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エピローグ 闇の空にさよならを

 後日、僕は学園からしこたま怒られた。


 有事の際に教師の指示を無視して独断で行動したことを咎められて。


 そして、同じくらい感謝された。


 生徒会長を助けてくれてありがとう、と。


 助けて良かった。素直にそう思える出来事だった。





 魔獣の群れによる襲撃は僕の予想通り何事もなく退けられた。


 いや、何事もなくというにはおそらく失礼なくらいの犠牲は出たのだろうが、流石にそこまで僕もフォローし切れない。今回は生徒会長を助けるので精一杯だった。


 まぁ、身近な人間に死人が出なかったのでそれで良しとしよう。


 後から聞いたところによるとキサラちゃん、そして何よりキョウくんが大活躍だったらしい。生徒会入りが濃厚視されているとか。原作と同じ展開に持っていけてその点でも安心した。やはり異界学園キョウと言えば生徒会は欠かせない。ヒロインの死亡で既に崩壊したとはいえ、やはりなるべくメインストーリーに沿ってイベントは進めていきたい。ヒロインの死亡で既に崩壊したとはいえ。うん。うん……。


 そして僕の今後と言えば。






「生徒会に入れ?」


「はい。これは学園の決定です。拒否権は認めません」


 生徒会長室。


 神宮司ルナ先輩に呼ばれて何の用かと思いきや、生徒会に入れとのこと。僕も流石に慌てて、


「な、なぜ、僕が生徒会に」


「あなたが強力な魔術士だからです。あなた程の魔術士を遊ばせておく余裕は今の学園にはありません。よって生徒会に入ってその力をバンバン振るってもらいます。以上」


「……」


 確かに、少し力を見せつけ過ぎた。S級の魔人を単独で退けるような魔術士を遊ばせておく訳がない。僕は押し黙ることしかできなかった。そんな僕の手をルナ会長は掴んで、


 ガシッ。


「これから、よろしくお願いしますね」


 天使のような笑みを見せてくれるのだった。


 ……まぁ、神宮司ルナ会長の頼みとなれば協力することにもやぶさかではない。原作ではその天使のようなビジュアルから結構推しキャラだったし、何より凄くいい人だ。こういう訳で僕は生徒会入りすることになったのだった。


「失礼します」


 その時、背後からよく知っている声がした。扉を開ける音。そして、現れたのは。


「光津キョウくん。よく来てくださいました」


「はい。会長。失礼いたします。あれ、君は」


「やぁ、キョウくん」


 キョウくんだった。僕を見て、すぐに何かを察したかのような表情。そして、生徒会長の前に。


「生徒会寄りの命令です。光津キョウ。あなたは今日付けで生徒会に入ることになりました。その力、今後は生徒会の下でより一層振るいなさい」


「もちろんです。拝命いたします」


「よろしい」


 ……あれ? 


 それだけ?


 僕の場合は手を握って「これからよろしくお願いしますね」と笑顔で言われたのだが、2回目だから省いたのだろうか? 僕がそんなどうでもいいことを考えていると、


「アキラ」


 スッ。


 キョウが僕に手を伸ばしてきた。


「これからもよろしく」


「……」


 ガシ!


 僕は手を握り返した。生徒会長はフフフと微笑んだ。


「2人は仲がいいようですね。これから仲良くやれそうで一安心です」


「まぁ、1学年の中じゃ仲がいい方です」


「これから頑張ってください。闇蔵アキラ。光津キョウ」


「はい」


「はい!」


 そんな訳でこれからは生徒会としても頑張ることになった。色々予定がぶっ壊れているが頑張るつもりでいる。


 目の前のことに全力で取り組み続けること。結局の所僕に出来るのはそれだけなのだろろうから。






「へー、やっぱり生徒会入るんだ」


「驚かないんだね」


 後日。


 キサラちゃんに生徒会入りを告げた所で特に驚かれることなく受け止められた。


「それよりさ。アキラ。私にも稽古つけてくれない」


「にも?」


「光津キョウ。彼と連日ハードな訓練してるんでしょ。知ってるんだから。私にもつけてよ。ねー」


「あ、うん。いいけど」


「やった」


 ピョン、と跳ねるキサラちゃん。可愛い仕草だった。


「それじゃこれからよろしくね」


「ああ。よろしく」


 ……思えば、この世界に来てから一番多くの時間を接してきたのは間違いなく彼女だった。それを思うと特別な感慨が胸を過る。その感慨を、言葉にしてキサラちゃんに伝えた。


「キサラちゃん」


「なぁに、アキラ」


「僕、この世界でキサラちゃんに会えてよかったよ」


「!? な、ななにいいきなり言い出すのよ。恥ずかしいじゃない!」


「え? 恥ずかしい? ……そうだね。ちょっと恥ずかしいかも」


「そ、そうよ。全くアキラは! ……でも、ありがとね」


「こちらこそ。今後ともよろしく」


「ん。今後とも、ね」


 キサラちゃんとはいい友人関係が築けている。今後とも末永く友人でいたいなと僕は思った。






「ふぅ」


 ……僕は屋上に来ていた。誰もいない場所。それを探して。別にトイレの個室内でも条件は該当するがそれは流石にあんまりなので屋上にきた次第だ。誰もいない場所。そこで、手すりにもたれかかって、一望できる学園の景色を眺めながら思う。


 ……これからどうなるんだろう。


 ヒロインの朝宮ハルカが死んだ。死ぬはずだったモブ子こと吉祥院キサラと神宮司ルナが生き残った。そして9巻まで生存するはずだった魔人イルミナティが早期に死んだ。もはや物語は今後どう動いていくのか全く分からない。


 でも、不思議と迷いは少ない。それは、この世界に来てから出会った人たちにもらった幾つもの言葉があるから。


「……何があろうとも全力で今を生きるだけだ。うん。内省お終い」


 僕は伸びをした。そして、階段を下りて屋上を去ろうとしたところ、螺旋階段を上ってきた生徒会長とばったり会った。


「あ」


「あ、偶然、ですね」


「はい……」


「……屋上、好きなんですか?」


「まぁ、はい。好きな方ですかね」


「私も。いいですよね。この景色」


 生徒会長――神宮司ルナは屋上を背に両手を広げて見せた。


「私の守りたい景色。この景色があるから私は戦えるんです」


「――そう、ですか」


「はい。大好きな世界。大好きなみんな。そんなみんなが存在するこのヴァルハラ学園という場所が私は大好きです。きっとこれからも」


 そして生徒会長は。


 弾むような笑顔を僕に向けてくれた。


「大好きでい続けます」


「……先輩は凄く良い人ですね」


「よく言われます。でも、私は私のエゴに従っているだけですよ。あなたも」


 生徒会長は僕の顔を下から覗き込む。そして、やはり眩しい笑顔をその顔に浮かべて、


「そうなんじゃないですか?」


「……そうかも、しれませんね……」


「ふふ。そうですよ。きっと。……そうだ。アキラくん」


「はい。何ですか」


「私を助けてくれてありがとうございます」


 生徒会長は。


 僕に頭を下げてそう言った。


「あなたが助けてくれたお陰でこれからもこの世界を大好きでい続けられます。守っていられます。あなたがいてくれたから」


 そしてやはり、花のような笑顔で


「私、ここにいます」


「……」


 僕の救った命。


 僕のエゴで救った命。


 それが。


 それが。


 今この場所で。


 こんなにも美しく咲いている。


 それが何だか無性に嬉しくて。


「あ……涙だ」


「あ、本当だ。ふふ。なんで泣いているんですか?」


「分かりません。何となく、先輩が生きていて嬉しいなって思ったら、勝手に」


「ッ! そ、そうですか。それなら仕方ありませんねー。全く。アキラ君は……」


「ありがとうございます会長」


「ん?」


「僕はこれからも守れる命を守り続けます。助けたい人を助けます。その為に全力を尽くします。それが僕がこの世界に生まれた意味だと思うから。だから、だから」


 僕は言葉に詰まりながら、生徒会長に告げた。


「えっと、今この場にいてくれて、ありがとうございます」


「……ふふ、どういたしまして」


 生徒会長ははにかんだ。そしてまたくるりと身を翻して、校舎へと続く螺旋階段へと歩を進め、


「一緒に」


「はい?」


「今日は一緒に学食で食事でもしませんか?」


 そう言った。


「……はい!」


「良かった。ふふ。今日はたっぷりチーズハンバーグを食べましょう」


「あっ、(それプロフィールに書いてあった好物……)」


「? どうしました?」


「いえ、何でも。……僕は卵丼を食いますよ。丼ものが大好物なんです」


「はい。好きなものを一緒に食べましょう。きっといつもよりずっと美味しく感じますよ」


 ――僕は会長と一緒に食堂に向かう。これから世界がどうなっていくのか分からない。だけど、守りたいものをこれからも守っていこうと思う。それが僕がこの世界にきた意味。闇蔵アキラという力を得た意味。そして、今この瞬間の喜び。それを噛みしめることもまた、きっとこの世界にきた意味だから今ここにいる意味だから。


 これからも大事な人と大事なものを守っていこう。


 僕はそう決意して。


 無限の闇空の広がる屋上への扉をバタンと締めて、会長と一緒に食堂へと向かうのだった。                   



                 第1章 完

明日から第2章開始

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