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「黄瀬さんって、お付き合いされてる方とかいるんですか?」
「いえ、いませんよ」
「そうですか。実は知り合いに、恋人を探してる人がいて黄瀬さんにどうかなと」
黄瀬は、答えられなかった。杏央の顔が浮かんでしまい、動揺したのだ。
「あ、気になる方とかいる感じですか?」
動揺したのを見た知人は、少し楽しげに聞いてくる。その楽しげなオーラに少し腹が立った黄瀬は言ってしまった。
「恋人がほしいと思った事がないんです」
ガタタっとすごい音がして振り向くと、目を潤ませてすぐにでも泣きそうな顔をした杏央がいた。
何も言わず、走り去って行った杏央を黄瀬は追いかけた。追いかけないと行けない気がして。
「A地点からB地点へ。対象はそちらへ行きました」
「B地点、了解」
「がんばれー、黄瀬さーん」
置いていかれたはずの彼は、楽しげに誰かに電話をかけた。
「杏央さまっ……ちょっと、まって」
黄瀬が思っていたよりも杏央の足は速かった。陸上でもしてるのか、というレベルだ。絶対に、自分が歳で足が遅いわけではない。きっとそうだ。
「杏央さま!」
「うるっさい!」
泣き声の混ざったような杏央の一言に、黄瀬は立ち止まった。先程から杏央の泣き顔を見るだけで、泣き声を聞くだけで心がチクチク痛んでいた。黄瀬はこの正体を知っている。そして、それは杏央に言わなければならない。
「……後をつけたんじゃないから」
「は?」
「だから! あの場にいたのはお見合いするためであって、黄瀬のあとをつけたりしたんじゃないの!」
「え、うん……。うん?」
いきなり始まった弁明に面食らう。誰もあの場所にいた事は責めていない。いないのであるが……。
「……したことがあるな? さては」
「うっ……。に、2回……。ごめんなさい」
意外と少なかった。10回はされてるかと思っていた。
「まあ、それはいいとして。何の弁明聞かされてるの、俺」
「お、怒ったから来たんじゃないの……?」
「怒る理由がありませんが?」
杏央がポカンとしている。かわいい。なんだ、この可愛い生き物は。俺はもう末期かもしれない。
「じゃあ、なんで?」
「俺は恋人がほしいと思った事がない」
「は? それはさっき聞こえてきたわよ」
「気になる子に許嫁がいるから」
再度、ぽかんとした杏央の額にそっと口付けをしてみる。
「流石にわかりましたか?」
「は、はい……」




