乙女ゲーム短編②恋愛ダンジョン迷宮
ロープレ転生モノ
私は、とある『乙女ゲーム』に転生しました。
『乙女ゲーム』って、イケメンにちやほやされて、逆ハーレムを達成したりする、『乙女の夢』満載の素敵世界ですよね。
よっしゃー!神さまありがとう。第二の人生、満喫させていただきます!!
イケメン彼氏を手に入れて、ウハウハするぞー。
…………なんて思っていた時期もありました。
最終ダンジョン、魔王城。私は、その最上階にいます。
「うぉぉぉぉーー!!くったばれぇ!」
ザシュッ!!
魔物は光の欠片になって消えました。
私はここ二、三ヵ月の間で、手に馴染んだ両手剣をきつく握り締めます。
「てめえら、まとめてかかってこいッ!!」
――私は、恋愛ゲームの世界に転生しました……したはずです。
では、なぜ魔王城で戦っているのでしょうか。
……しかも、たった一人で。
「大丈夫?この薬使ってよ!三百円だけど」
眼鏡のイケメン薬師が、私を心配そうに覗き込んでくれます。好感度が上がります。
「お前に神の加護があるように、……神殿で祈ってる」
幼なじみの神官が、私を心配してくれます。好感度が高いようです。
「お前なら勝てる、いってこい!!」
ためらう私に、戦士が笑いかけてくれます。鬼です。
「……もう、疲れたよ」
手の中の両手剣だけが私の友達です。
私は現在、何人ものイケメンに好意を寄せられています。
しかし、まったく嬉しくありません。むしろ苛立っています。
私は『勇者』として戦っています。
乙女ゲームのお約束として、『RPGモノでは主人公はサポート役』というものがありますが、このゲームは主人公が『勇者』で『主戦力』です。
というか、一人で戦います。単身です。ロンリーです。
なぜなら、主人公が魔物を一体倒すごとに、『魔王』との親密度が上がるからです。
そしてある程度の親密度がある状態で魔王と対決し、彼の呪縛を解き、魔王を救うのが目的です。
……なにか、変だと思いましたよね。私もそう思います。
しかし、これではゲームが売れません。ですから、魔王を助けだした後に、仲間の中から恋人を選ぶゲームなのですが……
魔王との親密度を高めるため、攻撃は私しかできないようになっています。
おかしいですよね。
でも、考えてみてください。自分が姫で、勇者が「君を助けに来た!」と言って、女連れだったら、しかも美女ハーレムだったら。
がっかりするし、勇者を信用できませんよね。
そういう訳で、このゲームでは攻略対象者は、サポートはしてくれますが、戦ってはくれません。
基本、傍観か応援です。
「――おまえらも戦えぇぇぇっ!!」
遠巻きに私を見ているイケメンたちの好感度は上がっています。
しかし、『けなげで守ってあげたい、無理に戦う姿がいじらしい』とかではなく、『ヒュー、かっこいー!!姐御―!素敵!』の方です、絶対。
……別に、自分が戦うことに関して文句はありません。むかつくけど、ゲームの設定だし。
ただ、ひとつだけ言わせてください……
「――なんで魔王が、囚われの姫ポジションなんだよ――――――!!」
日に日に筋肉のつく身体に、硬くなる手のひら。
『乙女』から遠ざかっていく自分の姿にくじけそうになります。
もう、恋愛とか逆ハーとかどうでもいいです。
早く魔王を助けて、可愛い服を着て、おいしいものを食べて、のんびりしたいです。
魔王の間を開けると、中には一人の少年が立っていました。
「かっこいいおねえさん、僕を助けに来てくれたの!!??……うわぁぁぁんっ」
剣を構える前に、涙目の少年が私に抱きついてきました。小さいです。身長が私の胸くらいまでしかありません。
「……君は?」
お約束として、一応聞いてみました。
「――魔、おう゛……だ、よぅ…」
きれいな顔立ちの少年は、「魔王の魂の入れ物」でした。でも、おかしいです。正気に戻るのは、一回戦闘してからのはずではないでしょうか?
助けてくれてありがとうおねえさん、と彼は腰にしがみついて離れません。
「そっか、君も大変だったね」
仕方がないので、よしよしと頭を撫でてやると、少年は余計に強く抱き締めてきました。
「けっこんしてください」
腰にタックルされた状態でプロポーズされました。……ええと、エンディングってこんなんでしたっけ?
「ボクとここで暮らそう」
きらきらした笑顔を向ける彼の腕は、がっちり私を捕まえたままです。……そろそろ、離れて欲しいんですが。
「おねえさんがたくさん魔物を倒してくれたから、僕は僕に戻れたんだ」
うん、よかったね。私はすごく疲れてる。早く帰りたい。
「だから、僕はおねえさんのモノになる」
……意味がよくわからないよ、少年。とりあえず、離してくれると助かります。
………………………………
主人公
性別[女]
職業[勇者]
魔王との親密度[MAX]
………………………………
――どうやら、私は魔物を倒しすぎてしまったみたいです。
「おねえさん、一緒に暮らそう?」
元魔王からの、キラキラおねだりプロポーズ攻撃は、実践で鍛えられた勇者の肉体ではなく、精神にダメージを与える。
「……ねえ、いいって言ってよ」
勇者は、負けそうだった。
私は、声を大にして言いたい。
『守られてるサポート系ヒロイン主人公』なら、なぜわざわざRPGにしたのか、と。
主人公、安全なトコにいろよ!と。
読んでくださってありがとうございました。