買い食いをしよう3
商品を受け取って店を出ると、楓と千百合、進の三人は天を仰いだ。
「離陸しちゃったかー」
「離陸したね」
「いつ頃着陸ですかね」
「違うの。さっきのは違うの」
三人とは対照的に両手で顔を隠して下を向いている。
「部長ならともかく、高宮先輩は意外でしたね」
「それじゃあ私がアホみたいじゃないか」
「だって部長の頭の中ハッピーセットですし」
「誰の頭がハッピーセットだ!」
「お願いだからテイクオフにはもう触れないで。早く移動しましょう」
耳まで真っ赤にした静流を先頭にして向かったのは並木道のある公園。
いくつもベンチはあるが、目的の場所は違う。
芝生を横断する狭い歩道を辿った先には小さな小屋のようなものが建っていた。
扉はなく、中に入れば木製の丸テーブルと丸太をそのまま切り出した椅子が並んでいる。
買ったものをテーブルに広げ、各々が注文したものを自分の前に引き寄せた。
が、なぜか誰も注文してない品がいくつもテーブルの中心に残っている。
「星川、なんでこうなった」
そう指摘する進に美夜佳は苦笑いを浮かべて胸を張った。
「わ、我の話術が凄すぎて供物が増えてしまったわ!」
「むしろ店員の話術にハマってたよね」
千百合の一言がグサリと刺さり、項垂れる。
結局、みんなで分けて割り勘ということになった。
自らお小遣いがピンチであると告げていたはずの買い食いを提案した楓が泣きを見るという滑稽な事態が起きながらも、飲み物やハンバーガーに手をつける。
「パチモンのチェーン店ですが、味は中々ですね」
「でしょ? 私も結構気に入ってる。月城のテリヤキバーガーはどう?」
千百合と進が楓に視線を向けると、包みを持っているにもかかわらず、溢れ出るテリヤキソースが手を伝ってスカートの上に滴り落ちる。
バンズはすでに吸水量を超え、ふんわりとしたバンズの姿はどこにもない。
さらに時間が経ってしまっていたために冷めているテリヤキバーガーだが、それ以上に冷めた楓の視線がテリヤキバーガーに注がれる。
進はそのことには触れないようにハンバーガーを口に運んだ。
「ソースでテカッてる腕ってなんかエロいよね」
「さすがの僕もかわいそうで触れなかったのに、あなたはブレませんね」
千百合なりの気遣いなのか、楓には聞こえない声量でやりとりをする。
その横で楓はテリヤキバーガーを一口。
たった一口で口の周りはソースでベトベト、さらに溢れたソースがより一層スカートを汚す。
「うまいなーこれ。特にこのテリヤキソースが。というかテリヤキソースの味しかしない」
「そういえば、テリヤキバーガーが生産中止とかなんとか言ってましたけど、なんでですかね」
「結構批判的な意見があったみたいよ」
スマホで調べていた静流がテリヤキバーガーの評判を読み上げた。
「『味は最高! ただ少しソースが多いかな』『味は文句なし! でもソースがバンズの柔らかさを台無しにしてるかな』『味はいい。ソースが包みから溢れる』『だからソースが多いんだってば!!』」
「部長のを見ればわかりますが、ソース多過ぎますよね」
「ちなみに公式ホームページに作り方が載ってるわね。『1.ハンバーグを焼く。2.バンズにレタスとマヨネーズを乗せる。3.焼いたハンバーグを乗せる。4.バンズを乗せる。5.テリヤキソースにつけて完成』ですって」
「ソースにバーガーをダイブさせたらバンズも台無しにもなりますよ」
「……ん? あれ? おかしいな」
おもむろに美夜佳がハンバーガーが入っていた紙袋を掴むと、360度回転させてじっくりと観察を始めた。
またいつもの奇行だろうと思いながらも、進は声をかける。
「なしてんだ星川」
「いや、前に親と買ったときには袋にマスコットキャラが印刷されてたはずなんだけど、今回はないなと」
「もしかしなくてもピエロみたいなおっさんか?」
「それでは完全なパクリではないか」
(パクリで済ませられる域を超えてる気がするけどな)
「船員のような格好をしたアヒルのキャラだ)
「もっとヤベーところに喧嘩売ってるじゃん」
そんなこんなで雑談を交えながら食は進んでいき、数十分には購入したもの全てを平らげていた。
その後は特に何もすることがあるわけでもなく、解散することに。
「じゃあ部長。お疲れ様です」
「お疲れ様です。また明日」
「じゃあね月城」
「楓、まっすぐ帰るのよ」
「ねぇこれおかしくない? 私一人で帰るの? 少しぐらい付き合ってくれても」
そう訴えるが、四人の反応に慈悲はない。
「元々真逆の帰り道だったのに、付いてきたのは月城じゃん」
「さすがにそこまでは私達も付き合えないわね」
「これ以上遅くなるとマ━━母上が心配する」
「めんどいです」
「ひどい! 特に進君が! 男の子なんだから、女の子を一人で歩かせるのはいかがなものかと思うよ!」
と、騒ぐ楓。一方の進は少し思考してから、楓から視線を外した。
「だって……周りに見られたら、その……周りに、勘違い、されるじゃないですか」
しおらしい態度で、ほのかに頬を紅潮させて恥ずかしそうな仕草をされ、楓の胸がキュンッと締め付けられた。
「か、勘違いって。それは恋び━━」
「俺と部長が……知り合いだと、思われるじゃないですか」
「関・係・者ー! なに私との関係を隠そうとしてるの!? そもそも進君がフリーダブに入ってることは少なからずバレてるだろ! なぜ隠す必要性ないだろ!?」
「だって汚点ですし」
「本人の前で汚点とかいうな! 泣くぞ!」
「いいから僕が優しいうちにさっさと帰ってくださいよ。ほら、まだ明るいですから」
「これで優しいのか」
頑なに送り届けるつもりはない進に半泣きになりながら一人寂しく来た道を戻っていく楓。
その後ろ姿を皆で見送ってから、それぞれの帰路についた。
翌日、テリヤキバーガーが生産中止となったことを興味本位で調べていた静流に聞かされることに。
「テリヤキバーガーが中止になったみたい。でも新しくニューテリヤキバーガーが発売されるんだって」
「一体何が変わったんですか」
「バンズに挟む前にソースかけることになったみたい」
「普通のことなのに大躍進だと思ってしまった」
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