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その音が止まるまで  作者: 神永瞬子
四章 居場所
13/17

13.まねくかみ

 手慰みに、ある男をひとり、自分の場所へ招いてやった。

 驚いたり、感激するかと思いきや、その男はただただ、声を上げて泣くばかり。しまいには自分に、殺してくれと頼みこんできた。

 不思議に思った。生きる事、それが生きとし生けるものの本懐のはずだ。なぜ泣くのか問うた。その男は泣きながら、妻と子どもを亡くし、それによって自分の才能が枯れ果て、生きる意味をいっぺんに失ったと答えた。

 別に、そのまま殺してやってもよかった。なのに、自分はどうしてか、その男に歌を作らせた。心を代弁させるような歌を作れと命じた。

 その男の名前も、声も、顔すらもう、覚えていない。なのに、なぜかそれ以来ずっと、心が流れ着くようになった。時代が変わり、栄え、滅びるたびに、形を変えてやってくる。巻物が、本が、楽器が、レコードが、カセットテープが、CDが。

 そのどれもに、名前は書いていない。誰の物かも分からない。

 最初の方は、人を招いて誰のものか尋ねていたが、誰も彼も、「知らない」と答えるので、もう最近は人を招いても、それがなんなのか、聞くことをやめてしまった。

 忘れられたもの、なのだろう。それなら、いつか私も、流れ着く側になるのだろうか。それとも、もう……。



 なんだか、暑い。それに、ひりつくくらい、喉が渇いている。背中も痛い。

 あまりの寝苦しさに、うーんと唸って、リンは寝返りをうとうと体を左にねじった。すると、突然の浮遊感。そして、どざっ、という音と、衝撃。


「なっ、なんだ……!?」


 眠気なんてすっかり忘れて、リンは目を回しながら飛び起きる。そして、息を呑んだ。

 ここは、どこだ。一気に顔から血の気が引いていくのが分かった。

 柱が折れて、屋根が右に傾いている和風の建物。太い縄が、片方で千切れてぷらんとぶら下がっている。苔むした、古びた木の匂い。自分が今座っている石畳と、めちゃくちゃに壊れた賽銭箱が、ここを微かに、神社だと主張していた。


「なん……で」


 乾いた喉では、かすれて弱弱しい言葉しか発せない。ただ、何となくわかる。ここは龍樹の家と、その周りではなく、生気と人の気配する響の街なのだと。

 なにがなんだか分からない。昨日まで、自分はまた、あの人の楽譜の続きを書こうとしていたはずだ。そこで、龍樹に変な提案をしてあっさり断られて……、貴虎は、夜の時点で居なかった。


「そうだ、ギター!?」


 急いで身の回りの物を整理する。ポケットに入っていたのは、いつの間にか無くしていたはずの自分の財布と、誰のものか分からないスマートフォン。そして、ギターはと言うと、さっきまで自分が寝ていた神社の軒下に、丁寧に置いてあった。

 あるものは、ある。しかし、それが逆に、ますますリンを困惑させた。昨日までの龍樹とのやり取りや生活の痕跡が、まるで夢のように消えているのにも関わらず、ギターも、季節も、そして自分の記憶も地続きだ。


「貴虎……、それに、八鶴や介は?」


 思わず、持っていたスマートフォンの電源を付けた。七月三日。金曜日。そして、映し出された待ち受けに、また、たまらず息を呑む。

 少年と、その少年よりもずっと小さい女の子と、スーツ姿の女性が、三人並んで写真に納まっている。女の子の腕の中には、きらびやかな盾。女の子と、スーツの女性に見覚えはない。けれど、その少年には確かに見覚えがある。


「これ……、貴虎? すげー不在着信……」


 そこで、ふと思い出す。確か、ベースの修理へ介の店へ繰り出した日、スマートフォンをなくしていたと騒いでいたことを。なにか、これをうまく使って貴虎に……! とも思ったが、そもそもロックがかかって、使えなかった。

 どうしよう。思わずリンは途方に暮れた。平日だ。八鶴も、介も、きっと学校に行っている。それに、学校の位置が分からない。唯一、この異変に自力で気づきそうな貴虎は、行方不明。

 何をするにも喉が渇いた。一先ず、街へ降りよう。リンは神社へ背を向けた。ここは、山の頂上か何かなのだろう。石畳の階段が、ずっとずっと、下まで伸びていた。



 JR小山駅。貴虎はロータリーに流れる車を見ながら、ひとつ、大きなため息をついた。


(こっからどーやって帰ろー……)


 なんだかよく分からないまま、適当に電車を乗り継いで家へ帰っていた過去の自分を殴り倒したくなった。

 さっぱり分からない。ここから響へ、そして龍樹の家までどうやったら帰れるのか。本当に、分からない。流れるタクシーとバス、それと自家用車を眺めること、かれこれ数十分。スマホがあればなぁ、と、どれほど思った事か。手に食い込んだビニール袋が重くて痛い。


(ワケわからん電車を乗ってやったんだから、どうにか迎えも来いよ……!)


 と、そうして愚痴を漏らしたところで、何の解決にもならないことは分かっている。はぁ、どうしよ。と、天を仰いでいた、その時だった。


「うわ」


「うわってなんだ失礼だな!!」


 反射的にそう怒鳴って振り返る。そして、目に映った人物に驚いて、思わず言葉を失った。


「なんでこんな所いんだよ……」


 そう貴虎に呆れ気味に言ったのは制服姿に、両手をポケットに突っ込んだままの介だった。よりにもよってコイツかよ、というのが半分。もう半分は、本当に、本当に心の底から助かったという感情だった。だが、それを表に出すのは癪なので、別の話をした。


「…………そーゆーお前は? 今日、平日だろ?」


 すると、介は顎で自分の膝を示して言った。


「病院。おかげで午前サボり」


「はーん。……杖は?」


「もういらねぇって。慣れちまって、なんか変な感じ」


 思いの外、真面目に返答が帰ってきて、変に歯切れの悪い反応をしてしまう。だが、渡りに船だ。貴虎は自分が道に迷っていたことを隠すように言った。


「じゃあ、せっかくだし一緒に響まで行こうぜ」


「……道に迷ってて可哀そうだからそうしてやるよ」


「お前さぁ!」


「分かりやすすぎなんだよバーカ。声かけずに帰ってやろーとも思ったぜ」


 そうして貴虎は介の後ろについていく。

 結局のところ、正解の道はバスを二回乗り継ぐだった。スカスカの時刻表と、乗客が自分と介しかいないバスにカルチャーショックを受けながら、バスの優先席に二人で座る。

 ゆったりとバスが動き始める。エンジンの揺れと扇風機の音だけがある。このまま無言と言うのもなんだか気まずくて、貴虎が口を開きかけた時、


「ギター。そろそろ直る」


 自分が何を言おうとしていたか、すっとんだ。


「あっ……そう? 早くね?」


 辛うじて出たのは、そんな疑問。それに、貴虎は首を振って答えた。


「前のベースみたいに、中身がぶっ壊れてなかったからな。状態が良かった。ただそれだけだ」


 ぶっきらぼうにそう答えられると、そんな気がしてくる。ただ、それにしても早すぎないか、と、そう思っていると、貴虎の言葉が続いた。


「……それで、次は?」


 言葉の意図がわからずきょとんとしていると、うんざりしたようなため息と共に、だ、か、ら。と言って繰り返す。


「次、直すもんねぇのかよ」


 その要求が、なんだか嬉しいやら、しめしめと思うやら、なんだか気分が浮ついてしまったが、いや、しかし。考え込んで、逆に貴虎は聞き返す。


「キーボードとドラム、ある?」


 はぁ、とその突然の質問に眉を顰めるが、少しして介は考え始める。


「……ドラムはたぶん、ある。借りられもすると思う。ただ、キーボード?」


 訝し気に尋ねられて、慌てて訂正する。


「電子ピアノだ。シンセとか、色々言われるけど、要はピアノの鍵盤だけの軽いヤツ」


「なら、うちの店にあるかも」


「そっか。なら、大丈夫かもな」


 表情がほぐれる貴虎とは対照的に、介は少しつまらなそうな顔をした。しかし、それに貴虎は気づかず、話を続ける。


「今、金渡すからさ、とっといてくんない?」


「……金はねーんじゃねーのか」


「へへ。生まれて初めて貰った、ママからの《《おこづかい》》だぜ」


「キモ。……その荷物は?」


 貴虎の膝の上に置いてある、パンパンのビニール袋を介は顎で示す。


「これ? 素人向けの教本と、ピック、シールド……。あと、安く買えた中古のエフェクターとか」


「結局、経験者探しは諦めたのか」


 介のその発言に、半ば痛々しい過去を振り返る気持ちで、貴虎は頷いて、肩を落とす。


「あぁ……。まぁ、まだ間に合うと思って」


「響魂祭まであと一か月ちょいか」


「あとはリン次第、だな」


 だが、そう言葉にする貴虎に、介は以前までの焦燥感を感じなかった。胸から湧き上がる変な期待感に蓋をしつつ、話を変える。


「リン、ね。……アイツ、ホントにいけんのか?」


「あれ、心配?」


 ん。と小さく言って、頷く。


「見た感じ俺らよりも年下だろ。それが、本人の意志表示があやふやだとは言え、作曲も、演奏するかどうかも、全部あいつ次第。色々手伝ったのは俺らの意志だけど……、なんか、大丈夫なのか」


 そう言ったあと、なんだか自分が妙にリンに肩入れしているような言い方になったのがなんだか恥ずかしくて、介はバスの窓へ視線を逃がす。

 しばらく、気まずい沈黙が流れた。バスが停留所に止まって、扉が開く。


「……アイツに、色々と教えている時、さ」


 先に口を開いたのは貴虎だった。


「聞かれたよ。自分は居ても良いのか、そう聞かれた」


「……結局逃げたんだろ? 聞いたぜ」


 はん。と、介が呆れたように顔をしかめた。その反応に、当然だ。と同意しながらも、いたたまれなくなって肩を竦めて、話を続ける。


「悪い事した。ホント。これに関しちゃマジで反省してる。……そんで、そっから時間が経って、まぁ、アイツの先生の考えは直接分からなくても、教える側の立場なら、ちょっとは分ったかもしれねぇんだ」


 だから、と、息を継ぐ。


「それを教えて、それでもダメだったら、オレもしっかり諦めようと思う。前に、お前にそうさせたみたいに」


 バスの扉が閉まった。しばらく、二人はバスに揺られていた。無言の間が続いたが、やがて介が口を開いた。


「まず、俺はまだ諦めてねぇ。これは、ただの療養中の暇つぶしだ。また走れるようになって、まだサッカーが好きだって分かったら、もう一度かじりついてやる。

 ……でも、もしそうなったら」


 介は笑った。本人でも気づかぬうちに、その笑みに多少の寂しさを抱えながら。


「暇になっちまうな。また」



 この公園に足を運ぶのは、いつぶりだろうか。

 いつぞや、八鶴と出会った簡素な公園で、ただ一人、リンはベンチに腰掛けて時間を過ごしていた。

 夏の光が、緑になった木々の葉を照らして、細々に地面に落ちた光が風と共に揺れる。葉の擦れる音、鳥のさえずり、遠くに聞こえる車の音、自分の呼吸以外は、何も聞こえない。

 驚くほど静かで、ただただ淡々と時間だけが流れている。懐かしい。ふと、リンは久しくなったその感覚を拾い上げた。何もせず、どこにもいれず、ただただ膝を抱えて、公園で時間が過ぎるのを待っていた日々を思い出した。

 連れてこられた家は広かった。けれど、自分の部屋はそこには無かった。自分の物など何一つとして持っていなかった。そこはただ、寝るためだけの場所だった。何もないのに、家にも居れない休みの日が苦痛だった。だからと言って、学校に自分の居場所があるわけでもなかった。


(忘れてたなー……。この感覚)


 自分だけを置いていって、他の全てが過ぎ去っていく、そんな感覚。ただ隣には、骨を噛むような、寂しさだけがある。

 それを忘れられていたのは、これまでずっと、自分の傍に誰かが居たからだ。


(一体どうしちまったんだよ……。龍樹)


 考えるのが嫌になって、リンはギターケースに入っている楽譜に手を伸ばした。終わらずに途切れていた楽譜は、また自分の筆跡で続きが書かれて、しかし、それもまた途中で終わっている。

 楽譜が読めるようになるたびに、あの人との日々を思い出した。自分に示してくれた全てが、そこに書かれていた。でも、あの人は突然いなくなった。ただ、この楽譜とギターをそこに残して。

 それが、拒絶なのか、それとも何か理由があるのか、それがわらかなくて、また自分の居場所に確信が持てなくなる。


(これが、ギター一本で弾けて、分かったのなら)


 あの人の真意も分かるのだろうか。

 ギターは、この楽譜の、曲の構成の、四分の一。ベースも、キーボードも、ドラムも、分からない。読み方は習ったけれど、音色は未だに浮かばない。

 分からないことだらけだ。……本当は、分かりたくないことなのかもしれない。


(知るか。そんなの……)


 投げやりに楽譜をケースに仕舞った。

 誰も居ない、ただただ静寂の満ちる公園。つい、うとうとした。


 狭いアパートの一室で、母と一緒に暮らしていた。生まれた時から、ずっと二人きりだったような気がする。昔のことだ。自分が五歳くらいの時だろうか。もう、母の顔も、声も、手触りも、覚えちゃいない。

 ある日、母が忘れ物を取りに行くと言って、それっきり帰ってこなくなった。数日間、そこで一人で過ごした。次に、自分の家を訪ねてきたのは、母ではなかった。


 自分を引き取ったのは、母の妹を名乗る人。そこには、彼女の夫と、自分の三歳年上の女の子がいた。

 最初の方は、食事が出ていた、ような気がする。いつからそれが、家族の物と異なるようになって、最後には一枚だけの紙幣になったのか、きっかけは覚えていないし、分からない。

 ただ、この人と自分は家族じゃないんだなと思った。自分を引き取ったのは、何かの気まぐれか義務感のようなもので、それが擦り切れたのなら、納得がいく。


 学校には行かせてもらえた。けれど、何をしても、家の人か、先生か、同級生に嫌な顔をされた。私への当てつけなのかと言われた。あなたと家の人の扱いに困っていると言われた。知ってない、持ってないなんて変なのと言われた。

 学校への帰り道、余計に遠回りをして帰った。早く帰った所で、意味なんてないと分かっていた。

 坂を下ってしばらく歩くと、広い公園にたどり着く。その公園の中、小高い丘のようなところの頂上。街並みを一望できる場所に、あの人は居た。


「……どうしたの?」


 ギターの音が、響いていた。



「リン……! おい、リン!」


 体が揺すられている。眠い。……眠い?


「あ……れ」


「起きれるか!? しっかりしろ!」


 寝起きで腑抜けた体を起こす。周囲の光はいつの間にかオレンジ色に満ちていて、一目で、自分は寝ていたのだと理解した。


「よかった……」


「や、つる……? ……八鶴!?」


 自分で考えて、自分で理解して、思わず飛び上がる。しまった。寝ていたのか。

 はっと、膝立ちになって自分の顔を覗き込む八鶴と目が合った。血の気の引いた顔の、けれど乱れた呼吸が、彼がどれくらい自分が公園で寝ていることに衝撃を受けていたのかを物語っていた。


「ごっ、ごめん! 俺、寝てた……!」


「みたいだな……。本当に、良かった……」


 だが、八鶴の慌てようは、単に公園で寝ている自分を目撃しただけでは説明がつかないほどのものであった。


「なっ、何が……」


 と、そう八鶴に聞こうとして、ヴーッ、と、ポケットの中に入っていたスマホが鳴った。


「出てやれ。貴虎だ」


「あ、あぁ……」


 見たことのない番号からの電話だったが、そう言われて緑色のボタンをタップする。スピーカーモードにして、少し待つ。すると、電話越しではあるが、聞きなれた声が聞こえてくる。


「あーあー、もしもしー? リン? 龍樹? どっちだー?」


「えっと……、俺。リン、だけど……」


「おっ、ビンゴ―。だったら、一旦顔つき合わせて話した方が早そうだな。どこいるー?」


 困って顔を上げると、八鶴が代わりに答えた。


「第三公園だ。コンビニで落ち合おう。詳しい道は介に聞いてくれ」


「あいよー。じゃまた」


 そうして、電話が終わる。リンは八鶴に、何が起こっているのか色々尋ねようとして、顔を上げて、言葉を失った。


「…………」


 怒っている。あの八鶴が、明らかに怒っている。表情はいつものように落ち着ているが、目が、明らかに据わって、じっとリンを見下ろしている。


「そっ、その……」


 ごめんなさい? いや、でも、それをそのまま言うのは……、と、言葉に詰まっていると、ゆっくりと八鶴が口を開いた。


「ここに来る前は……、いつも、そうしていたのか?」


「えっ……、あ、まぁ? 寝るのはそんなにないけど……」


「……異変が起きた時、おれの所へ行こうとは?」


 質問の意図が分からないまま、首を傾げてリンはそのまま答えた。


「悪いかな……、って思って。今日、平日だろ? 学校の行き方も分かんねぇし、行った所で迷惑になるだろうし……」


「そうか……」


 すると、八鶴は小さくため息をついた後、怒った顔のまま、すくっと立ってそのまま背を向けてしまった。

 なにか、まずい事を言ってしまったのか。リンは目を白黒させながら、ギターを持って立ち上がる。


「リン」


 そのまま、八鶴はリンにそう呼び掛けて、言った。


「困ったら、誰でもいい。おれじゃなくても良い。見ず知らずの人でも良いから、助けを求めなさい。タイミングが悪ければ、もっと酷いことになっていたはずだ」


「え、いや……、でも――」


 反論しようとするリンにうむを言わさず、そのまま八鶴は続けた。


「困ったときに、適切に他人の力に頼ることができる……。おれも勉強中だが、それだって立派な事のはずだ。次からは、そうしなさい」


「はい……」


 リンはすっかりしおれてしまった。蚊の鳴くような声でそう返事をすると、八鶴は振り返って、表情を緩めて言った。


「とにかく、何もなくてよかった……。みんなと合流しよう」


 言われるがまま、八鶴についてリンは歩いた。

 歩いていると、しばらくして、みたことのある道に出た。以前、八鶴と共にコンビニへと向かったあの道だ。あの時とは違って、日が伸びたからか、まだまだ夕陽は沈みそうにない。そして、予想通り、例のコンビニへたどり着いた。

 普段なら、人気も車もないだだっぴろい駐車場があるだけだが、今回は違った。


「おっ、きたきたー」


 ジュースを片手に持ちながら、そうこちらへ手を振る貴虎と、車止めに腰かけている介がそこで待っていた。


「……ひとまず、合流は叶ったな」


 ようやく、肩の荷が下りたのか、八鶴は胸をなでおろすように息を吐いた。


「しっかし、エライことになったなー。リン、お前もしかして今日一日中外にいたのか?」


 八鶴が代わりに答える。


「正解。本当に……、肝が冷えた」


「ホントにお前ら別系統で迷惑だな。コイツ、学校前で大騒ぎしやがった」


「パンポロピロピロ~?」


「うぜぇ!」


 三人の会話と、これまでの経緯がさっぱり分からないリンがまた目を白黒させていると、八鶴が小さく咳ばらいをした。口喧嘩をしていた貴虎と介も、それで一旦行動を止める。


「まず。話を整理しないか?」


 はぁ、とひとつため息をついて、貴虎が口を開いた。


「リン。お前もうすうす気づいてっと思うけど、オレたち全員、龍樹のトコに行けなくなってる。……まぁ、そもそも論、龍樹のトコへの行き方がそれぞれアバウトすぎってのもある」


 うんざりしたように後頭部を掻きながらそう話す貴虎に変わって、今度は介が口を開いた。


「俺や先輩、コイツも含めて全員が、不思議に思わなかったのが不思議。という結論に至った。……正直、自分自身がそんな体験に巻き込まれるとは思わなかったが。《《何かにつままれた》》みたいに、全員あっさり騙されて、不思議さを受け入れていた。掘り起こせば何でも見つかる海岸、見たことのない森、ここにはない河川敷、存在しない電車……。

 それで、リン。お前を探しながら、先輩は調べ物をしてくれた」


 あぁ。と八鶴が返事をして、話を引き継いだ。


「まねかれさまの話を色々と調べておいたんだ。だが、一度響の外へ出て行ったまねかれさまが、もう一度戻ってくるなんて話はなかった。一方で、何の契機もなしに突然放り出されるなんて話もなかった。

 ……そこで、なんだがリン」


 三人が、リンに尋ねるよりも早く、リンは口を開いて答えていた。ぎゅっと、ギターケースの肩帯を握りしめて、三人をまっすぐ見据えた。


「会いにいく。龍樹に」


 三人は、少し意外そうに互いに目を見合わせた後、それぞれ肩を竦めて笑った。


「ま、お前ならそーゆーと思ったよ。こんな中途半端、オレも願い下げだ」


 貴虎がそう言って、ニッと笑った。


「なら、一緒に行こうぜ。ちょうど時間は夕暮れ時だ」


〈続く〉

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