い「涙は感情の一歩先にあるものではない」
わたしって、なに?
あざみは考えていた。
烏とごみ袋の前でしゃがみ込み、
じっと、考えていた。
あざみを作っていたのは、
好きなものと、
得意なことと、
大切な思い出。
それぞれが、
心の中で核となって、
あざみを動かしていた。
あざみは考えていた。
双子の妹、
あかりのことを。
あかりは灯だった。
あざみとは正反対の、
明るい、そんな人。
好きなものと、
得意なことと、
大切な思い出。
双子で、
二人のあざみあかりは、
ずっと一緒だから、
全部一緒だと思っていた。
でも、
あかりは、
なんでもできる人だった。
あざみは、
素直に誇らしかった。
妹が、自慢だった。
それなのに。
歳が経って、
周りから比較されて、
卑下されて、
何もかもが、
あざみを下に見た。
あかりは、
東京の大学に行くと言って、
聞かなかった。
さっさと消えてくれないかな。
そう思った時、あざみは、
自分の心が、もう、ずっと、
濁ってしまっていることに気づいた。
あかりは変わらない。
変わらない態度で、
あざみに接した。
あざみは拒絶した。
そして、もうすぐ、
あかりは大学に行く。
そんな時に起こった。
あかりが、死んだ。
よく晴れた日のこと。
卒業間近の通学路で、
あざみとあかりは歩いていた。
あかりは、
楽しみで楽しみでしょうがない、
と言った。
あざみは相槌を打った。
笑った。
心とまったく違う態度を取れる自分に、
あざみは、あざみを嫌悪した。
横を見た。
あかりが消えた。
消えたんじゃなく、
あかりは、車に撥ねられた。
ずっと先で、倒れていた。
駆け寄った。
あざみは、
自分でも訳がわからなくなるくらい、
叫んで、
泣いて、
助けを呼んだ。
救急車に乗せられた。
意味はなかった。
あかりは、
もう死んでいたから。
葬式の最中、
両親は泣いていた。
あざみは泣かなかった。
代わりに、
あかりとの思い出を、
頭の中でずっと繰り返していた。
両親は言った。
「……あざみは、
本当にあかりが嫌いね」
そんなことはない、
と言えなかった。
言って、
それが嘘だと、
心が思ってしまったら。
もう、
あざみはどうしようもなくなる。
それから、
あざみは時たま、
ぼーっとする。
そして考える。
わたしってなに?
わたしって、
いていいの?
あかりの代わりに、
死ねばよかった?
行き場のない思いを抱え、
考えなくていいことを考えて、
生きていた。
そして。
あざみは大学に行った。
意味も感じなかった。
でも、
自分が、
あかりの代わりに頑張るのだと思った。
それから何か月か後に起こった。
あざみが、死んだ。




