名無しの少女
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「ナナシ、ちょっとこっちに来い」
「ん?なんですか先輩」
手招きする飛鳥について行くナナシ、玄関を通ってエレベーターに乗る、機械の作動音と共に、ゆっくりと上空に移動し始めた
「もしかして愛の告白ですか~?」
「違う」
「・・・即答しないでくださいよ」
からかったつもりだが即答され、がっくりと肩を落とすナナシ、飛鳥の耳が少し赤かったことには気づいていない
「これから合同訓練だ、俺とちょっとした戦闘トレーニングを行う」
「それなら最初からそう言ってくださいよ」
「次からそうしとく、まあ俺と戦うことだ」
「先輩とですか・・・嬉しいですけど一度も勝ったことないですよね」
「そうだな、124戦124敗だったな」
「次こそは勝ちますよ!」
「あぁ」
エレベーターの駆動音が止まり、ゆっくりとドアが開く、そこは周囲に岩や草木が生えている自然エリア、川が流れる綺麗なエリアだった
「今回はここですか・・・」
「地の利を生かす戦い方ができれば良いな」
「うぅ、僕頭硬いからできるかな・・・」
「念のため再確認するぞ、ナナシが使用可能な魔法は?」
「はい、「身体強化」と「足場生成」あと「雷纏い」です」
「規則で一つ一つ説明してくれ」
「・・・これ何回やればいいんですか?」
「規則だ」
「はぁい、「身体強化」は文字通り魔力を使って筋力を増やしてドーパミンの分泌量も増加させる魔法です」
飛鳥はメモ帳にすらすらと書き留めながら、陣笠をくいっと上げる
「俺が教えた最初の魔法だな」
「今でも大切にしてますよ?なんだって先輩から教わった最初の魔法ですから!」
「次は」
「「足場生成」半径1mの足場一分くらい生成する魔法です、動かしたりはできませんし足裏の方向にしか設置できませんー」
「ふむ」
「最後に「雷纏い」は腕部と脚部に炸裂する魔力を纏う魔法です」
「ありがとう、これでこの説明も125回目だな」
「絶対この規則要りませんって」
「仕方ない、規則を消すのにも金がかかるんだ、それに報告書も書かないといけない、つまりめんどくさいんだ」
「むぅ・・・」
頬を膨らませるナナシを一瞥した飛鳥は、背中にある刀を背中から離し、地面に置いた
「今回は素手での戦闘だ、ナナシは武術が基本だからそのままでいい」
「・・・初めての一勝、いただきました!」
右手を前に突き出し、グッ!と親指を出すナナシ、今まで刀ありで戦ってきたが今回は素手、ナナシも連敗を止められると考えているようだ、飛鳥は指の関節を鳴らし、足を回す。その姿は準備運動のように見えて、どこか威圧感があった
「油断はするなよ」
「はいです!」
二人はそれぞれの開始地点に移動し、壁にある端末を起動した、ピューンと起動音と共に、女性のような電子音が響く
「これより模擬戦闘訓練を開始、各員戦闘許可証を端末にかざしてください」
「えいっ!」
ピッと音を立てて許可証を端末にかざすナナシ、どうやら今回こそは勝つぞとやる気に満ちているようだ
「no.1002、飛鳥、no.1024、ナナシの許可証を確認、これより模擬戦を開始」
機械音と共に、張り詰めるような空間になる、周囲の照明が少し暗くなる
「手加減、しないでくださいね!」
早速ナナシは身体強化の魔法を放つ、淡い光がナナシを纏い、一瞬光る
「テンション上がってきましたー!」
ナナシが身体強化を言うと大体八割の確率でこれを言う、残りの二割は「やっちゃいますよー!」だ
「来い」
地面を蹴り飛ばしたナナシは、高速で飛鳥に接近する、蹴った地面は土が見えるほどえぐれていた。低い姿勢で接近するその姿は、まるで弾丸だ
「くらえです!」
至近距離での渾身の右ストレート、躊躇も迷いもなくその拳が飛鳥の腹部に狙いを定める
「まだまだだな」
飛鳥がナナシの拳を掴み、ナナシのスピードをそのまま遠心力にしてぐるぐる回す、回転スピードは少しずつ上がっていき、もはや竜巻となっていた
「目があああぁぁぁ」
「はっ!」
ハンマー投げのように、手を離してナナシを遠心力そのまま投げ飛ばす!
「うわぁ!?」
ナナシは風のように吹き飛ばされるも、体勢を整えた
「足場!」
バン!と足裏から出た魔法陣に足を乗せたナナシは、遠心力をすべて押し殺し、思いっきり蹴って今度は蹴りを入れようと飛んでくる
「えーい!」
「何度やっても無駄だ」
「雷纏い!」
雷纏いは魔力を纏う魔法、さっきと同じ要領で足を掴んでは炸裂を喰らってしまう
「避けるか」
体をぐいっと捻り、ナナシの蹴り技を紙一重で回避!そのまま地面に足を付けた、地面に着地したナナシは、炸裂した衝撃で煙が舞い、晴れると意外そうな顔をしたナナシが立っていた
「うそ、今の避けれるんですか!?結構スピード出してたのに・・・」
「まあな」
炸裂の中心部には小さいクレーターができていた、流石にこの威力を受けたらひとたまりもないだろう
「手加減してるな、雷纏いの威力はそれぐらいじゃないだろ」
「う・・・」
「本気で来い、全部受け止めてやる」
「・・・わかりました、本気で行きます!」
雷纏いの出力を上げたのか、落雷の音を立てて足と腕に雷のようにバチバチとはぜる火花を纏ったナナシは、自信満々な表情で、飛鳥を見据えた
「やられても文句はなしですよ!」
「互いにな」
バシイイイイン!衝突音と炸裂音が混じった音が部屋中に響く、波動が草木を揺らし、岩が少しズレるほどの衝撃波、空気の波動が葉を吹き飛ばし宙に舞う、焼き焦げた匂いが鼻をつく、飛鳥はナナシの渾身の一撃を、右腕で受け止めていた
「そんな!?」
「流石に堪えるな」
ナナシが体を捻り回転蹴りをするも、それも飛び躱してしまう飛鳥、ナナシは悔しそうにムーッと頬を膨らませている
「あれ、本気の一撃だったんですけど!?」
「体重が乗っかってなかった」
「僕って軽いんですよ?」
「何キロだ」
「この可愛い僕が体重言うと思いますか?」
少し拗ねてしまっているようだ、両腕を組んでムーッとしている
「ま・・・でもあの一撃は流石に堪えたぞ、一般人だったら即気絶だな」
「でも先輩はちょっと腕が痛いレベルじゃないですか・・・」
「腕全体に響いたのは事実だ、もう少し体重を増やs」
「先輩?」
ナナシの目に光が消えた
「・・・ごめん」
にっこりとほほ笑んで腰から上を屈んでこっちを見るナナシ、しかし目は笑っていない
「華奢で可愛い僕にそんなこというなんて、いい度胸ですね~?今ならもっと強い攻撃できそうですよ~?」
「ごめんって・・・アイスおごるから」
「やった~!約束ですよ!」
どうやら完全にしてやられたらしい、またアイスを奢らなくては・・・
「まだ終わってないからな」
「わかってますよ!」
結局飛鳥に一撃もいれることができずに、数十分が経過した・・・
「あぅぁ・・・もうだめぇ・・・」
尻もちを着いて手をパタパタして体を冷やすナナシ、汗が首元から流れる
「魔力を放出し過ぎたな」
「はい・・・あぁ~、疲れた~」
ナナシががむしゃらに魔法を連発した結果、魔力切れを起こしてバテてしまった
「呼吸を整えたら、アイス食べるぞ」
「やったぁ!」
ぴょんと飛び跳ねるナナシを、ジーッと見つめる飛鳥だった
・・・
「どのフレーバーにするんだ?」
「そうですね~・・・あ、新作ある!」
第三支部の4階、食堂コーナーにアイスが売ってある、様々なフレーバーが並び、冷たい空気が肌を冷やす
ナナシはいつもよりキラキラした瞳でアイスとにらめっこをしていた
「先輩!二段食べていいですか!」
「良いぞ」
「やったぁ!」
嬉しそうに注文するナナシ、飛鳥もそれと同じものを注文した
「はいよ!1300クレジットだよ」
「どうぞ」
端末に許可証を置いてアイスを受け取った、ホログラムの残高が減ったのを見て少し虚しい気持ちになった、椅子に座って食べる、向かいの席にナナシが座り、美味しそうにアイスを頬張っている、冷たくクリーミーな食感が美味しい
「~~♪」
「・・・ナナシ、最近どうだ?」
「ふぇ?何がですか?」
「何か困ったことは」
「急にどうしたんですか?告白ですか~?」
「違う」
「だから即答しないでください」
飛鳥は咳払いをして、ナナシと目を合わせて言う、アイスを頬張っているナナシを見ながら、ふと飛鳥が口を開けた
「ナナシは、一応女性として生きてるだろ?」
「そうですね」
「ナナシが女性になると決めたのは良いが、辛かったら俺に相談しろよ」
「大丈夫ですよ~、僕は今のままで大丈夫です!」
「そうか・・・あと”エンジェル”の情報についてだが」
飛鳥はカーゴパンツのポケットに手を入れ、ピラっと写真を見せた、それを机に置いてナナシに渡す
「この人は?」
「尋問した奴曰く”エンジェル”の幹部の一人の写真だ、名前は「ギル」ルティアと同じ獣人族の少年だ」
「幹部・・・この子が?小さいし幹部には見えないほど可愛いですが・・・」
写真に写るのは、銀色の長髪に狐のような耳、大きめな尻尾に小さい身長、前髪が左目を覆いつくしていて、無機質な壁が背景に、真顔でダブルピースをしている
「そういう奴ほど油断はできないということだ」
「ふ~ん・・・」
「早く戻るぞ、ルティアがゲームしたいと言ってたな」
「あ、そうでした!早く戻らないと!」
・・・
―エンジェル本部―
「ボス、次の魔物出現場所は」
銀色の少年が一つの部屋に入る、大き目な机に一つの椅子、それ以外一つもない質素な部屋だった。大きな窓には月が見えている
「あぁ、ギル君か、入っていいよ」
「失礼します」
銀色の少年が部屋に入る、少し埃とオイルの様なにおいが鼻を刺す
「・・・次はB区に魔物を放ちます」
「あぁ、確か対異能特別行動組第三支部の近くだね、邪魔されそうだけど?」
「対能が魔物を対応している間に支部を僕の魔法で攻撃します」
「ふぅん・・・ま、そこらへんは好きにしていいよ」
ボスと呼ばれる人は、ギルを一瞥した後月を見た
「今日は満月か・・・ギル君」
「はい」
ボスはゆっくりとギルに向かい、その手をギルの顔に置いた
「君は僕の”奴隷”だ、一生僕の道楽のために頑張ってね」
手から放たれる黒い渦がギルを包み込み・・・
「・・・はい」
少年は頷いた
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