第6話 主人公到着
それから数分後。
「あれ、魔人の死体……?」
そんな台詞と共に。
物語の主人公が。
光津キョウが現れた。
黒髪。平均的な日本人ともとれる、しかし端正な顔立ち。黒い学ラン、型の特殊兵装に身を包み、その手には木刀、型の特殊兵装が握られている。懐かしい、物語の初期装備の光津キョウくんだ。その光津キョウにある一人の女の子が話しかける。
物語のヒロインを務める朝宮ハルカ――浅い黒髪のショートカットに、ボーイッシュな雰囲気を漂わせる美少女――だ。光津キョウがこちらを見て言った。
「彼が、倒したのか……」
それだけ。
それだけのファーストコンタクト。
だがそれだけで、正史に繋がるストーリーが壊れたのだと十分に理解した。
これからどうなるのか。今更ながら先行きへの不安が立ち込めてくる。光津キョウの成長なしにハッピーエンドに辿り着けるのか。全ては分からない。だが、キサラを見捨てるという選択肢は絶対になかった。だからこれでいい。今は心の底からそう思う。
そして、もう一人。
「――あなたが魔人を倒したのですか」
――生徒会長神宮寺ルナ。
白色の長髪に天使のように荘厳な雰囲気を漂わせる美しい風貌。ヴァルハラ学園最強キャラ。そして第1巻でその命を散らせるもう一人のヒロイン。
「詳しく話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
そのルナ先輩と俺のこれがファーストコンタクト。原作では絶対にありえなかった邂逅。この先俺にとってとても面倒なことになる。その確信を得るにこれは十分な邂逅だった。
いやだって何を話せばいいんだよ……。
生徒会長室
「なるほど。あなたは虚無の魔術士でその力で以て魔人を一刀両断したと」
「はい、その通りです」
結局正直に喋った。
まだこの力を悪用していないのだから、別にバラしてもノーデメリット(多分)であると判断したからだ。
「なるほどなるほど。あなたは学園に未報告の魔法を所有していて今日という今日まで隠していたという事ですね。それは校則違反ということになりますが」
「違います。ピンチに際して急に魔法に目覚めたんです」
「……」
「……」
苦しいか?
「……まぁ、いいでしょう。そういうことにしといてあげます。そういう例もなくはないし、なにより生徒の危機を救ってくれたのは間違いないですから」
「本当ですか? それでいいんですか?」
「そういう発言をされると私としても見過ごすわけにはいかなくなるのですが」
「いえ。冗談です。ただの冗談」
「……まぁ、いいでしょう」
いいらしい。
「もういっていいですよ。今回のことはそれで処理しておいてあげます。今回だけですからね」
「あ、ありがとうございます。それでは」
おお、何て親切な人だ。1章ラストで死ぬ人の台詞とは思えない。
……。
死ぬのか?
こんな親切な人が?
「どうしましたか?」
「いえ、何でもないです。失礼します」
僕は生徒会長室を後にした。もやもやした気分を抱えたまま。




