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穢れなき天使の愛し方  作者: 皇緋那
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第23話 たとえ憧れの先輩だとしても!

 らびぃはみなものときと同様に検査を受け、結果はなんともないようだった。

 ヘヴンズフォーチュンが、らびぃにとりついた闇をうまく切り離してくれていたのだ。


 まだ天使の仕事に復帰するのは不安が残るため、いますぐに出動はできない。

 けれど、こむぎがらびぃについているということですぐ納得してくれたらしい。

 変身しての戦闘や事件現場である管制室にひとりでこもることは禁じられるが、彼女の生活そのものにはそう支障でもない。

 ひとりでだめなら、こむぎといっしょにいるということらしい。


 そして、こむぎが管制室で補佐をすることになったせいか。

 こむぎの知り合いらしいふたりの天使のお迎えは、なぜかまひるたちふたりがやることになったのだった。



 入口で待ち、迎えるところからはじまるこの任務。

 時間まで扉の前で待機し、客人が来るまではみなもと話して暇をつぶす。


「せ、先輩だって、緊張するね」


「大丈夫だって。ここの先輩たちだって優しいし」


「でも、教官みたいなこわいひとだったらどうしよう」


 不安がるみなも、気にしていないまひる。

 普段はいっしょにいるはずのさやがいないのは、らびぃの件が起きたとき居合わせていたためだ。

 原因の究明のため、話を聞かれている。


 だから、さやが天界社に協力しているぶんまで、まひるもみなもも頑張ろうと思っていた。

 それとこれとは別に、まだ見ぬ先輩のことがちょっぴり怖かったりもするけれど。


「あ、まひるちゃん、あれじゃないかな?」


 空の向こうから飛来する、金色と紅の影。

 背に備わっているのは飛翔するための機構のようだ。

 天使の翼とみて間違いないだろう。


 ふたつの影がまひるとみなもの眼前に着地し、土煙を巻き起こす。

 思わずみなもが「かっこいい」とつぶやくなか、不明瞭な視界にはきゅうに大きな影が浮かび上がってくる。


 紅の影は土煙を吸い込んだのか咳き込んでいて、しかし堂々とした立ち姿は崩れなかった。

 まるで立ちはだかる大きな壁のようで威圧感がある。


 とっさにみなもをかばって立つまひる。

 土煙が晴れて、そんなふたりに睨みつける鋭い視線が向けられているのがよくわかるようになった。


 空色と緋色のオッドアイをもったその眼に、背後のみなもが怯えて声を漏らす。


「ま、まひるちゃん、わたし達、なにかしちゃったかな、なにもしてないよね……」


「ねぇ、そこの二人」


「んひゃっ、ひゃいっ!?」


 話しかけられるとは思っていなかったのか、みなもが返事をしようとしてかんでしまった。

 すぐ後ろにいるみなもの緊張がまひるにも伝わってくる。


「もう、えりすちゃんってば! そんなに見つめたら、怖がらせちゃうでしょ?」


「せれすちゃん。いや、かわいらしいなと思ってたら、つい見とれちゃって」


「もうっ、そんなえりすちゃんもかわいいんだから!」


 金色の影のほうがぴょこんと現れて、仲睦まじく話しはじめた。

 怖いという印象の彼女もその天使のまえでは頬をあからめている。


 端から見れば、まるで姉妹、いや親子ともいえるほど身長の違うふたり。

 こむぎとらびぃよりも差があるだろう彼女たちが、今回やってくるという先輩だろう。

 まひるはひとまず、確認から入ることにした。


「えっと……『逢花(おうか)せれす』先輩と『瀬名(ぜな)えりす』先輩ですよね」


「そうだよ。ボクがせれすで、こっちはえりすちゃん!」


「うん。僕の名前はえりす……せれすちゃんともども、よろしく」


 ヘッドフォンをつけていて、金髪で小さいほうがせれす。

 死んだ魚のような瞳をしていて、紅の髪で大きいほうがえりす。

 変身はいつの間にか解いていたようで、いまのふたりは背に翼をもってはいなかった。


 まひるは相手の名を覚えようとしながら、元気よくせれすと握手をした。

 もちろんえりすとも、ひかえめにする。


「私は日高まひる、この子が由良目みなもです」


「まひるちゃんに、みなもちゃん! かわいい名前だね、えりすちゃんもそう思うでしょ?」


「うん、かわいい。せれすちゃんもそう思うんだね」


 なにやらすぐにふたりだけの世界へ行ってしまうみたいだが、覚えてくれているのだろうか。

 でも、そう怖い人たちではないということがわかった。

 特にフレンドリーなせれすのおかげでみなもの緊張もおさまっているみたいで、自分から前に出ていった。


「えっと、みなも、です。よろしくお願いいたしますっ!」


 ふたりに握手してもらって、まひるのところに飛び跳ねながら戻ってくるみなも。

 先輩天使に優しくしてもらって、とっても嬉しそうだ。


 すぐ二人だけの世界に入り込んでいきたがるのは、みなももそうである。

 まひるはそれを知っていたし、ほほえましいと思っている。

 だから自然に笑えるし、彼女の求めるままに頭を撫でてあげたりもする。


「あれ、えりすちゃん、ちょっとうらやましい?」


「え。せれすちゃん、なんでそうなるの」


「だって、頭なでなでとか憧れてそうだし。ほら、かがんで?」


 えりすは恥ずかしそうにして、せれすに撫でてもらっている。

 あのふたりも、とっても仲良くしているのだろう。

 しばらくは、その光景をなぜかちょっと頬を染めているみなもといっしょに眺めていた。


 えりすが満足したところで、立ち話ばかりも何だしということで、社屋へ入ってゆく。


 せれすとえりすだってもともとは訓練生だったし、今回のように本社へ呼びつけられることもままあるという。

 案内はいらず、むしろまひるたちがひっぱられて。

 どこへ行くのかと思うと、休憩用のスペースだった。


「ふつうの人間だったら軽食でも頼んでたんだけど!」


 せれすは笑っているが、そもそも食事の体験がないので、苦笑いだけになってしまう。

 そのせいでちょっと静まり返り、ほかに誰もいないことも相まって、微妙な空気に満たされている。

 沈黙を破ったのは、意外にも物静かなえりすのほうだ。


「……せれすちゃん。僕は面白いと思うよ」


 そんなことを言われたら、かえって恥ずかしくなったようだ。

 せれすがおとなしくなって、話題が本格的になくなってしまう。


「え、えっと、その、おふたりはよく番組とかにご出演されてますよね」


「あぁ、僕とせれすちゃんは二番隊の所属だから。こむぎたちほどじゃないけど、仕事はけっこうあるかも」


 みなもが絞り出した話に、えりすが乗ってくれる。

 せれすとえりすのことはまひるも知っている。

 憧れの天使のことを追っかけないはずはないのだ。


 天使の二番隊が管轄する地域においては、活動している幹部エーロドージアがさほど活発ではない。

 そのため、所属する四人それぞれのメディア露出が多い。

 アイドルという側面が強いめるくたちよりも、芸能人らしいというか、タレントに近いといえるだろう。


 そして、まひるたちも出演番組は欠かさずチェックしている。

 せれすとえりすはほかふたりよりも戦闘やこういったヒナタ直々の仕事があるようでほかメンバーに比べ少ないが、根強い人気がある。


「わたし、おふたりの番組が好きで。このあいだのネット配信限定のキスの味の企画だとか」


「見てくれてたんだ! ボクはえりすちゃんといっぱいふれあえて楽しかったよ!」


 みなもの言う企画の話で、せれすが元気を取り戻した。

 逆にえりすがしゃべらなくなって、顔をかくしているが、ふたりとも企画内で繰り返したキスの感触を思い出しているのだろう。


「あ、そうだ! まひるちゃんに、話したいことがあるんだった」


 どうやら本題を思い出したのかせれすがまひるのほうへ話しかけてきた。

 相手は先輩なのに見下ろす形になるのが、らびぃのときもよく思うけれど違和感になる。


「ふたりも仲良しさんだよね。でも、たしか新入りちゃんはもうひとりいるんじゃなかった?」


「さやのことですか?」


「そうそう、さやちゃん。その子は?」


 いまはヒナタに事情を聞かれていると説明し、せれすは何度かうなずいた。

 すると、いままでの明るい調子から一転、真剣な表情になる。


「いきなりで申し訳ないんだけど。ボクたち、さやちゃんのことを疑ってるんだ」


「えっ?」


「こまかくいうと、疑ってるのはヒナタちゃんだけどね。ボクとえりすちゃんはいわば取り調べ担当ってこと」


 いきなりのことで頭が追い付かなかった。

 さやは疑われて、ヒナタに呼び出されたということか。


 せれすの口からは事情が語られる。

 ふたりに届いた情報を、まひるたちにも伝えるべきだと思ってくれたらしい。

 どうにか頭をはたらかせ、その話をきいていく。


 まず。らびぃの事件についてだ。

 彼女が暴走していた原因は特定できていない。

 けれど、さやが注いだ飲み物を飲んだあとに様子がおかしくなったという。


 そのときのさやの行動自体は、ドリンクサーバーになにかをしかけた真犯人がいてもおかしくないものが連ねられている。

 しかし、管制室に出入りしていたのはさやとらびぃだけで、またらびぃは直前にも同じサーバーから飲み物を注いでいる。


 なにかができるとすれば、さやしかいない。

 現在よりも有効な手がかりが出てこないなら、その結論にしかたどり着かないのだろう。


 まひるたちの知っているさやは、そのようなことをする少女ではない。

 ちょっと不思議な子で、ときになにを考えているのかよくわからないときもある。

 けど、決して先輩を陥れたりすることはないはずだ。


「ボクたちだって、積極的に天使の誰かをわるものにしたいわけないよ。でも、これ以上敵の好きにはさせられない、っていうのがヒナタちゃんの方針なんだよね」


 確かに、今回の件はみなもの暴走に続いてまずい状況になっていた。

 天界社内の誰かが、敵に回るかもしれなかったのだから。


「できれば、ふたりにも来てほしいな。さやちゃんの本当のこと、知らなきゃいけないし」


 それはもちろん、承諾すべきことだ。

 友達が潔白だと証明するというのを拒むなんて選択肢はない。

 みなもと顔をあわせ、思うことは同じだと目と目で確認して、揃ってうなずいた。


「たとえ憧れの先輩だとしても、社長さんだとしても。友達が嫌な思いをするのを、黙って見てなんかいられませんから」


「うん、うん。かっこいいなぁ、まひるちゃんは。

 そうと決まればさっそく行かなくちゃ。いつまでもさやちゃんがよーぎしゃ扱いされてるのはだめだからね」


 先輩天使に導かれ、天界社のエレベーターに乗り込んだ。

 ふだんは使わない上層の、ヒナタの領域。そこにさやがいる。


 みなもと手をつなぎ、おたがいのてのひらににじむ緊張の汗をまぜあって、心を落ち着かせた。

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