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ハカセのこだわり

「おはよう、助手君」


「あっハカセ、おはようございます」


「早いな」


「徹夜でゲームしちゃいました」


「ばかたれ」


「あてっ」


キムワイプが飛んできた。


セーブポイントまでとやっていたらついつい朝を迎えてしまった。


「ハカセ」


「どうした?」


「バイオハザードって怖いですよね」


「おぉ助手君よ。成長したな。怖さが分かるとは」


「文系の僕だって分かりますよ。だって人がゾンビになったら大変じゃないですか!」


「ばかたれ」


「あてっ」


何か間違ったことを言ったのだろうか。


キムワイプが絶妙な角度で飛んできた。


「バイオハザードとは、日本語で生物汚染だ」


「生物汚染」


「つまりは、ゲームの中の『バイオハザード』で言うなら『世界がT-ウイルスによって汚染された』という状況のことだ。決して人がゾンビになることではない!」


「じゃ、じゃぁ人がゾンビになることは何て言うんですか?」


「簡単だ。変異!これで説明できる」


「嘘だー。じゃぁ俺が二十年信じていたバイオハザードとは何だったんだ」


「間違いだったということだな」


あっけなく言われて俺のアイデンティティは崩れ去った。


バイオハザードとは人がゾンビになることではない。


「いい加減しょげるのはやめたまえ」


「ハカセ」


「どうした?」


「ひとつ聞きたいことが」


「うむ」


「どうして僕を雇ったんですか?文系の僕を」


研究室には理系の人しか雇われないと思っていた。


なのに文系の僕が雇われてしまった。


「簡単なことだ。専門的なことは教えれば済む。何も理系でなければ働けないということもない」


「へぇー」


「何より私は部下を助手君と呼びたかった」


「それだけ?」


「今のこのご時世、こんな研究室があるわけないだろう。あったらすぐに訓戒ものだ」


「そうなんですね」


「そうだから私は『助手』という苗字の君を雇うことにした。なぜなら助手君と呼んでも普通のことだからだ」


ハカセのこだわりはまったく分からない。


だがそのこだわりのおかげで職にありつけた。


ハカセ様様だ。


「あと私はハカセと呼ばれたかった」


「うん?大学の先生はハカセじゃないんですか?」


「大学院の博士(はくし)課程を卒業した者はみな博士(はかせ)だ」


「そうなんですね」


「そうだ」


「でもハカセ」


「何だ?」


「ハカセの本名って葉加瀬ですよね?」


「葉加瀬教授と言われると博士なのか教授なのか分からないじゃないか」


ハカセのこだわりはやっぱり分からない。


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