ろ「死ぬまでは死ねない」
なんてことのない日だった。
雨が降っていた。
バスを待っていたあざみは、
猫を見つけた。
かわいいなあ。
そんな、
くだらないことを考えていた。
猫が、
道路に飛び出た。
車が来た。
あざみは、
反射的に飛び出していた。
猫を押しのけた。
そして、
轢かれた。
ずっと先まで飛ばされて、
倒れた。
猫を見た。
無事だった。
安堵して、
あざみは目を閉じた。
死んだ。
そして。
あざみは、
目を覚ました。
起きたあざみは、
直感で分かった。
わたしは死んだんだ、と。
それでも、
あまり悲しくはなかった。
自分が死のうと、
誰も悲しまないから。
周りを見た。
あざみは、
救急車で運ばれ、
病院で倒れていた。
まあ、
もう仕方がない。
もう死んでいるから。
両親が来た。
あざみは驚いた。
両親は叫んで泣いていた。
あざみの手を握って、
泣き叫んでいた。
父親も、
母親も。
見たことがない、
そんな顔をしていた。
あざみは、
ずっと思っていた。
わたしはいらなかった、と。
わたしが死ねばよかった、と。
でも、
それは違った。
あざみは、
勘違いをしていた。
両親は、
あざみを深く愛していた。
あかりの葬式の時は、
気が動転していただけだった。
あざみは、
そこで泣いた。
泣いても、
どうにもならないと分かっていた。
それでも、
泣いた。
「わたしが代わりに死ねばよかった……」
母親がそう言った。
そんな思いを、
させてしまったことを。
あざみは、
ひどく悔やんだ。
そして。
あざみは、
足元が崩れる感覚を味わった。
実際に、
足元から足がなくなっていた。
そして、
どんどん身体が消えていく。
膝が消えた。
腰が消えた。
胸が消えた。
腕が消えた。
あざみは、
何が起きているのか分からなかった。
声を上げようとした。
しかし、
声は出なかった。
最後に見えたのは、
泣き続ける両親だった。
そして。
あざみは、
いなくなった。
そしてまた目を覚ますと、
魂が集まる、花火が上がる、
そんな場所にいた。




