この気持ちがバレないように
それから日にちが過ぎ去り、文化祭当日となった。
生徒はメイドやキャラクターの仮装をして校内を歩き周り、写真を撮っている。
教室は射的やお化け屋敷、チョコバナナやたこ焼きを売っていてたくさんの人で賑わっている。
「大野君」
佐々木さんが僕を見つけて前から手を振り、駆け寄ってきた。
佐々木さんはメイド服を着ていて、普段は高く束ねている髪をツインテールにしていた。
想像よりも何倍も可愛くて胸が高鳴る。
「あれ、大野君、仮装しなかったの?」
佐々木さんが僕の着ている制服を見て、そう言う。
「まあ、僕はキッチン担当だしいいかなって思って」
「えー、そっか」
佐々木さんは少し残念そうな顔になる。
その時、誰かから視線を感じた。
その方向を振り向こうとしたが、佐々木さんに話しかけられたので慌てて彼女を見る。
「そういえば、せっかくだし写真でも撮らない?」
その言葉に再び胸が高鳴る。
「え、二人で?」
僕はそう言いながら、少し身体中が熱くなる。
「うん、…ダメかな?」
彼女が首をかしげて僕をじっと見つめる。
見つめられると、どうすればいいか分からず視線を外す。
こういう時、僕も撮りたいって言うのは照れるしなんて返せばいいか分からない。
必死に考えてどうにか言葉を絞り出す。
「…いや、全然、撮ろう」
女子と二人で写真を撮ったことがないからただでさえ緊張するのに、よりによって佐々木さんとツーショットだなんて。
緊張するが、夢のような瞬間に僕はこのまま時間が止まればいいのにと思う。
そんなことを考えていると佐々木さんは僕に近寄り、隣に並ぶ。
僕は自分の心臓の音の大きさに恥ずかしくなる。
心臓の音って佐々木さんには聞こえていないよね?
僕の額には汗が流れるが、前髪を整えて誤魔化す。
佐々木さんはスマートフォンをポケットから取り出す。
そして、彼女はスマートフォンを持つ腕を伸ばし、カメラをこちらに向けて写真を撮る。
「じゃあ、いくよ。ハイ、チーズ」
カメラの音が鳴る。
「ありがとう」
にこやかに佐々木さんは言う。
彼女から香るフワッとした石けんみたいな香りに、僕は再び胸が高鳴る。
そういえば、僕は佐々木さんのLINEを知らない。
今の流れでLINEを交換できそうな気がする。
少し勇気を振り絞り、僕は口を開く。
「あ、そういえばLINE交換していなかったよね、交換しない?よかったら」
「うん、そうだね」
僕は嬉しくてたまらなくなる。
佐々木さんと写真を撮れて、LINEも交換できて今日は最高な日だ…ってあれ?
最高な日も何も文化祭は始まったばかりだ。
今日はまだ啓介にも渉にも会っていない。
今日、会ったのは佐々木さんだけだ。
僕は最近、佐々木さんのことを良く考えているし佐々木さんと話せるとすごく嬉しい。
もしかしてだけど、僕は佐々木さんが好きなのか?
これが恋というやつなのか?
いや、待てよ。
確か、渉が佐々木さんのこと気になっていると前に言っていた。
もし、僕が佐々木さんに恋をしているとしたら渉にそのことを知られたらまずいよな。
渉には僕の佐々木さんへの思いを隠さないといけない。
僕はスマートフォンのQRコード画面を出して、佐々木さんが読み取ってくれた。
「ありがとう」
「ううん、こちらこそありがとう」
「大野君はメイド喫茶のキッチンの担当、何時から?」
「13時から14時までだよ。佐々木さんは?」
「え、すごい偶然だね。私も大野君と同じ時間だよ」
そう言われて、少し嬉しくなる。
「そうなんだ」
その時、佐々木さんの友達が彼女を見つけてやってきた。
「心愛、ここにいたんだ。やっと見つけた。文化祭、一緒に周ろうよ」
「ごめん、ごめん。うん、周ろう」
佐々木さんは友達に申し訳なさそうに謝る。
「じゃあまた後でね、お互い文化祭楽しもう」
佐々木さんは僕に手を振りながらそう言う。
「うん」
僕も手を振り返す。
佐々木さんは友達と並んで歩き出す。
その姿を僕は後ろから見つめていた。
「文哉」
突然名前を呼ばれて振り返ると、そこには啓介と渉が立っていた。
「わあ、びっくりした。啓介と渉か」
二人はいつもよりも少し表情が硬い気がした。
でも、そんなことよりもいつから二人に見られていたのか、それがすごく気になった。
「さっきまでここに一人で何をしていたの?」
僕は少しホッとする。
どうやら、僕が佐々木さんと話していたところは見られていなかったらしい。
「…いや、何も」
そう言ったとき、渉に一瞬睨まれた気がした。
「そっか、じゃあ俺たち他のクラスの催し物見てくるからまた後でな」
啓介にそう言われて、僕は頭の中が真っ白になる。
いつも二人と一緒に行動していたから、文化祭も一緒に周るものだと思っていた。
一緒に周る約束はしていなかったけれど。
あまりの衝撃に、僕はその場で一瞬固まる。
「じゃあな」
そんな僕を少し冷めた目で見ながら渉がそう言う。
「…あ、うん」
僕は咄嗟にそう言うことしかできなかった。




