9.シングルベッドで二人
月の昇る時間、外灯の無い村の中は漆黒の闇に包まれる。
家から漏れる明かりだけが光っている。
「いただきます」
食卓に並ぶのはハヅキの作った夕食。
「お昼に作ろうとしてたカツ丼です」
丼の上、きつね色に揚げられたカツによく出汁が染み込むように煮てある。
カツを包むのは黄金色に輝いている卵。カツを一切れ口に頬張ると、柔らかい肉とよく効いたカツオ出汁がマッチしていて、本能が米を求める。
「そんなに急いで食べなくてもカツ丼は逃げませんよ」
「びっくりするほど美味しいよ」
「嬉しいです」
……。
…………。
というところまでは覚えているのだが。
「なんで同じ布団で寝てるの???」
「当分はウチに住んでくださいって言ったじゃないですか」
「別の布団で良くない?」
「……?」
「聞こえてないふりやめて」
「え?」
「布団、クローゼットにないの?」
「無いです。捨てました」
「何で捨てちゃうの……」
仰向けで二人並んでシングルベッドの上に寝ている謎の状況。
ハヅキは横向きに体勢を変えた。
「お兄さんの身体暖かいです」
コタツの中の猫のように丸くなるハヅキは、俺の横腹に身体を寄せる。
「抱き枕みたいで気持ちいいです。ちょっとゴツゴツしてますけど」
胸の鼓動が跳ね上がる。何興奮してんだ俺。相手は幼女だぞ。捕まりたいのか。呼吸を整え冷静に。心を静める。
「リンから聞いたよ、外に出る方法。俺が選ばなきゃいけないって、だから黙ってたんだね。フェアじゃないって」
こくり、と頷くハヅキ。
「正直選ぶとか選ばないとかわからないけど、真剣に考えなきゃいけないことなんだね」
ハヅキは申し訳なさそうに「はい」と返す。
「他にも何人かいるの?」
「はい。アタシとリンちゃん以外に三人います」
「明日会ってくるか」
全員と会わないといけない気がしていた。
ハヅキは不安げな表情を浮かべるが、誰かを選ばなきゃいけないというのがルールというなら、全員には会っておいたほうがいいだろう。
「それと、この村の人は年を取らないって聞いたけど、何年くらい年との差があるの?」
「アタシは多分二年くらい? リンちゃんは結構長い間います」
「でも十歳なんだ」
「精神も身体も歳を取りません。正直年月もどれくらい経っているか、自分ではあまり覚えてません」
「不老不死てこと?」
「そうなります
「じゃあ、この村にずっといたらずっと生きてられるじゃん」
「理論上はそうなのですが……」
なんだか言いづらそうに顔を曇らせる。
「この村の中で長い間、それこそ寿命を超えるような年月を暮らせる人はいません」
「なんで?」
「考えてもみてください。いつも選ばれない、自分だけ残ったまま、先に出て行った子が年をとって帰ってくる。そんな状況耐えられますか?」
「耐えれるか耐えれないか、っていうのは?」
「アタシの口からはとても言えません」
どの世界でも、自ら命を断つという行為は行われるのだな、と胸の奥の方がキュっとするような思いが駆け巡る。
「じゃあ無理やり外に出ればいいんじゃ」
「それもできません」
「なんで? 逃げちゃえばいいじゃん」
「森があります」
「村を囲う森?」
村の外周は鬱蒼とした森で囲われている。
森の近くまでは見たことがないが、その様子は遠目でもわかる。
「はい、あそこには非常に凶暴なモンスターがいます
「そんなモンスター、仮に俺が出会っても無理だよ?」
「大丈夫です。お兄さんみたいな人は、村を出ると勇者と呼ばれる人を凌ぐパワーを授かるのです!」
「ご都合主義だなぁ」
「それと誘拐されて人身売買で売られちゃうって話も」
「ファンタジーとリアルの温度差凄すぎない?」
「まあ、この世界なんてリアルとファンタジーの狭間にあるようなもんですからね」
「それ、ハヅキが言うの」
「えへへ」
笑ってごまかす。古今東西、万国共通。
どんな世界でも笑えばごまかせる。
「話しすぎて、疲れちゃいましたね」
「そうだね」
「おやすみなさい」
「おやすみ」




