第20話 投稿画像
捜査会議は続く。
「つまり、久成さんが亡くなったと思われた事故は、有理さんとその浮気相手が死亡した事故。久成さんは、その事故で自分が死亡したことにすることで、多額の借金を有耶無耶にし、としゑさんたちに生命保険金を受け渡した。そういうことか……」
与野巡査長が一人で納得しているようだ。この人、もしかしてこんな風だから、昇進できなくて巡査長のままなんじゃ……。いや、余計なことを考えるのはやめよう。
「だが、なぜ葉陽君と虎君、そして久成さんが殺害されなければならないのか……。としゑさんが言う、狙われているというのは、誰からなのか……」
悠夏は右手を挙げたが、与野巡査長は気付かない。長考に入っている。自分の世界で考えている。後ろから、
「与野巡査長を待ってたら、いつまで経っても進まないから」
と、小声で入曽巡査が後押しする。
悠夏は立ち上がり、自分の警察手帳を見ながら報告する。
「警視庁捜査一課ならびに、特課から報告します。サイバーセキュリティ課に協力のもと、葉陽君が投稿していた動画や、葉陽君とそのクラスメイトがSNSに投稿していた画像を調べました。それらから、学校や地域を特定することは可能であり、最終的に住所特定は可能とのことです。ただ、特定するには学校近辺や葉陽君の帰宅ルートに、犯人が出没している可能性が高いと考えられます。ただ、近辺の監視カメラを調査するにしても、犯人像がまだ分からない状況で、捜索は困難かと」
「ん? 警視庁は、犯人にある程度目星が付いているのか?」
与野巡査長が食いついてきた。この人のキャラ、段々分からなくなってきた。ちなみに、借金取りが犯人である可能性は、無関係であると先週の時点で判明したとのことだ。
「警視庁捜査一課ならびに、特課は、葉陽君のSNSを見ていた人物が犯人だと推測しています」
会議室がざわつく。そりゃそうだ。SNSを見ていた人なんて、特定できない。SNSに登録しなくても見えるのだから。
「1枚の画像をご覧ください」
悠夏は、プロジェクターで1枚の写真を見せる。この写真は、3日前……
*
「全然、手がかりが見つからないですね……」
悠夏は葉陽君が投稿した動画や写真を見るが、事件に関わりそうなことが見つからず、座ったまま背伸びする。
「サイバーセキュリティ課からは、まだ調査中ですか?」
と、鐃警もパソコンを操作しながら、葉陽君のSNSを遡る。
「メールはまだ来てないけど、今週中には結果が分かるって言ってたから、期待して待ってましょう」
「でも、自分が死んだ後に、こんなにもSNSや投稿動画を細部まで調べられたくないですね……」
「まぁ、ネットにアップしてるだけ、それぐらいは覚悟しないと……。結構、実名でやってる人多いですからね。葉陽君は違うみたいですが……」
「確かに、セキュリティ意識かなり高いですよね。本人の投稿からも、それはよく分かるんですが、如何せん、クラスメイトは実名だったり、明日の予定とかを全世界に発信してますよ」
「警部、クラスメイトの投稿ってどこまで見ました?」
「無理。1日に数百投稿してる人がいて、無理。よくそんなにも書くことあるなって……。ただ、気になったのは、サーバーにコピーしてるんで、それを見てもらえますか?」
「え……、あの遅いファイルサーバー……?」
悠夏は、デスクのそばで放熱してるファイルサーバーを見る。ボックスティッシュ2個分ぐらいのサイズだ。
「えぇ、いらないからって他の課からもらったものの……。あのファイルサーバー、最新のパソコンだとファイルシステムの相性が最悪で、評価低いんですよ……。一世代前なら、問題ないんですが……」
さて、ファイルサーバーの話はそれくらいにして、本題へ。鐃警が気になった写真や画像は15枚ほどあるが、そのなかで
「この3枚です。いずれも、クラスメイトがSNSに投稿していた写真です」
1枚目は、葉陽君やクラスメイト4人が手を繋いでジャンプしている写真だ。撮影場所は、葉陽君の家の近くだろうか。ジャンプして、見上げるような構図になっており、空が多くの範囲を占めている。鐃警が写真の右下の方をズームすると、家が奥の方に映っている。
「葉陽君の自宅から、300メートルくらい離れたところで撮った写真ですかね。自宅の前にいる人影。虎君やとしゑさんじゃなさそうですが……」
言われてみれば、そんな気もするが
「ここまでズームすると、流石に画質が落ちて、人なのかも曖昧ですね……。というか、もしこの影が長男なら、近所の人が証言してるはずですよね……」
「だから、気のせいだと思うんですけどね。先日埼玉県警から、長男が事故死していない可能性が出てきたって報告を受けて、もしかしてって思ったんですが……」
このときは、まだ事故死したのが、浮気相手だということまで分かっていなかった。
「次の写真ですが」
鐃警が2枚目を開く。今度は、文化祭の写真だ。
「あ、かわいい」
と、悠夏が第一印象で言った。最近有名なゲームのキャラだ。とあるソーシャルゲームが原作であり、アニメ化もヒットした作品であるが、残念ながら、知ってるだけで見たことはない。5人がそれぞれキャラクターに扮装している。早い話が、コスプレである。衣装は手作りらしい。
「これ、去年の文化祭の写真です。真ん中にいるのが葉陽君です」
「え? この女の子が?」
「ちなみに、この5人の中で男子2人いますよ。本文に書いてましたから」
「青春してるなぁ」
多分、一番右の子だろう。2人ともかなり顔が赤くなっている。ほかの3人は、気にしてないようだ。普通に肩組んでる。
「で、問題はこれの返信についていた写真で」
鐃警が3枚目の写真を開く。葉陽君の部屋だ。クラスメイトの女子が葉陽君の採寸をしている。写真だと、胴回りを採寸している。葉陽君はカメラに背中を向け、振り返っているがカメラの方は見ていない。
「文化祭の3週間前です。放課後で、すでに日没してます。それぞれ採寸したときの写真があったんですが、部屋って反射する物がいろいろありますよね?」
鏡や窓、真っ暗なモニターなど、思わぬ物が映っている可能性はある。
「あとでサイバーセキュリティ課にお願いしようと思うんですけど」
そう言って、鐃警は窓を拡大すると、葉陽君と採寸している女子はもちろん、撮影者も映っているように見える。さらに、廊下の扉が開いているのか、背の高い人が映っているように見える。
「画像解析で、もう少し鮮明になれば、クラスメイトやとしゑさんじゃないと判明するかなって思うんですが……。今の段階だと、断定できないです」
*
「写真は、葉陽君の部屋で文化祭の準備で採寸してる様子を撮影した物です。この写真の窓に注目し、画像解析した結果、知っている人が見れば、久成さんに見えなくもありません。残念ながら、久成さんだと断定できるような状態まで鮮明化は出来なかったのですが……」
「確かに、証拠としては微妙だな……」
これを証拠として使うなら、確かに曖昧だろう。でも、
「ただ、これから分かることとしては、クラスメイトが知っている可能性が出てきました。この2人に聴取できれば、もしかすると分かるかもしれません」
与野巡査長は、全員に対して
「誰か、この2人を聴取した者は?」
すると、何人か手が挙がったけれども、葉陽君と虎君に関して聴取しただけで、久成さんについてはノータッチだった。
でも、犯人がまだ見えてこない……
To be continued…
画像の鮮明化って限界があると思われ、某科学捜査を巧みに使うドラマ並の解析は出来ず、ここでは、なんとなく分かるけれど、証拠としては不十分という、厳しめな展開です。次回、解決篇へ?
ところで、榊原警部の登場回数が減りましたね。