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第9話 軍事作戦

 対魔学園は学園であると同時に軍事拠点でもある。

 故に学園としての側面と軍事拠点としての性質の両方を持つ。

 時々行われる課外授業はその軍事拠点としての性質を強く持ったものである。

 それは単なる授業の名を冠した魔物を間引く軍事作戦であるからして。



「今日はエリアHにて魔物の掃討作戦を行う」


 ある日のHR。


 僕の所属する1年B組の担任教師の第1声がそれだった。


 ちなみに担任教師の名前は黒沢マユミ。軍人上がりらしくその経歴を裏切らない鋭い眼光と風貌の持ち主だ。


「エリアHは鬼の魔人メイキス・トライオーガが支配する地域だ。知っての通り魔人メイキス・トライオーガは魔人の中では下位に位置する。それ故この度我々ヴァルハラ学園は人類連合会議の決議にてメイキス・トライオーガを打倒しH地区を奪還する任務を受けた。これがこの作戦に至った概要である」


 人類連合。数ある対魔学園の頂点に位置する10名の人材にて構成された人類を代表する連合組織だ。その組織の決定は絶対である。しかしてその決定の重さ故判断はそれなりの責任を負って行われる。つまりヴァルハラ学園なら100%H地区を奪還できると判断して今回の作戦が決定されたのだろう。


「決行は事前に通達されていた通り今日今からだ。それでは各自私の命令に従い行動を開始せよ。まずは校庭に集合だ」


 作戦決行開始。校庭に向かう途中、キサラちゃんが話しかけてくる。


「ねぇ、メイキストライオーガってそんなに弱いのかな」


「弱い魔人が1地区を支配できる訳ないでしょ。相応に強いよ。あくまで他の規格外の魔人に比べたら人の常識の枠内に収まっているってだけで」


「う、うん。そうよね。大丈夫かな」


「メイキスに関しては大丈夫でしょ」


「え?」


「生徒会長がいる。あの人がメイキス如きに負ける訳ないよ」


「……うん。そうね」


 キサラちゃんは頷き同意を示した。


「生徒会長が負ける訳ないよね……」


「うん。だから僕たちが心配するのは自分たちだけでいい。メイキスは会長が相手取るにしても、その配下はもしかしたら僕たちの元にくるかもしれない。そういう不測の事態に備えて、油断なく立ち回るべきだ」


「うん。そうね。言う通りだわ。まずは自分の心配からよね。私、頑張る」


「うん。頑張ろう」


 僕たちは校庭に向かう。そして集合後、生徒たち全員が3つの班に分かれてH地区へと出発した。


 生徒会長はAグループ。僕たちはBグループ。そして光津キョウはCグループだった。




 3グループに分かれたのには訳がある。


 それはH地区は3つの砦を持つ特殊な地形を持つ地区だからだ。


 中央のメイキスが座す砦に全戦力を集中しても敵と味方の境界線にある実際に戦える戦力は僅かであり、その戦力を右と左の砦から現れた敵戦力に包囲されるのが危険と見て戦力を3分割することになった。


 左右の砦を担当するBグループとCグループの役目はAグループの邪魔をしないこと。そして、可能であればメイキスの配下の幻獣型魔獣を撃破することである。


 その主攻を務めるのはもちろん最上位学年である5年生。1年生は本当に戦場の補佐でしかない。


 まともに考えれば大きな危険はない戦いになるはずだ。


(多分大丈夫だろう。原作でもこの戦いは生徒会長の強さを読者に知らしめるための戦いという側面が強い。もちろん光津キョウ君もそれなりに苦戦するが、戦闘――いや、この戦争を大過なく生き残れるはずだ。ヒロインの朝宮ハルカも同様に。だから僕が気を付けることは自分が生き残る事だけでいい。そのはずだ。うん)


「緊張するわね……」


 キサラちゃんも当然Bグループで僕と同行している。僕も素直に頷き、緊張を隠さない。


「ああ。この前ともまた違う実戦だ。この前はイレギュラーはあれど雑魚の掃討戦だったが今回は本当の戦争だ。死人がたくさん出るよ」


「そうね。私たちはそうならないように頑張りましょ」


「うん」


 本郷タケシと夢川アユムも追従する。


「うむ。頑張ろう」


「そうだねー。あ、見えてきたよ」


 H地区の3大砦トライフォートレスが見えてくる。戦いの時は近い。







 戦場は生き物のように唸って僕たちに襲いかかった。


 虚無の魔力を纏った高周波ブレードを振り回す。襲いくる魔物は全て一撃で切り殺す。


 だが、数が減らない。


(本気を出せばこんな雑魚魔物の群れ一撃で消し飛ばせるが……)


 それをするには味方が多すぎる。


 僕の魔法はこの大多数の敵味方を識別する程器用な性質をしていない。


 むしろ大雑把で、それ故に強力だ。


 今の僕には剣に魔力を纏わせて切るのが精一杯の力加減だった。


「敵、纏めて来るわよ。任せて」


 キサラちゃんが掌を敵の群れに向ける。そして、詠唱した。


「ボルテクス・ウェーブ」


 雷の波が魔獣の群れを打ち据え、感電死させる。器用な力加減だ。


 ともすれば同士討ちになりそうな技だが周りの生徒には被害が及んでいない。


 まだ第1段階までの魔法しか使えないとはいえ十分な戦力だった。


 魔術士が強力な戦力とされる所以だ。魔力の値が魔術士は一般的な人間よりも図抜けて高い。特殊兵装を使わせても、魔法で直接攻撃させてもその威力は非魔術士より圧倒的に勝るのだ。


「ビーム・ブラスト。ふっ、流石魔術士だな。頼りになる」


「ビーム・サーベル。あーしも魔術士に覚醒したいんですけど」


 本郷タケシと夢川アユムも日ごろの鍛錬を良く反映させて魔物と渡り合っている。2人とも平均よりはやや上の戦力を持っているだろう。この4マンセルは1年生にしてはかなり強力な部類と言えた。


 だがその程度では戦の趨勢を左右するほどの力があるとは言えない。


 やはり、このBグループの戦場で戦の趨勢を左右するものと言えば。


「あちらの戦いは派手だな……」


「うん。そうだね。何せ第3段階まで魔法を目覚めさせた先輩たちが戦っているからね」


 最上級生。その中でも魔法を上位段階まで目覚めさせた先輩たちだろう。






 魔法には段階がある。


 1段階目。魔導覚醒。目覚めた魔法の属性に応じた簡単な魔法に覚醒する。


 2段階目。武装覚醒。魔法が武器の形を取り、固有魔法に覚醒する。


 3段階目。魔力覚醒。可視化される程の魔力をその身に纏うようになり、更に強力な固有魔法に覚醒する。


 4段階目。魔境覚醒。魔法で結界を貼れるようになり、その中限定で更に強力な魔法に覚醒する。


 5段階目。神淵覚醒。魔法の極み。魔法の属性に応じてこの世の摂理すら操れるようになり、その魔法の規模は世界を部分的に崩壊させるレベル。この段階に至る魔術士は殆どいない。


 大抵の魔術士が1段階目に留まる。2段階目まで行けば非常に優秀。3段階目まで行けば人類のエースを張れるレベル。4段階目まで行けばもう化け物で、5段階目は魔術士史上十数人しか確認できていないレベルだ。


 一般的には3段階目の魔術士が最前線を張ることが多い。4段階目まで行くと戦略兵器に数えられるレベルで、非常に希少なため強力な魔人と渡り合う役目を課せられることが多く、持ち場を離れられないことが多いからだ。


 第5段階まで行くともはや国宝レベルで滅多なことでは誕生しない。現在の世界で確認されているのは3名。3名も5段階目に至った魔術士が確認されているのだ。魔物の頂点魔王とも渡り合える可能性を秘めた存在とされ、大事に扱われている。そして時折前線に出ては夥しい戦果を挙げている。名実ともに人類の切り札だ。


 ただ一つとても厄介な事実がある。


 何もこの魔法の段階は人類の身に適用されるものでなく魔物や魔人にとっても適用されるものであり、強力な魔人は上位の魔法に目覚めているものが殆どだという事実だ。


 今少し遠くの戦場で繰り広げられている戦いも、上位魔法に目覚めた人間対魔物、つまり化け物対化け物の戦いという訳だ。ここからでもその戦いの様子は垣間見えた。




 ヴァルハラ学園の制服を着た最上級生の手には剣が握られている。


 不可思議な装飾が凝らされた、特殊兵装ではない武器。第二段階武装覚醒で生み出した武器だ。


 さらにその身は赤い魔力で覆われている。第3段階魔力覚醒により生み出された並大抵の攻撃は通さない固い鎧で、上位魔術にアクセスするキーでもある。


 その上級生が剣を敵に向ける。その背後から無数の門が中空に生まれ、そして敵に向けて剣が一斉掃射された。


「フシュルルルる」


 対する魔獣……その両手に禍々しい鍵爪を装備し、全身を紫色の魔力で覆った恐竜型の魔物が、吠える。すると、その咆哮は質量を伴った衝撃波と化した。


 剣が衝撃波に跳ね返されていく。しかし、その中でも衝撃波をかいくぐった数本が恐竜の巨体に突き刺さる。痛みに吠える魔獣。その魔獣に最上級生が接近し、剣を強く握った。


砕けぬ巨剣(アンブロークン・ビッグソード)


 剣が巨大化する。魔獣の全長を超える程の巨大な剣が振り下ろされる。恐竜型の魔獣が右手を上げる。


 シュパン。その右手を切断して剣が胴体に迫る。そして胴体に食い込んだ。しかし、両断には至らない。魔力の鎧が剣をギリギリで喰いとどめている。その傷口に駆け込むもう一人の最上級生!


 その最上級生の手にはドリルが装着されている。ドリルが猛烈に回転する。最上級生が叫んだ。


螺旋貫通殺(メガ・ドリル・ブレイク)!」


 メギャァアン!


 恐竜の半切断された胴体にドリルが食い込む。猛回転する。そして、突き抜けた。


 胴体に大穴を穿たれた恐竜型魔物が絶叫する。と、その絶叫がふいに止み、そして魔物は倒れ伏した。ハイタッチする二人の最上級生。続いて、生徒たちの歓声が沸く。メイキス・トライオーガの2大配下の一体メギドサウルスを倒したからだ。逆に指揮が下がるのは魔物たち。その士気の差がそのまま戦力差となって蹂躙に変じた。明らかに手ごたえが柔くなった敵を屠りながらキサラちゃんが興奮気味に語る。


「やっぱ凄いわね! 生徒会武装班隊長の剣ヶ丘(つるぎがおか)ケン先輩に副隊長の貫貴(つらぬき)ワタル先輩。あのメギドサウルスをあっさり倒しちゃった!」


「そうだね。凄いね」


「この戦場はもう勝ったも同然ね。他の戦場はどうなっているのかしら」


(他の戦場、か。生徒会長がいるAグループはまず大丈夫だろう。光津キョウくんのいるCグループも原作の展開からすれば大丈夫なはずだけど……)


 Bグループは実質的にもう勝利を収めた。Aグループは大丈夫としてCグループはどうなっているのだろう。大丈夫なはず。なのに、何故か妙な予感が拭えなかった。


(いや、大丈夫なはずなんだけどね。心配し過ぎか)


 そう切り変え、僕は戦いに集中する。程なくして、Bグループの生徒たちの間で勝鬨が上がった。





 敵を殲滅し終えたBグループはAグループと合流するため中央の砦に移動する。


 生徒会長がメイキス・トライオーガの首を持って勝鬨を上げている姿が真っ先に目に入った。


 Aグループも快勝を収めたようだった。BグループとAグループは合流し残った敵を殲滅し、次はCグループへと向かった。




 

 Cグループの元に辿り着くと、騒いでいる一人の生徒がいた。


「お願いします! ハルカを! ハルカを誰か助けてください! お願いします!」


 光津キョウだった。その手に抱かれているのはヒロインの朝宮ハルカ。死体に見える。肩から胸にかけて大きな刀傷がある。生きているのか死んでいるのか分からない。だが、深手を負っているのは間違いなかった。


「糞! 俺がもっと早くこの力に目覚めていれば! 糞ォオオオオオオオオオオオ!」


 どうやら光津キョウと朝宮ハルカがいる場所に第二段階の武装覚醒を果たした魔物が来たらしい。光津キョウはその魔物と交戦するも、力及ばず、殺されかけたその時、朝宮ハルカが間に入って代わりに攻撃を受けたらしい。


 その1件を切っ掛けにキョウは力に目覚め、第2段階の武装覚醒を果たし、光の剣で魔物を一刀両断したらしい。だが、その代わりに朝宮ハルカは大怪我を負い、それからずっとハルカを庇いながら戦っていたらしい。


 それは原作と違う展開だった。ぐにゃぐにゃと視界がふらつく思いだった。


 原作では危機一髪の所で武装覚醒を果たし、ハルカを救うはずだった。それがヒロイン足るハルカの犠牲が出るまで覚醒を果たせなかった。それは何故か。


 光津キョウが覚醒に至るための精神の葛藤が足りなかったからだ。


 僕が吉祥院キサラを助け、その機会を奪ったからだ。


「大丈夫? 顔色が悪いわよ?」


 ハッと気づいたその時、僕はキサラちゃんに心配されていた。僕はその顔を直視できなかった。本当は死んでいたはずのキサラちゃん。それを救ったから光津キョウの覚醒が遅れ、あろうことか物語のヒロインが犠牲になった。


 物語に介入するリスクを僕は今本当の意味で思い知った。


 ならば、これから起こるはずの悲劇を僕は見過ごし続けなければならないのだろうか。どうすればいいのだろうか。一体、どうすれば……。


「誰か、誰かハルカを助けてくれよォーーーッ!」


 その問いに答えるものは誰もいなかった。

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