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第七話 『魔法』⓶

だいぶ間が開いてしまった……

継続して読んでいただいていた方々には申し訳ありませんでした。

「『魔法』は存在する。ねえ、文月君はどんなものを想像するかしら」


「杖とか呪文、でしょうか……」


「そうね、そういうものを使う人たちもいるわね。でもそれがすべてじゃない」


 巻菜はそこで一息ついて、白い少女に視線を向ける。


「彼女とはどれくらい話したかしら」


 そう文月に尋ねてきた。


「えぇと…… 急いでいたので、ほんの少し、くらい」


 文月は朝の出来事を思い出してみるが、お世辞にもしっかり話をしたとはいえない。むしろ、一方的に鍵を押し付けて家を出てしまっていた。 歯切れが悪くなるのも仕方がない。


「そう。名前は?」


「訊いたんですけど答えてもらえなくて……」


 そこで巻菜は少し意外そうな顔をした。


「あら? 教えてあげなかったの?」


 巻菜の問いは文月に向けたものではない。


「?」


 巻菜の視線の先ではくだんの少女が首をかしげている。


「わたし、ヒトの名前、もってないもの」


(ヒトの名前? 持ってない?)


 文月には少女が何を言っているのか分からなかった。


「あぁ。そういうこと…… それじゃあ、文月君にはほとんど何も話してないのね?」


 コクリ、少女が頷く。


「ふみつき、忙しそうだったから」


「でもそうね…… ならやっぱり、話はそこからね」


 巻菜は文月に視線を移す。


「文月君、彼女はね、普通の(・・・)女の子なんかじゃないわ」


「はい」


 少女は一瞬不服そうにしたが、彼女の現れ方、外見、トラックの件、そのすべてが「普通」ではなかった。


「むしろ、人ではない、わね」


「え? それは」


(ちょっと酷くないか?)


 どこからどう見ても少女は人間だった。いくらなんでも巻菜の言葉は簡単に受け入れられるものではない。


 文月の様子を見た巻菜は少し思案すると、


「あなたに渡した本はどこにあるかしら?」


「家に…… 置いて来ました」


 突然蒸し返された話に、文月は居心地が悪くなった。


 しかし、巻菜は


「ないわ」


 と言った。

 

 断言、と言うしかない口調であった。


「……え?」


家には・・・ないわよ」


 聞き返す文月に巻菜は同じ言葉で再度答え、


「だってここにいる・・もの」


 と付け足した。巻菜の視線は白い少女に向かっていた。


(……この、子?)


 いや、そんな馬鹿な。そう文月が考えているのを見透かしたか、巻菜はさらに言葉をつづけた。


「そうよ。この子。この子があなたが最初に出会う魔法。あなたに適合し、あなたを探していた魔導書」


 巻菜の言葉に少女は少し誇らしげに胸を張った。


「名前はそうね…… 文月君が考えてあげたらどうかしら」


 巻菜はそこでいったん説明をとめた。少女について、今はもうこれ以上語るつもりはない。魔法を信じると言ったのだから、少女についても信じろ、そういうことなのかもしれない。


「彼女が…… 本」


「ええ」


 もはや現実感などあった話ではなかったが、二人に文月をだましているようなそぶりは見受けられない。


 少女は文月の顔を見つめて目を輝かせている。名前に期待しているのだろうか。期待にこたえられるのだろうか、と不安になる。


「……アリス」


 少しの逡巡ののち、文月は最初に頭に浮かんだ名前を口に出していた。


「あら。いいんじゃないかしら」


 巻菜は少し意外そうにしていた。どうやら話を振った割に彼女は文月のネーミングセンスには期待していなかったようだ。


「……アリス。わたし、アリス。うん……」


 自分の知らない不思議な世界。そんなイメージからつけた名前だったが、どうやら名付けられた本人には好評らしい。何度も口に出しては頷いて目を輝かせている。彼女の場合、名前の意味よりもそれ自体が重要な気がしたが。


「よかったわね。アリス」


「うん」


 本当にうれしそうに笑うアリスの顔を見ていると、自分の身に起こった不可思議など大した問題ではないような気がしてくることが、文月は不思議で仕方なかった。


「さて、名前も決まったところで、少しずつ本題に戻りましょうか」


 巻菜の声は先ほどまでよりもほんの少し、威厳や圧力の様なものが感じられて、文月も知らずに背筋が伸びる。 

 

(……ここからが、本題。さっきまでだって十分俺にはワケが分からなかったのに)


「お話ししましょう。魔法とは何か。この世界の形、その一端について」

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