73. 瀕死の忠臣
ビィィィィン──。
気絶したノアを、ひとまずレジナルドの部屋に運んで、二人で様子を見ていた時だった。
ビィィィィン──!
空気が震えた。
いや、まさに鳴動ともいうべき響きだった。
「な、なに? なんなの?」
まるで全身がシェイクされそう。う。これはきつい。
でも地震じゃないみたい。部屋のものは何も落ちてこなかった。
ノアのほうも見たけど、彼が起きる気配はなかった。
「これは……アラスターの力だ」
「ええっ!」
確かに、振動を操る力があるアラスターがやったことなら、腑に落ちる。私はレジナルドの言葉に頷いた。
でも、こんな夜中にいったいなんなのだろう。
まるでなりふり構っていない、でも確実に私達に緊急で何かを伝えたいかのような……。
「レジナルド。アラスターさんに何かあったのかな」
「……こいつはいつも、音で俺に伝達してくる。なのに、音はなく振動しただけ。これは異常だ」
「じゃあ、捜しにいこう! なにか私達に伝えたいことがあるのかも!」
でも、伝達ができなくて振動だけなんて。
レジナルドの言う通り、異常事態なら、アラスターさんは今、大変なことになっているんじゃないの?
簡易結界を張っている部屋に、さらにレジナルドが二重結界を張ってから、私達は外へ出た。私には方角がよくわからなかったけど、レジナルドが先導してくれた。
外には誰もいない。
レジナルドの言うとおり、あれはアラスターの力によるものなんだと思う。
でも、普通なら見回りの先生や警備員がいるはずなのに、誰ともすれ違わない。
裏庭で、レジナルドが立ち止まった。
どうしたの、と聞くまでもなかった。
「アラスターさん……!」
そこには、アラスターが仰向けに倒れていた。しかも、耳や口から血を流していた。
レジナルドと一緒に駆け寄る。
私が起こそうとするのを制止したレジナルドが、そっとアラスターの口元に手をやった。
「安心しろ、死んではいない」
「でも……っ」
「ああ、これは見た目以上に重傷だな……俺の部屋に運ぶ」
レジナルドの部屋のベッドではノアが寝ている。
だから、私の部屋にと思ったけど、すぐに考えを改めた。できるだけ今は、ノアも含めて一緒にいるほうがいい。
レジナルドが、まるで米俵のようにアラスターを肩に担いだ。
アラスターは細身だけど、成人男性だ。
それを軽々と持ち上げるのだから、私なんてひょろひょろもいいところかも。
レジナルドがアラスターをソファーに寝かせるあいだに、私は部屋から毛布を持っていった。
まず耳と口元の血を吹いて、手当をする。
大きな外傷はないけど、吐血しているということは、やっぱり内臓にダメージがいっているのかも。
朝になったら医者を連れてこないと。
「う……ぅ、あ……わが、きみ」
しばらくして、アラスターが唇を震わせた。
「アラスターさん、もう大丈夫だよ。ここはレジナルドの部屋だよ」
声をかけると、しばらく呻いたのち、ゆっくりとアラスターが瞼を僅かに開いた。
「……マリ……アンヌ、さま」
「そうだよ。もうちょっと寝てて大丈夫、朝になったらお医者様を」
「アラスター、何があった」
私の言葉を遮るように、レジナルドが訊ねる。すると、アラスターの目がカッと開いた。
「っ、わっ、き、み」
「レジナルド! アラスターさんに無理させちゃだめだよ!」
「伝えろ。簡潔でいい。どうした、いつもは嫌というほど音で伝えてきただろう」
パクパクと、アラスターが必死で口を動かす。だけど声はまともに出ていない。
すると、レジナルドが片耳を手で押さえた。
「……マリアンヌ、耳を澄ませろ」
「え……こう?」
レジナルドは押さえているけど、私はそっと耳に手を添えた。
すると、とても小さな声が聞こえてきた──アラスターの声だ。
唇は動いていない。鼓膜が、微かに震えている。
ごちゅうい、ください。
へいかが、もうおひとり、そんざいします。
どうか、ごちゅういを……。




