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対岸の森、魔女の家  作者: 伊藤暗号
第二章 〜対岸の森〜
13/19

対岸の森 1




最近狩場にしている森で、狩った獲物の血抜きと休憩がてらに立ち寄る川の向こう岸に、煙が立ち昇っているのを何度か見かけるようになった。


オルランド伯爵領グレブルの街で生まれ育ったDランク冒険者のエドガーは、幼馴染達とパーティを組んで以来、長年通っていた森で偶然見つけた獣道を辿って新たな水場を発見した。

壁で囲まれた街から半日もかからない森なのに、ギルドに届けもでていないのか、ここ数週間毎日のように通ってきているが、未だ他の冒険者や街の人間と遭遇したことはない。


水辺と言っても、おそらく何処か本川につながる水源にほど近い二次支川。森の藪からは砂利敷きで、川幅はそれほど無いが、間に大岩や中洲があれどそれなりに流れは速く、最深部の水底は見えない。

向こう岸へは船で渡るしかないだろうが、こんなところに船を用意してくる物好きなどいないだろうし、この場所の対岸に接岸させるには、結構な距離の川上から下ってくる必要があるだろう。


なにせここは《魔領域》の真っ只中だ。対岸もその先は森が深くなる。おそらく煙は救助を求めるような類のものではなく、こちらと同じように一時的な休憩か野営なのだろうが、いつもコチラとタイミングが合うと言うのも、見通しの良い河岸ではなく、毎回対岸の奥の森の中と言うのも気になってしょうがない。

向こう側の冒険者は、一体どうゆう者達なのだろう。


「そろそろ帰ろうぜ」


仲間から声がかかり我にかえる。

エドガーは、一通りの作業を終えて街に戻る道すがら、後ろ髪を引かれる思いで川原を後にする日々を続けていた。




「今度こそ夜営をしてみようか?」


その日の狩りを終え、冒険者ギルドの酒場で、卸した獲物の査定結果が出るのを待ちながら酒が来るまでの間、次の狩りについてこの提案をするのが恒例のようになってきた。

答えは決まっている。それでも何とか一縷の望みをかけて、エドガーは自分の望みを口に出した。


「《魔領域》の夜の森で夜明かしなんて、まだ俺達には早いよ」

「今でも十分、稼げているのだもの、無理する必要なくない?」

「今日だって、角ラビットだけで、16匹も狩れたわ」


「そりゃ、君らは実家暮らしだから良いだろうけど、宿屋暮らしの俺は、寝るためだけに毎日銀貨1枚必要なんだよ?」


パーティの成果は折半して、プール金の残りを四等分する。

それが丸々小遣いになるお前らとは違うんだ。

予想していた通りに返されるいつも通りの答えに、エドガーはそっとため息をついた。


「だからさっさとメグと一緒になれって言ってるじゃないか」

「ちょっとマット! やめてよ! エド、気にしないで、私、全然そんなんじゃないから!」

「マットってば。だからモテないのよ」

「何だよ、ミリーだってそう思ってるくせに。エドだってその方が金銭的にも助かるだろ」


ちょうど良く、酒がなみなみとつがれたジョッキが運ばれてきた。


「大丈夫だよメグ。お世話になっている親方のお嬢さんにそんな気起こすわけ無いだろ。じゃぁ俺はこれで」

「え、一緒に食べていかないの?」


今日の分の稼ぎを、今晩で使いきってどうやって生活すんだよ。

その言葉をグッと飲み込み、「じゃぁまた3日後」と、エドガーは笑顔で席をたった。


マットと、メグと、ミリーはいわゆる幼馴染だ。

マットは、小作人を大勢抱える農家の次男で、戦闘中は大楯で後衛の2人を守る。

メグは、街1番の材木問屋のひとり娘で弓が上手い。面倒見が良い最年長で、パーティのリーダーだ。

ミリーは、王都とこの街を行き来する隊商長の末っ子で、大きくは無いがマジックバックを持っている。その上少しだけ魔法が使え、小さな生活魔法だが、野外活動では欠かせない存在だ。


違いと言えば、3人には両親が揃っていて、俺は孤児だってだけの話だが、成人してそのまま聖職者となって孤児院に残るのが嫌で、冒険者になり神殿から出る道を選んだ。

孤児院では、いつも何もかもが足りていないせいで常に飢えていた。とどのつまり話は単純で、腹一杯食いたい。それだけだった。


幸い、見知らぬ親から貰った体躯が丈夫だったので、獣と戦う事に向いていた。

1人で冒険者ギルドに登録するつもりだったが、3人が現れて『みずくさい』『幼馴染だろ』『エドの力になりたいの』と、それ以来なし崩し的にパーティを組まされている。


3人は常日頃、冒険者になった事を『俺のため』のように言っているが、数年経った今も全く向上心の無いお優しいパーティメンバーは、正直言って戦闘の助けにはならないし、足手まといでしかなく、今日の角ラビットですら、彼らがトドメを刺した個体は1匹もない有様だった。


この壁に守られた街で、角ラビットは皮も肉も需要があり、大きな魔石が取れれば銀貨5枚でギルドが買い取ってくれる事もある。1日3匹狩ることができれば、十分その日を暮らしていける繁殖力の高いモンスターだ。

低い位置を茂みから突進して攻撃してくるため、殺傷力もそれなりにあり危険なモンスターで、街道で出没すると馬が驚き、荷がダメになる事もあるので、街道の安全管理維持のための討伐はギルドの常駐クエストにもなっている。

とはいえ、その分乱獲も多い。そう遠くない未来に規制が入る。

何か一つだけを当てにした生活をするようでは、いずれ冒険者としてやっていけなくなるだろう。


エドガーは、何度もその事を説明し諭したが、真剣には受け取ってもらえず、相変わらず3人とも危機感が全く無い。

最近では、酒が入ると『冒険者などいっときの日銭を稼ぐだけの生業で、そのうち家の仕事に戻れば良い』などと、人目も憚らずに口に出すようになった。


エドガーは薄々気づいていた。

実は自分など、3人の小遣い稼ぎに利用されているだけだと言う事に。


そしていよいよ、さらに面倒臭い事を押しつけられようとしている。

メグの父親の仕事は木こりギルドの親方だ。

この街全体の使用木材の調達と規模は大きいが、街に居着く住人が少ないことに合わせて需要も伸びず、木こりは街に必須だが新たな成り手少ない斜陽産業の一つで、いつでも人手は足りていなかったため、冒険者ギルドでも常駐クエストとして依頼が出ているおかげで、幼い頃からその仕事を手伝う機会が多く、今でも週に一度は世話になっている。

そもそも、その仕事のせいで3人と出会ったのだ。


エドガーとて、親のいない孤児にしてみれば、その頃から生活のための単なる仕事の一つなのだが、神官や周りの大人達に『人手の少ない田舎町では、みんなで力を合わせて頑張らなくては』と幼い時から言い聞かされて育った結果、長らく人の嫌がる危険で過酷な肉体労働クエストをわざわざ受けている事を、メグは別の意味に受けとっているのかもしれない事には気づいていた。

それでも『たとえ孤児でも何不自由なく暮らしていけるように』と、何かと声をかけ良くしてくれる大人に囲まれ育つ街で、まして依頼主の親方の娘を邪険に扱うこともできず、のらりくらりと何年も過ごしてしまった。


エドガーは、神殿の管理する孤児院で育てられたが、男児の孤児には珍しく見目麗しかったおかげで神官達に可愛がられ、体は大きくとも、真面目で、優しく、教養もあり、清潔で、どうゆうわけか、気品があった。

おかげで迫害からは無縁であったが、同時に、侮られ搾取されやすい立場である自覚もあった。


かと言って今更、無頼者のように振る舞う気にもなれないし。

誰も知らない街に逃げるとしても、この街から物理的に距離を取るにしても、先立つものが無い。


エドガーにはわかっていた。このまま毎日馬車馬のように働いても、宿屋暮らしの冒険者など、その日を生きるのが精一杯だと言う事を。

だからこそ、利鞘の大きい魔石狙いのモンスター狩りをしたいのだが、3人はそのエドガーの気持ちに気づいているのかいないのか、毎回あの反応だった。

エドガーは、いよいよパーティ解消を。と考えていたが、金が貯まるまではこの壁の中で暮らしていかなければならない現実を考えると、なかなかそれを言い出せずにいた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



3日後、いつもと同じ狩場に向かい、いつものように角ラビットを狩って川で血抜きをしている間、エドガーが向こう岸の煙を眺め夢想していると、後ろでマット達が意外な事を言い出した。


「北の農地にデカい猪がでて、小作人がビビって仕事を渋ってるんだ」

「でも魔獣ってわけじゃ無いんでしょ? 罠とかで何とかならないの?」

「北の森には、罠にかからない賢い個体がいるって父さんが言ってたな」


「討伐、その前に調査か。受けるかい?」


エドガーは、皆に背を向けたまま、川を向きながら気のないそぶりで聞いてみる。


「討伐クエストにもなっていないのに?」

「あら、困っているんじゃ無いの?」

「人助けよ。良いじゃない」


珍しく良い感じに[行く]方に話が進んでいる。


「アイツら、何かにつけて理由を作って仕事をサボりたいだけなんだよ」


臆病者のマットは「親父たちが何とかするだろ」と慌てて否定していたが、エドガーは「人助けは大事だよな」と、1人でも行くと決めて、それ以上何も言われないように3人に同行は求めない事に決めた。


森からギルドに戻って、査定待ちの間に、エドガーは依頼クエストボードを眺め見る。

すると[大猪の調査]を見つけたので、その木札を持って受け受けカウンターに向かうと、ソロでそのクエストを受けた。

特別期限は無いと言う事だったので、さっそく明朝出かけようと野営の準備のために早く帰る事にする。

そしていつものように、メンバーの待つテーブルに、今日の分の報酬を受け取るためにだけ立ち寄った。


「今日も一緒に食べないの?」

「あぁ、ちょっと買う物があって」

「あ、そうだエド、明日伐採仕事の後予定ある? 母さんとパイを焼くから、よかったら食べて欲しいの。父さんったら最近『体型を気にしてる』とか気持ち悪い事言い出して、あまり協力してくれないの」


それまで週末になると伐採の依頼を受けていたエドガーに「練習も兼ねてたくさん焼くから」とメグはうっすら頬を染め言った。

エドガーは何も言わずにマットの顔を見る。


「あっちゃー! 俺、明日はど〜うしても外せない約束があって行けないんだよ」

「私もお父さんに仕事の手伝い頼まれててぇ」


マットとミリーは待ってましたとばかりにおどけて答えたので、エドガーは「俺も明日は狩に出るから伐採の依頼は受けないよ。だから週末明け月曜の狩りも無しで頼むよ」と、さらりと伝えた。


「え? それってどうゆう事?」

「大猪調査のクエストをソロで受けたんだ」


エドガーが、さっき受け取ったクエストの木札を3人に見せると、マットは「しまった」と言う顔をした。


「嘘でしょ!? 1人で向かう気?」

「別に他を出し抜こうとは思ってないさ。練習だよ。訓練の為にも追跡してみたいんだ。そろそろ本格的な狩も試してみようと思って」


「勝手にそんな事決めて良いわけないわ!」

「いや、みんな明日の休息日は用事があるんだろ? そう思ったからソロで受けただけだよ?」

「そんな、父さんの仕事の手伝いはどうするの!?」


「え?」


エドガーは、それこそクエストを受けたわけでもないのに? と、メグの顔を見た。


「メグ、俺は冒険者で木こりじゃないよ?」

「うん、それは、そうだけど・・・っ1人でなんて、危険だわ! 私も行く!」

「後衛を守る盾がないのにメグを連れて行けるわけ無い。今まで休息日はパーティでの行動も無しって言ってたじゃ無いか。マットにだってどうしても外せない用事ぐらいあって当たり前だよ。急にそんな事言ったら悪いよ」

「・・・・・」


3人で示し合わせていたのかどうかは知らないが、その思惑とは全くの裏目に出たエドガーの言動に、メグが下唇を噛んで俯いたまま喋らなくなってしまった。

もう良いよね? とエドガーがその場を離れる言葉を探していると、ちょうどよくエールの入ったジョッキが3つ運ばれてきた。


「店が閉まるから俺は行くね。次に会えるのは来週の金曜かな。あまり飲みすぎるなよ」


それじゃあ。と、エドガーはギルド館を後にした。


3人の言葉をうまくかわし完封。真っ直ぐ常宿に戻ったエドガーは上機嫌だった。

夜営の準備はとっくに整えている。

金をケチってポーションが手に入れられなかったのは痛いが、どうゆうわけかポーションを飲むと身体がダルくなるので普段から当てにはしていなかったので良しとする。

初回だ。夜の森での野営だけで様子を見てみようと、次の宿の予約も取らずに明朝の出発に思いを馳せた。

久しぶりの開放感に心踊るが、それを誰かと共有する気はない。

いつもと違い連泊を申し出なかったエドガーに、宿屋の親父は不思議そうな顔をしたが、5日は森にこもるつもりで眠りについた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「本当に部屋をとっておかなくて良いのかい?」


朝になって出かける際に声をかけられたが「3泊は森にいるから、5日後には戻るよ」と、エドガーは伝えて宿を出た。

そもそも、他の宿泊冒険者達だって、毎日その日1日の宿をとるのだ。長くこの宿に常泊しているとは言え、宿屋のオヤジの言葉に違和感を感じたエドガーは「そろそろ金を稼がないと、ここの美味い朝飯にありつけなくなりそうだから」と、適当なことを言ったが、当たり前のように自分の行動を不思議がるオヤジの表情に、宿屋も替え時かなとふと思った。


街壁の門番にも、森に籠る旨伝えると、少々不思議な顔をされたが「大猪」を引き合いに出すと、話は聞いていたのか「十分に気をつけろよ」と励まされ壁門を出る。

ひとりで外を歩くエドガーが珍しいのか、道中さまざまな視線を感じたが、森の入口に差し掛かると、さすがにそれも無くなった。

クエスト通り、一応大猪の痕跡を探しながら、夜の帳が下りるころ、エドガーはいつもの河岸にたどり着いた。


「はぁ〜しんどい」


背負っていた背嚢を下ろし、[魔物避けの香]を炊きながら、晩飯用の角ラビットを捌き、モモ肉を焚き火で炙る。

こんがりと焼けた兎肉に塩を振って、1人の晩餐に舌鼓をうちながら見上げると、頭上には満天の星空が広がっていた。

魔獣から住人達を護る高く頑丈な壁の中では、決して見ることのできないどこまでも広がる夜空は、それだけで自由を感じさせてくれた。


「あぁ〜早くあの街から逃げ出したいなぁ」


すっかり寝支度を整え、ポツリと漏れ出た呟きに首を振って、仮眠を取ろうと目を閉じた瞬間、月の光を遮って何かが目の前に現れた。


「それ、臭いから、火を消して?」


エドガーは、身を翻しナイフを構えてそれを見た。


声をかけられるまで、何の気配も感じなかった。殺意も怖気(おぞけ)もない。何だ!? 誰だ!?


闇夜に目が慣れ、みるみるうちにその全貌が明らかになっていく。


「これが、ないと、人間は、森で、夜を、明かせない」

「ふうん。んじゃ、俺が一緒にいてやるよ。だから火を消してくれない?」


「メシが不味くなる」そう言って、月の光を背にした1匹の犬型の魔獣がマズルにシワを寄せる。

でかい。狼の魔獣? いや、人語を話した。幻獣か?

エドガーは身に立つ鳥肌を悟られぬよう聞いた。


「メシとは、俺の事か?」

「人間なんか食わねぇよ。キモい」


月明かりの下、頭を下げた犬型の魔獣が前脚をかいた先には、なるほど。鹿の足が横たわっていた。


「火も借りて良い?」そう言って、前脚を使い前歯で掴んで ミチミチ と皮を剥ぐ姿に、エドガーはナイフを下ろして、「て、手伝おうか?」と答えると、「良いのか? 頼む」と魔獣は足を咥えて火元に来た。

エドガーは器用に皮を剥ぐと、直火で表面を軽く焼き、改めて焚き火の周りに、石でかまどを組んで高さを出して鹿の足を焼き始めた。


「丸焼きだと時間がかかるぞ?」

「外側をこそげながら食べるんだろ? 一口の食いでは減るが腹に入る量は同じだからな。俺は待てるんだ」


月明かりに銀色の毛をフワフワと光らせて、フフンと顎を上げる仕草は存外かわいらしく、落ち着きを取り戻したエドガーは、やけに人間じみたやりとりにフフと笑って「塩もふるか?」と尋ねた。


「良いな。ちょっと待ってろ」


犬型の魔獣は「焦がすなよ」と言い残すと、音も立てずに森の中に入って行く。

やっと緊張が解けたエドガーは、慎重にその焼き加減を見ながら「ふはぁ」と大きく息を吐いた。


森の茂みから離れた見通しの良い河岸とは言え、ここが《魔領域》であることは変わらない。

魔獣に出会ったら即攻撃されるとばかり思っていたが、会話ができるとそうでもないのか? 人語を話す幻獣と出会うのは初めてだ。エドガーはこの奇妙な邂逅に、いささかワクワクとした気持ちになる自分を不思議に思っていた。


「誰かのテイムモンスターか?」


気配がなかった事に恐怖を感じはしたが、向こうに殺意が無いとわかったせいか、自分でも驚くほど落ち着いていた。

普通ならあの毛皮を見ただけでも狩猟対象だろうに、全くその気が起きない。


「力の差か・・・」


エドガーは、1人で森に入った愚かさを噛み締めた。


「まだ消してないのか。それ、クサいだけで効き目ないって」


鹿肉を見つめていると、またしても音もなく側に来た幻獣は「これをすりつぶして肉にまぶして」と、ニンニクと薬草を持ってきた。


「そうは言っても、クサイおかげで他の魔獣が寄りつかないんだぜ?」

「俺がいるから誰も来ないよ。良いから消して。鼻が曲がる」


「随分効いているじゃないか」とエドガーは笑ってお香の火を消した。

幻獣は、鼻を前足で擦っている。エドガーは幻獣に言われた通り、よこされた野草類を丁寧に水で洗ってから、石ですりつぶし、塩を混ぜて練り込むと、焼けた肉に擦り付けていく。

辺りに美味しそうな匂いが漂い始めた。


「おぉ!」


幻獣は じゅるり とヨダレをすすって、舌なめずりをした。

「フフフ」と、エドガーが笑うと、「分けてやる。オマエも食って良いぞ」と幻獣は言った。

それから2人で、肉を削いでは、塩を塗り込み焼き、また削いでは食い、と、鹿肉を堪能する。

「美味いじゃないか!」野草塩の効能を讃えるエドガーに「そうだろう、そうだろう。俺も料理ぐらいできるんだ」と幻獣はご満悦で答えた。

すっかり足を一本食い終えると、幻獣はエドガーが敷いたボアの皮の上で丸くなり、「俺に寄りかかって寝ると良い。朝までぐっすり眠れるぞ」と同衾を許した。

エドガーは、恐る恐る許された毛並みをひとなですると幻獣に寄りかかる。


「これは、良いな」

「そうだろう。俺の毛皮は寝心地が最高なんだ」


そう言って寝息をたてる幻獣を撫でていると、あっという間に微睡に飲み込まれて行った。




「嘘だろ!?」


初めての夜営で、ぐっすり朝まで寝こけてしまったエドガーは、自分の呑気さに驚いて声を上げた。

もう随分陽が高くまで上がっている。一体今なん時なんだ!?


「オマエ、そんなに寝坊助では野営に向いてないぞ?」


川で水を飲んできた幻獣は、ブルブルと身を震わせてエドガーの失態を笑った。


「いや、俺、街でもこんなに寝こけた事なんてないよ。スッゲー寝た」


幻獣はニヤリとその口端をあげて「そうだろうそうだろう」と言いながら近づいてくる。

エドガーは腕を上げストレッチしながら「あー超絶調子がいいな。こりゃ今日の狩りも捗っちゃうな」とその身を伸ばし、幻獣に倣って川の水で顔を洗った。


「何だオマエ、夜になって帰れなくなった訳じゃないんだな。今日も狩りをするのか?」

「あぁ、依頼で『大猪』を追っているんだ。街の農地に悪さする奴がいてな。何か知っているか?」


幻獣は「アイツなぁ」と顔を傾けて何やら考え込むと「手伝ってやろうか?」と提案した。


「良いのか!?」

「手伝ってやっても良いが、だとしたらますます『あの香』を焚くのはやめておけよ。獣避けなんだろう?」


そう言えばそうだった。自分の衣服に匂いが染み付いたらいつまで経ってもターゲットに逃げられるじゃないか。エドガーは「あちゃー」と言う顔をしながら、敷物と毛布を畳むと竈門の石を崩し、焚き火の跡を埋め戻した。

その様子に、幻獣はニヤニヤと笑いながら「オマエ、野営は初心者なのに随分行儀が良いのな」とその所作を褒めた。


「あぁ俺、ソロ希望なんだけど、中々自由にならなくてなぁ。君みたいな相棒がいてくれたら楽なんだけど、君はもう誰かご主人様がいるのだろう?」


一見するとテイムモンスターの目印は見当たらないが、野生の魔物がこんなに人懐っこいわけがない。

エドガーは背嚢から林檎を取り出すと、ゴシゴシと服で擦ってから、幻獣にそれを差し出した。


「ふうん、ソロね。オマエ番はいないのか?」


林檎を一口で受け取ると、しゃりしゃりと咀嚼音を立てながら、幻獣は意外なことを聞く。


「いないよ」

「年は幾つだ」

「20から23ぐらいかな。はっきりした年齢は知らないんだ」

「10は差がある。ちと若いな」

「若いとは言ってもとっくに成人してるし、この身体だ。大猪ぐらい1人で倒せる。問題ないだろ?」

「あ? あぁ、体格は良いな。そうか大猪な」


幻獣はまた、少し考え込むと、「よし、荷物はそのまま香を焚いて置いていけ。ついてこい」と、森の方に歩き出した。


「魔獣は避けれても、人が来たら盗まれてしまうじゃないか」

「“ここ”に物を盗むような人間は来ないよ。さあ行くぞ!」


迷い無く北の森の方角に向かう幻獣に、エドガーはついていく事にした。




第二章が本編が始まりました。対岸の森:全7話。毎週土曜6:00更新です。

寝かせすぎて編み目が違うと言うか、よりくどい文章になっております。

これでも削っているので許してください。

キリの良いところまで1話にまとめているのですが、キリとか無視して、二千文字くらいに切り分け毎日更新したほうがいいのでしょうか?

色々わからなくなってきたので、二章は全部もうupしてしまいました。

それでも気に入っていただけると嬉しいです。すみません。どうかよろしくお願いします。

第二章が本編が始まりました。対岸の森:全7話。毎週土曜6:00更新です。

寝かせすぎて編み目が違うと言うか、よりくどい文章になっております。

これでも削っているので許してください。

キリの良いところまで1話にまとめているのですが、キリとか無視して、二千文字くらいに切り分け毎日更新したほうがいいのでしょうか?

色々わからなくなってきたので、二章は全部もうupしてしまいました。

それでも気に入っていただけると嬉しいです。すみません。どうかよろしくお願いします。

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