ひでぶっ!? 偽造金貨(五円玉)の末路と、財務官ニャングルの炸裂パンチ
ひでぶっ!? 偽造金貨(五円玉)の末路と、財務官ニャングルの炸裂パンチ
時間を少しだけ巻き戻す。
ポポロ村のメインストリートにある、青と白のストライプ看板が目印の商店『タローソン』。
初代皇帝・佐藤太郎が考案したという、前世のコンビニエンスストアを模したこの店舗は、朝から多くの村人たちで賑わっていた。
「ふはははは! 道を開けなさい平民ども! 大金持ちのお通りよぉ!」
「そこの特製・厚切りカツサンド、棚にあるだけ全部いただきますわ! あと、プレミアム・ハニーロールケーキも十個追加で!」
泥だらけの紫色の芋ジャージを着た、明らかに怪しい少女二人が、買い物カゴに次々と高級食材を放り込んでいく。
徹夜で五円玉を磨き上げ、完全に脳内麻薬が分泌されているルチアナ様とリーザちゃんは、無敵の万能感に包まれていた。
「ルチアナ後輩、見てくださいまし! この『からあげタロー(レッド味)』、いつもはショーケースの外から眺めることしかできなかったのに、今日は買えちゃいますのよ!」
「リーザ先輩! それも五個くらいいっちゃいましょうよ! どうせ私たち、金貨三枚(約三十万円)も持ってるんだから!」
「ええ、ええ! 今日から私たちはセレブですわーっ!」
パンパンに膨れ上がった買い物カゴを二つ提げ、二人はドヤ顔でレジへと向かった。
ちょうどその時、レジカウンターには店舗の売上回収と帳簿チェックのために訪れていた、ゴルド商会の出向財務官・ニャングルさんが立っていた。
「おや、いらっしゃい。……って、あんたら昨日の泥まみれの……それにリーザちゃんやんか。なんや、朝から豪勢な買い物やな」
「ふっ。驚きなさい、ニャングルさん。私たち、ビッグなビジネスを成功させて、大金を手に入れたのよ」
「ええ、そうですわ。お会計をお願いしますの。お釣りはとっておいて構いませんわよ」
リーザちゃんが気取った手つきで、レジのトレイに『ピカピカに磨き上げられた五円玉』を三枚、チャリンと置いた。
「さあ、確認しなさい! その眩いばかりの金貨の輝きを!」
ルチアナ様がふんぞり返って高笑いをする。
ニャングルさんは、トレイに乗せられた穴の空いた硬貨をじっと見つめた。
そして、おもむろに片眼鏡を取り出し、硬貨の表面を数秒間確認する。
「…………」
「どう? あまりの美しさに声も出ないようね!」
「……あのなぁ、姉ちゃんら」
ニャングルさんが、深ぁぁぁぁぁい、ため息をついた。
「これ、ただの『銅貨(五円)』やないか。しかも、アホみたいに研磨剤で削りまくったせいで、表面の刻印すら消えかかっとる。価値としては、もはや銅の地金以下のゴミやで」
「な、なんですってぇ!?」
「め、目が節穴ですの!? どう見てもピッカピカの金貨でしょうが! エコな最新デザインですのよ!」
現実を突きつけられてもなお、ジャージコンビは言い張る。
しかし、ゴルド商会の財務官であり、お金の計算と鑑定においてこの村で右に出る者はいないニャングルさんにとって、それは商人の誇りを最も汚す『禁忌』だった。
「……ワテの目を、誤魔化せると思うたか?」
ゴゴゴゴゴ……ッ。
ニャングルさんの背後から、恐ろしいほどの怒りのオーラが立ち昇る。
咥えていた煙管を灰皿に置き、彼はゆっくりと右の拳を握りしめた。
「偽造硬貨(しかも超絶低クオリティ)で、タローソンの商品を騙し取ろうやなんて……」
ニャングルさんの腕の筋肉が、獣人特有の力強さでパンッと膨れ上がる。
「商売を舐めとんのか、ワレェェェェェェッ!!」
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
「ひでぶっ!?」
「あべしっ!?」
ニャングルさんの渾身のストレートパンチが、ルチアナ様とリーザちゃんの顔面に同時にクリーンヒットした。
二人の体は文字通り宙を舞い、タローソンの自動ドアを突き破って、表の通りへと綺麗に吹き飛ばされていった。
* * *
「……というわけで、偽造硬貨行使による詐欺未遂および、店舗のドア損壊の罪で、罰金として金貨一枚(約十万円)を追加しますね」
ポポロ村役場。
私のデスクの前で、ルチアナ様とリーザちゃんが正座させられていた。
二人の顔面には、ニャングルさんの見事な拳の痕が赤々と腫れ上がっており、両目からは反省の涙が滝のように流れている。
「ごべんなざいぃぃ……魔が差したのよぉぉ……」
「ぐすっ……五円玉が金貨になるなんて、やっぱり世の中そんな甘い話はありませんのね……」
鼻をすすりながら謝罪する二人に、私は丸めたルナミス新聞をピシャリと机に叩きつけた。
「当たり前です! そもそも、硬貨を削る行為自体が重罪ですよ! キャルル村長が情状酌量してくれなかったら、今頃二人とも牢屋の中だったんですからね!」
横のデスクで、キャルル村長が「まあまあ、カレンちゃん。二人の顔面もひどいことになってるし、今回は多めに見てあげようよ」と苦笑いしている。
しかし、これでルチアナ様の借金はさらに雪だるま式に膨れ上がってしまった。
朝から晩まで農作業や皿洗いをしても、このペースでトラブルを起こされては、一生かかっても借金は完済できない。
「はぁ……。ルチアナ様、あなたの借金、現在の労働ペースだと完済までに約四百五十年かかります。マグローザ漁船どころの騒ぎじゃありませんよ」
「よ、四百五十年!? 嫌ぁぁぁっ! 泥仕事はもう嫌なのよぉぉっ!」
「自業自得です。リーザちゃんも、変な知恵を吹き込まないでください。あなたも共犯として連帯保証人にしますからね」
「そんな殺生な!? 私のパンの耳生活がさらにカツカツになってしまいますわ!」
ギャーギャーと泣き叫ぶジャージコンビを眺めながら、私は密かに頭の中でエクセルシートの関数を組み替えていた。
このまま無駄な肉体労働をさせていても、埒が明かない。
彼女たちの強みは、農作業や掃除といった一般的な労働力ではないのだ。
ルチアナ様は、一応『神様』であり、神界のネットワーク(ゴッドチューブ)に絶大なコネクションを持っている。
リーザちゃんは、ポンコツとはいえ腐っても『人魚姫アイドル』。その歌声とビジュアルは天下一品だ。
なら、それを最大限に活かして『荒稼ぎ』するしかない。
前世で、売れない商品をあの手この手でパッケージし直し、無理やり大ヒット商品に仕立て上げてきた『社畜のマーケティング手腕』の見せ所だ。
「……分かりました。泣くのはやめてください」
私が静かな声で告げると、二人がビクッと肩を震わせて泣き止んだ。
「このまま地道に働いていても拉致が明かないことは、私も理解しました。なので、方針を変更します」
私は立ち上がり、二人の前にバンッと一枚の企画書(羊皮紙)を提示した。
「ルチアナ様、リーザちゃん。私が、あなたたちを本気でプロデュースします。一晩で借金を全額返済できるだけの『莫大な予算』を稼がせてあげますよ」
「ほ、本当ぉぉ!?」
「カレンお姉様! ついに私のアイドルとしての才能が花開く時が来たんですのね!」
目を輝かせる二人に、私は『絶対零度の営業スマイル』を向けた。
「ええ。ただし、私の指示には絶対服従です。血反吐を吐くような地獄のレッスンと、徹底した台本管理。……覚悟してくださいね?」
私の放つブラック企業のプロジェクトリーダーさながらのプレッシャーに、二人は「ひぃっ」と息を呑み、力強く頷いた。
コンコン、と。
その時、役場の扉が控えめにノックされ、ジークさんが姿を現した。
彼の手には、大きなお弁当箱が提げられている。
「よう。カレン、昼飯だぞ。……って、そこのジャージ二人はなんで顔面腫らして正座してんだ?」
「ジ、ジーク様ぁぁ! 私たち、飢え死にしそうですわぁぁ!」
リーザちゃんとルチアナ様が、すがりつくようにジークさんを見上げる。
ジークさんは心底鬱陶しそうに舌打ちをすると、お弁当箱の横に提げていた小さな包みを無造作に二人の前に放り投げた。
「ほらよ。罰金で飯抜きだそうだからな。具なしの塩むすびだ。水と一緒に食え」
「お、おむすび!!」
「塩むすび最高ぉぉっ! ジーク様、一生ついていきますわぁぁっ!」
歓喜の涙を流しながら、猛獣のように塩むすびに食らいつく二人。
ジークさんはそんな二人を一瞥しただけで、すぐに私の方へと向き直り、声のトーンをひどく甘く、優しく変えた。
「お前の分は、いつもの『特製ハンバーグ弁当』だ。今日は少し奮発して、チーズを中に入れてある。温かいうちに食えよ」
「わぁっ! ありがとうございます、ジークさん!」
具なしの塩むすびと、特製チーズインハンバーグ弁当。
あまりにも露骨な待遇の差だが、ジークさんにとっては「カレン以外はどうでもいい(けど、カレンの仕事に影響が出るなら死なない程度には餌をやる)」という絶対的な過保護ルールが働いているのだ。
「ジークさんのハンバーグを食べたら、午後からのプロデュース業も頑張れそうです!」
「おう。無理すんなよ」
ジークさんの大きな手に頭を撫でられながら、私は最高のお弁当を開いた。
さあ、腹ごしらえが済んだら、いよいよポンコツコンビの『大逆転ライブ配信』の準備だ。
私の【概念錬金】と、社畜のマネジメント能力が、神界の経済を揺るがすことになる。
読んでいただきありがとうございます。
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