁ」



可愛らしい声と相対するような、一般的な中学生男子を上回る長身。

その身を包む、女の子らしい可愛らしい洋服。

シャルルのクラスメートの、烈華響だ。


手元には、自宅から歩いて数分のスーパーの買い物袋と、その中に入った玉子や砂糖といった食材。


ユアチューブに上げる予定の、お菓子作りの動画。

それに使う為の食材を買いに、スーパーまで出掛けていた。

そしてその帰りに雨に降られ、今に至る。



「服もびちょびちょだし………早く帰って着替えよっと」



お気に入りの服が濡れてしまった事を愚痴りつつ、早歩きで自宅に急ぐ響。

普段なら、何もなくそのまま自宅に向かう。

だが、この日は違った。



「………あれ?」



ふと、響が立ち止まる。

視線の先にあるのは、近所のゴミ捨て場。


何やら黒い物が、捨てられたゴミを漁っていた。


野良猫かと思ったが、今はこの通り雨が降っている上に、猫というには少々大きい。



見れば、それは人間の子供だった。

染めているのか、灰色の髪は所々が跳ねて、雨にぬれている。

マントのようなボロ布を身に纏い、雨の冷たさから身を守りながら、破れたゴミ袋から溢れた生ゴミを漁っていた。



「………えっ」



唖然とする響の前で、子供はどろりとした生ゴミを掴み、口に運び頬張る。


響自身、ホームレスを知らないほど世間知らずではない。


だが、普通なら親の加護下にあるような幼い子供が、こんな事をしている光景は、響を絶句させるには十分だった。


こんな事が起きるのは、遠い外国の話だと思っていたから。



「………ん?」



リンゴの皮を口から溢れさせながら、子供が響の方を向いた。

見られている事に気づいたのだろうか。



「………誰?」



口からリンゴの皮を垂らしたまま、子供はさっきからこちらを見ていた響に訪ねる。



「誰って………」

「オレに何か用?」



彼の表情には、悲しみも苦しみもない。

ましてや、今の自分のやっている事に疑問も葛藤もない。



「………それ、ゴミだよ?」

「ん、そうだね」

「………お腹壊すよ?」

「でも、これしか食べるもの無くて」



表情を崩す事なく、子供は生ゴミを手に取り、口に運ぶ。

まるで、生まれた時からそうしてきたように、何の疑問も持たず。


そしてハエの集っていたパンに手を伸ばした。

その時。



「ダメ!」



響が子供の手を掴み、それを阻止する。

その表情はまるで叱っているようにも見え、それでいて悲しげであった。



「………何?」



食事の邪魔をした響に対し、子供は眉を歪ませて麗香を睨む。

だが麗香を怯ませるには力不足だったらしく、麗香は強めに言い返した。



「………食べれる物作ってあげるから、そんな物食べちゃダメ、解った?」



響は、優しい女だ。

いい意味でも、悪い意味でも。


日本でホームレスの子供を見て驚くほど温室育ちの気があり、またそれを黙って見過ごせない程に世間を知らない。





………………





響の家は、ゴミ捨て場から歩いて十分もかからない場所にある。

祖父母の代で買ったというその家は、少々レトロなデザインながらも大きく、高級感のあるデザインをしている。



「ただいま」



響の声が響く。

だが、その言葉におかえりという返事が返ってくる事はない。



「いいよ遠慮しないで、ウチ親いないから」



玄関にて立ち尽くす子供を遠慮していると思い込んだのか、響はそう微笑みかける。


響の言うとおり、彼女の両親はこの家にはいない。

両方、海外で働いているのだ。


そのお陰でこんな高級住宅に住めているのであるが、この広い家に一人で住む響は、どこか寂しげだった。



「さ、これは脱いで」



響が身を屈め、子供の纏っていたボロ布を脱がそうとする。

いくら遠慮しないでといっても、流石に雨でびっしょり濡れた布を纏ったまま、家の中に上げる訳にはいかない。



「………あっ」



身を屈めて視線を合わせた事で、響は気付いた。


彼は美しい顔立ちをしていた。


彼女の知るシャルルとはまた別の、野を駆ける若獅子のような、野性的な美しさを持っていた。


そして。



「………臭い」



臭かった。

若獅子のように美しい彼からは、動物園のライオンのような臭いがした。





………………






ディアボロ指令室。


地球にいくつか潜ませていた監視ドローンから送られてきた映像が、いくつもモニターに浮かび、それを数十人の解析班が解析している。


ここで分析された一つ一つが、いずれ訪れるであろう本格的な進行作戦に役に立つ。

地味だが、大切な仕事だ。


それを一望できるブリッジにて、獣将軍ヴォルガンが得意気な笑みを浮かべていた。



「随分嬉しそうね、ヴォルガン」

「あ?」



それに茶々を入れるように、ジャクスが話しかけてきた。

一瞬表情を歪ませたヴォルガンだったが、すぐに笑みを取り戻す。

まるで、ジャクスを嘲るように。



「新型のインベイドベムを開発したのは知ってるけど、それで勝てるほど戦いというモノは甘くないわよ」

「へっ!ほざいてろよジャクス!」



ジャクスは忠告をしたつもりだった。

だがヴォルガンの耳にはそれが負け惜しみか余計なお節介にしか聞こえていない。



「今度はパイロットも特別なんだ!今までの制御AIとは違ぇ」



ヴォルガンの表情には、隠そうともしない絶対的な自信と、奢りが溢れていた。

戦う前から勝った気でいる。そんな物だ。


それを見てジャクスが思い出したのが、ヴォルガンが以前から進めているというある計画。



以前惑星アマデウス進行時に、貴族の残党………ようはシャルルの事………を逃してしまったヴォルガンは、

その悔しさから、より強力なインベイドベムの開発に着手した。


それまでのアーマイゼやシュピンネといったインベイドベムで得られたデータを結集し、多くの技術と予算、地球時間で換算して二年の時間を注ぎ込んで、それは完成した。



そして、その新型インベイドベム開発計画の裏で進んでいたのが、そのパイロットの養成計画である。


元より一部のインベイドベムには、AIによる自動制御の他に有人操縦用のコックピットも搭載しており、パイロットを乗せる事もある。


だがヴォルガンが求めたのは、より強力なパイロットだった。


そこでヴォルガンは、惑星進行時に捕らえた、他惑星の子供達に目をつけた。


子供は、経験が少ない分大人より物覚えが良い。

それを利用し、ヴォルガンは子供達を新型インベイドベムのパイロットになるべく教育を施した。


並みの軍隊を上回る過酷な訓練と、自分達ウィーズに絶対の忠誠を誓うような教育。

そして、戦うための兵器へと変わるための改造手術。


その果てに、何人もの子供の命を犠牲にし、ようやく一人のパイロットが選ばれた。


そこまでが、ジャクスの聞いた情報だ。



「………ウィーズの為に、命を燃やすガキ共、熱いシチュエーションじゃねぇか」



まるで演劇や物語の感想を話すように笑うヴォルガンを前に、ジャクスは表情を歪める。



「………私には理解できないわね、悪趣味すぎて」

「ハッ!どの道これで邪魔なクソ貴族残党はブッ潰せる、地球進行にてめぇの出番はねーよ、ジャクス」



皮肉を飛ばされるとも、ヴォルガンは相変わらず勝利を確信した笑いを浮かべる。



「………そういえば、その新型のパイロットって何て名前だったかしら?」

「名前?」

「付けたんでしょ?そう聞いてるわ」



ジャクスに言われ、ヴォルガンは少し考える。

そして。



「たしか………“ブレード”だったか」

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