第11話「王子様、学校へ行く」
宇宙要塞・ディアボロ。
月の裏側に身を隠すように佇む、銀河革命正義団・ウィーズの移動基地。
その中の廊下を、ウィーズ幹部・獣将軍ヴォルガンは、苛立ちながらドスドスと歩いている。
「あのクソ貴族、ふざけやがって………俺のインベイドベムを二体も………!」
口からぶつくさ漏らすのは、現在彼の推し進める地球進行計画の最大の障害となっている、憎きアマデウスの残党………シャルルとセイグリッターに対する愚痴。
無理もない。
送り込んだ機械兵も、それが変身したインベイドベムも、シャルルとセイグリッターにやられ続けているのだ。
おまけに、地球人もデルタ兵機という機動戦力を投入してきている。
おまけに、そのセイグリッターを動かして、自分の邪魔をしているのがシャルルだという事を、ヴォルガンは知らない。
惑星アマデウス進行時に、家系図等の王族の構成に関する物まで全て燃やし尽くしてしまったからだ。
その為に、地球進行が思うように進まず、このままでは自分の立場も揺るぎかねない。
故に、この通りイラついているのだ。
「………チッ!」
舌打ちをし、ある部屋に入るヴォルガン。
その場に居たウィーズの兵隊達が、ヴォルガンに向けて敬礼をする。
そこは、インベイドベムを始めとするウィーズの戦力を整備・開発する、一種の工場。
ゴウンゴウンと音を立てる多くの機械により、機械兵やインベイドベムが生産されている。
その中には、かつてのアーマイゼやシュピンネの同型機の姿もある。
ヴォルガンはその中を進んでゆく。
そして、一際大きな機材が置いてある場所で、歩みを止める。
「………こいつさえ完成すりゃあ、クソ貴族の一つや二つ………!」
ヴォルガンの見上げる先には、一体のインベイドベムが、機材に包まれて鎮座している。
それは、アーマイゼともシュピンネとも違う姿をしていた。
組み立て途中ではあるが、ヴォルガンの言葉が本当なら、かなり強力な機体と見える。
「ジャクスの奴だって黙らせて………」
黙らせてやると言おうとした直前、ヴォルガンはある事に気付いた。
今朝から、そのジャクスの姿が見当たらないのだ。
別の惑星への進行に言ったとも聞いていないし、このディアボロに居るはずなのだが。
「なあ、ジャクスの奴がどこ行ったか知らねぇか?」
作業員の一人に、ヴォルガンが訪ねる。
すると、帰ってきた答えは。
「ジャクス様なら地球に向かうと」
「地球ぅ?」
予想すらしていなかった答えに、ヴォルガンは思わず、疑問を声に出す。
本格的な進行も始まっていないのに、幹部が進行予定の星に何の用があるのかと。
………………
春香の住んでいるアパートから、徒歩で30分ほど。
商店街を抜けたその場所に、とある学校がある。
「私立時和中学校」。それなりの歴史と、それなりの偏差値の、今の時代どこにでもあるごくごく普通の私立中学。
そして今日は、新学期が始まる日。
桜が舞い、新しい季節を祝っている。
「はいはい、ホームルーム中は静かにして!」
2年生C組の教室にて。
まだ生徒達のざわめきが聞こえる中、教壇に立つジャージ姿の女性教師「久家由子」が、生徒達に向けて呼び掛ける。
数秒ほどで生徒達が口を閉じたのを確認すると、由子は話を再開する。
「今日はこの2年C組に、新学期から新しく加わる、転校生が来ています」
「「ええっ!?」」
由子の一言を聞き、再びクラス中が騒がしくなる。
彼等にとって、転校生というのはそれだけで重大なニュース。
男か女か、イケメンか美少女か、そんな話でクラスが盛り上がる。
「はいはい!静かに!」
パンパンと手を叩き、由子は再び生徒達に静粛を求める。
そして、クラスが再び静かになった事を確認すると、教室の入り口向けて呼び掛けた。
「それでは、どうぞ!」
まるでテレビのバラエティー番組がゲストを招くように、由子は教室の外で待っているであろう“転校生”に対して呼び掛けた。
ガラリと手動式のドアを開き、その転校生が2年C組の教室に足を踏み入れた。
………その瞬間、クラスの全員が息を飲んだ。
風に揺れるサラリとした金髪。
キメの細かい白く綺麗な肌。
サファイアのような青く綺麗な瞳。
男子制服を着ていなければ男と解らないような、とても美しい少年。
それが、優雅さを撒き散らすように歩きながら、黒板の前にやってきた。
「な………なにアレ」
「外国人、よねぇ?」
女子が小さな声で話す。
彼女達には、まるで彼が一歩歩く度にキラキラした光が舞っているように見えていた。
「………そ、それじゃ自己紹介をどうぞ」
その美しさに圧倒されなが、由子が転校生に呼び掛けた。
転校生はそれに対して軽く会釈すると、黒板の前でチョークを手に取った。
カッカッカ、と黒板にチョークが走る。
その姿さえ、可憐に見えてしまう。
「イタリアから来ました、シャルル・アマーリアです、よろしくお願いします!」
ニッコリと笑うと同時に、目映い太陽の光のような物が広がる、ように見える。
たちまち、クラスの女子の数名のハートが、きゅんと撃ち抜かれた。
それだけ、彼は美しかった。
さて、このシャルル・アマーリア………もといシャルル・ルイ・アマデウスが、何故この時和中学に居るのか。
それを話すには、まず数日前まで時を遡らなければならない。
………………
午後6時20分。
春香の部屋にて。
「学校………ですか?」
春香と共に夕食を囲んでいたシャルルは、春香からある提案を出された。
それは、学校に通ってはどうかというもの。
「もうすぐ新学期が始まる時期だし、この先の事を考えると、もっと地球の文化に触れた方がいいかなって………」
今まで他人に物を申す機会が少なかった為か、遠慮がちな春香。
確かに、地球の文化に触れて欲しいというのもある。
だが、いつも嫌な顔一つせず家事のほとんどを引き受けているシャルルに罪悪感を感じており、普通の学生として青春を楽しんでほしいという思いもあった。
『私も賛成ですね』
「デオン!」
先ほどまで、バディモードで食器を洗っていたデオンが、会話に割り込んできた。
『もうすぐ、地球では新学期が始まる時期………シャルル様ぐらいの年齢の者が家にいるとなると、怪しまれる可能性があります』
「そうか………」
デオンの言う通り、身を隠すためのカモフラージュとしてもピッタリだ。
「それじゃあ………行ってみましょうか」
今まで、勉強は家庭教師による自宅学習をしていたシャルルにとっても、学校という場所に興味はあった。
シャルルは笑って、首を縦に振った。
『では、早速個人情報偽装といきましょうか、ちょっとインターネット借りますね』
「えっ?」
何の前ぶりもなく、まるでコーヒーを飲むかのように自然に、デオンはとんでもない事を言い出し、春香のパソコンや携帯に繋いであるWi-Fi機器に自分のコードを繋ごうとする。
「ま、待って、ちょっと」
『何か?』
「いや、個人情報偽装って不味くない?」
無論、春香は止めようとする。
個人情報の偽装は、それこそよく見るスパイ物の洋画ではよく聞くが、合法的な物ではない事ぐらい春香にも解る。
『シャルル様はこの地球においては、個人情報を証明する物は何一つ持っていませんし、それにアマデウス星の王子だと履歴書に書く訳にはいかないでしょう』
困惑する春香であったが、確かにデオンの言う通りだ。
シャルルはこの地球上において、保険証も戸籍も持たない、何者でもない存在。
真実を語った所で、宇宙人の王子様だなんて誰も信じてはくれないだろうし、何よりウィーズに目をつけられるかも知れない。
「安心してください、デオンは王国でも最上級のコンピュータでした、相手に気付かれず個人情報を捏造する位は朝飯前ですよ」
「は、はぁ………」
Wi-Fi機器にコードを繋げ、今まさに日本の最重要コンピュータを遊び感覚で書き換えているデオンを前に、春香はため息をつく。
ああ、自分はとんでもない物を拾ってしまったのだな、と。
………こうして、シャルルは「親戚のお姉さんの家にホームステイしているイタリアからの留学生、シャルル・アマーリア」という、地球上での仮の姿を手に入れた。
そして、今に至る。
………………
朝のホームルームと一時間目の授業が終わった。
授業の内容自体は、シャルルは十分についていけた。
そして、休み時間にて。
「あっちが理科室で、こっちにあるのが家庭科室、調理実習の時とかに使うヤツだ」
シャルルは、自分の所属する班の面々に、学校を案内してもらっていた。
時和中学では、教師の負担を減らすという目的で、小学校のような班制度が採用されているとの事。
ちなみに、シャルルの所属は4班。
「改めまして、はるばるイタリアから日本にようこそ、俺は秋戸勝一、ショウって呼んでくれ」
先頭を歩き、色々指差してシャルルに教えてくれているのは、自ら名乗った通り「秋戸勝一」という男子生徒。
焦げ茶色のツンツンした髪に、怒られない程度に着崩した制服という、見た目が示す通りの活発な男子だ。
「私は桐生早苗、よろしく!」
元気よく次に名乗ったのは、同じ班の女子生徒「桐生早苗」。
黒髪のボブカットに黄色いカチューシャをした、勝一とは対照的に制服を規則通りに着ている、真面目な女子。
「烈華響よ、よろしくね♪」
最後に、後ろを歩いていた同じく同班の「烈華響」が、優しく微笑みながら名乗った。
バレー部の所属で、赤みのかかったポニーテールが特徴のおっとりとした優しい性格だが、なんと男子より背が高い。
「みなさん、わざわざ僕のためにありがとうございます」
親切な三人に、にっこり笑って感謝の意を示すシャルル。
よき友人になれそうだという、思いも込めて。
「実はあと一人、紹介したい奴がいるんだ」
「班以外の方ですか?」
「いつもはこの先の図書室にいるはずなんだが………」
勝一曰く、紹介した4班のメンバーの他に、あと一人紹介したい人物がいるらしい。
それは、今歩いている先にある図書室にいつも居るようだ。
「………あっ!」
図書室の方を見て、勝一が声をあげた。
彼の見つめる先には………。
「だ、だから、僕は君達に何もしてないじゃないか!?何で殴られなきゃならないんだ?!」
地面に倒れ込み、必死に自分の無実を訴えている、一人の男子生徒。
背が低く、メガネをかけた天然パーマの、ガリ勉や優等生という言葉をそのまま形にしたような外見をしている。
制服の各部に靴底状の汚れがつき、殴られたのか、右の頬が赤くなっている。
「ビービー喚くな!テメェみたいなナヨナヨした野郎を見るとイライラすんだよ!ボケがッ!」
そして、その汚れや頬の犯人であろう彼を見下し叫ぶ男子。
ムダにガタイがよく、目は鋭い三白眼。
そして金髪やピアスをつけた似たような取り巻きを二人引き連れて、メガネの男子を取り囲んでいる。
誰が見ても解る、不良生徒達。
状況からも言動からも、誰がどう見てもいじめの真っ最中だ。
「あいつら!」
やめさせようとしたのか、勝一が彼等に割り込もうと、走ろうとした瞬間である。
「おら喰らえや!」
三白眼の不良が、メガネの男子に向けて己の鉄拳を叩き込もうとする。
だが。
「おわっ!?」
メガネの男子に命中するはずだった拳は、何もない宙を切り、勢いあまった三白眼の不良が倒れそうになる。
「………えっ?」
勝一達が気付いた時には、自分達と一緒に歩いていたシャルルの姿は無かった。
そこにあったのは、先程まで殴られそうになっていたメガネの男子を抱き抱え、自分達と不良達の間に佇んでいる。
「………大丈夫ですか?」
「あ………はい」
抱き抱えたメガネの男子を、シャルルは優しく地面に下ろした。
男同士であるが、まるでおとぎ話等の、お姫様を助けた王子様のようにも見えた。
「おい………無視してんじゃねぇぞゴラ」
しかし、三白眼の不良はそれが面白くないのか、次はターゲットをシャルルに変えた。
「往ねやこのダゼボケがァァーーーッ!!」
再び腕を棍棒のように振るい、シャルルに向けて殴りかかる。
だが。
「よっと」
「うおっ!?」
しかしシャルルは、それを紙一重で回避。
三白眼の不良は勢いあまって、今度こそ倒れてしまった。
「野郎!」
「なめんじゃねぇ!」
続いて、取り巻きらしき金髪とピアスの二人がシャルルに迫る。
「よっと」
「おわっ!?」
しかし、彼等の拳がシャルルを穿つ事はなかった。
どれだけ殴ろうが、どれだけ蹴ろうが、シャルルはまるで風に揺れるカーテンのように彼等の攻撃を避けていく。
………そもそも、シャルルはウィーズの送り込む機械兵と人知れず戦っていたのだ。
不良中学生の拳など、避ける事は容易い。
それこそ、止まって見えるだろう。
直に、不良達の方が体力を使い果たし、シャルルへの攻撃をやめた。
「チッ………行くぞ!」
バツが悪そうに舌打ちをし、三白眼の不良は金髪とピアスを引き連れて去ってゆく。
その場に残されたのは、シャルルとメガネの男子。
そして、まるでアクション映画のカンフーのようなシャルルの芸当に、唖然とする勝一達。
「………お前、すっげぇのな」
とんでもない転校生が来たもんだ。
と、勝一は「何か?」と言うような顔をしたシャルルを前に、言葉を漏らすのであった。




