五等
その日、俺が数えた死体は百七だった。
朝の霜が溶ける前に六十。昼を回って四十七。そのうち十九は、うちの記章もキルシュの記章もつけていなかった。どっちでもない死に方をした人間が、戦場には毎回いる。
「アーレンス。四番の溝、まだ残ってんぞ」
ハンナ軍曹の声が飛んできた。振り向かずに手だけ挙げる。
四番の溝は昨日の砲撃で崩れて、崩れた土の中に三人埋まっている。掘り出して、名前を確認して、記章を外して、木札に書いて、それから焼く。焼けない日は埋める。埋める場所がない日は積む。
俺の仕事はそれだ。
王国軍第十三後方衛生分隊。衛生と名前についているが、生きている人間の面倒は一切見ない。俺たちが触るのは全部、もう終わったやつだ。全軍からは別の呼び方をされている。
烏。
死体のあるところに集まるから。
シャベルの先が硬いものに当たった。布と、その下の腕。俺は膝をついて土をどけた。若い。たぶん十六か十七。俺と変わらない。頬に土がめり込んで、口が半分開いている。
手袋を外した。
こういうときだけ外す。それ以外では絶対に外さない。理由は単純で、うっかり誰かに触ると、俺の頭の中の住人が一人増えるからだ。
指先を、そいつの首筋に当てた。
——寒い。
声が入ってきた。俺の声じゃない。この土の下で死んだ、名前も知らないやつの声だ。かすれていて、少し鼻にかかっていて、たぶん生きているときはよく喋ったんだろうと思わせる声。
寒い。それだけ。
俺は指を離して、手袋を嵌め直した。頭の内側が三度ぐらい下がった感じがする。実際に下がっている。冬の日は指の先から白くなる。
「何か聞こえたか」
いつのまにかハンナが横に立っていた。干し草巻きをくわえたまま。彼女はこの分隊で唯一、俺の能力を知っていて、それでも普通に接してくる人間だ。
「寒い、って」
「そりゃそうだ」
彼女は煙を吐いた。「霜降りてんだから」
「そうっすね」
「役に立たねえな、お前のそれ」
「はい」
役に立たない。
十五の授与式で、白冠教会の司祭が俺の額に手を置いて、水晶の板に文字が浮かんだとき、周りにいた全員が同じ顔をした。何とも言えない顔だ。笑っていいのか同情していいのか決めかねている顔。
【遺言】——五等。
死んで間もない死体に触れると、そいつが死ぬ直前に頭にあった一文だけが聞こえる。
それだけ。
戦えない。治せない。何も作れない。物を運ぶことも、火を起こすことも、水を出すこともできない。五等ですらない、と陰で言われた。
父は式のあと、俺の顔を見なかった。三日後に家名から抜かれて、書類上、俺はアーレンス男爵家の人間ではなくなった。荷物をまとめて出るとき、母が門のところまで来て、財布を握らせて、何も言わずに戻っていった。中に銀貨が十一枚入っていた。
その足で徴募所に行って、この戦線に来た。
それが二年前。
いま俺は十七で、リーゼ河の西岸で死体を数えている。この河を挟んだ戦争は十一年続いている。誰も渡れない。渡ろうとしたやつは死ぬ。だから両軍とも、河のこっち側とあっち側で、毎日ちょっとずつ人を減らしながら十一年間にらみ合っている。
英雄が出る余地なんかない戦争だ。
俺は溝から若い兵を引き上げて、記章を確認した。歩兵第九連隊。木札に番号を書き写す。
二人目を掘り出した。今度は年配で、顎に古い傷があった。触れる。
——だから言ったのに。
三人目。腹をやられていて、下半身がほとんど泥と一緒になっていた。触れる。
——母さん。
俺は木札を三枚並べて、それぞれの番号を書いて、手帳を開いた。
黒い革の手帳だ。前線に来る前、王都の古物屋で銅貨三枚で買った。中身は誰にも読めない文字で埋まっている。
俺の前世の文字だからだ。
寒い。だから言ったのに。母さん。
三つとも書いた。日付と、場所と、記章の番号も一緒に。
「何書いてんだ、いつも」
ハンナが覗き込んできて、すぐに諦めた顔をした。「読めねえ」
「読めなくていいやつです」
「気味わりぃな、お前」
彼女は言って、それから俺の肩を軽く叩いた。「飯だ。今日はパンがある」
パン。
この二週間、麦粥しか出ていなかった。パンが出るということは、後方から補給が届いたということだ。
俺は手帳を閉じて立ち上がった。
このとき、まだ何も気づいていなかった。三人分の遺言を書き取って、それを「今日の分」として片付けた。いつもそうしてきた。二年で四百三十二人分。
俺は死体を数える係だった。




