鳴り止まないで、そばにいて⑬
「まぁ、弁護士立てるしかないか」
「おっ、結構ドライに考えてた……」
出来上がった生春巻きとカオマンガイを満足そうに口に運んだあと、ユキさんは言った。
話した内容の重さに反して軽い口調に、呆気に取られながら何度か瞬きする。
「事務所に報告して、親父に連絡とって……」
指を折りながらやる事を確認して、ちょっとだけ黙り込む。これは面倒くさいって顔。
「面倒くさくならないでください?」
「めんどい……」
「ユキさんは、話したいとは思ってないんですか?」
「話してわかる人じゃないし」
「そう、ですか」
「昔と1ミリも変わってないことはわかったから」
家族の問題は経験した人にしかわからないのだと、こういう時にもどかしく思う。
きっとユキさんは、そんな経験しない方がいいと言ってくれるのだろうし、実際それが一番いい。
でもやっぱり、自分には何もできないんだなと無力さを感じる。
「涼」
「え、はいっ」
「こうやって、一緒にいてくれるだけでいい」
「え……」
俺の心情を読み取ったかのように、ユキさんは話した。
「一緒に食事して、笑ったり愚痴ったりして、隣で眠って」
「ユキさん……」
「それだけでいい」
「俺、役に立ってます?」
「オレには勿体無いくらいに」
そんなセリフで微笑むのは、ちょっと反則だと思う。
全部どうでもいいかという気分にさせられる。
どうでもよくないんだけど。
もそりと柔らかく炊けた鶏肉を頬張って、ユキさんの横顔を見つめた。
「無理、しないでくださいね」
「うん」
「大丈夫かなぁ」
「大丈夫。音楽も」
「え、戻ってきました?」
「贅沢な子守唄のおかげで」
口元にゆっくりと弧を描く彼は、どことなく嬉しそうだ。
子守唄ってなんだっけと首を傾げて、数日前の夜のことを思い出す。
「あんなのいくらでも歌いますよ」
「はは、涼のファンに怒られそう」
「俺のファンは大体まるっとユキさんのこと好きなんで問題ないですね」
主に俺がユキさん大好きを公言しているので。
一緒に住んでいることを公表したとしても、新たなファン層が増えるだけだと思う。
ちなみにエゴサすると涼ユキって言葉が出てくるんですよ。間違ってないのが怖いね。
「……じゃあ、またオレが不調の時は、歌ってくれる?」
「もちろんです。てか不調になる予定みたいな言い方しますね?」
「いつ何があるかわからないだろ。まだ全然片付いてないし」
本題に戻りながら、ユキさんはスプーンを口に運ぶ。
美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど、そんな現実的な。
「そうですけど……今度は早めに言ってくださいね」
「善処する」
本当かなぁと疑いの目を向けたら、ユキさんはちょっと肩をすくめて、生春巻きに齧り付いていた。




