第21話 捜査線上の外
捜査会議後、2人の聴取から大きく進展する。葉陽君からは、お兄さんは亡くなったって聞いたが、1回だけ廊下で鉢合わせになったことがあり、採寸の時も廊下から足音が聞こえ、葉陽君に確認したところ、親戚の人としか答えてくれなかったらしい。久成さんの写真を見せたところ、2人は間違いないと言い、これが有力な証言となった。ただ、結局、まだ犯人が分からない。
休憩室で、悠夏はお茶を飲みながら、鐃警と事件を整理していると、蒲生警部補が珈琲を自販機で買い
「捜査は進展しているが、犯人がまだ分からないな」
「そうですね。事件発生時の目撃証言が出てこないですし、犯人以外のことは結構分かってきているんですが……」
「そっちのロボット警部さんは?」
と言われると、鐃警は首を横に振り、
「ところで、鑑識課から新しい情報って……」
「まだだな」
「やっぱり重要なのは、葉陽君と虎君を殺害した動機ですかね……。久成さんの指紋を凶器に付けた理由……。としゑさんが、自分が狙われていると確信している理由……。もしかして、犯人が意外と身近にいるからこそ話せないのでは?」
「警部、具体的にはどういうことですか?」
「例えば……、久成さんが実は生きていることを知って、それを隠している家族を許せなかった人物ですかね」
「その可能性は高いんですが、それに当てはまるような人が……」
3人が「うーん」と唸っていると、休憩室に入曽巡査が駆け込み
「鑑識課から、新しい情報が出ました」
一行は、急いで捜査会議の会議室へ。会議室では、すでに岩槻鑑識が、鑑識結果を報告している。
「よって、被害者の衣服から発見された指紋は、現在のところ一致する人物がいません。次に、髪の毛に関してですが、こちらも一致する人物がおらず、捜査線上に挙がっている人物以外の犯行が考えられます。現在、データベースで照合を行い」
すると、会議室の扉が開き、別の鑑識さんが「出ました」と岩槻鑑識に資料を渡す。岩槻鑑識は、その資料を見て
「過去の事件関係者の中に、一致した人物がいます。有理さんと浮気相手が死亡した、例の事故で、通報者の室賀 粗菜。事件捜査時に、指紋を採取しており、それと一致しました」
それを聞き、捜査員は室賀さんを最重要参考人として、捜査開始。すると、これまで滞っていたのが嘘のように、どんどんと新しい情報が出てくる。突破口さえ見つかれば、解決しそうだ。
24日。捜査会議。蒲生警部補が捜査状況を報告する。
「室賀最重要参考人に関してですが、勤務先は先月退職しており、当時の同僚や上司に聞き込みを行った結果、久成さんの元恋人で、久成さんが借金した原因でもあります。要は、大金を支払って、別れたあとに付きまとわないでくれと」
次に、入曽巡査が報告する。
「当時の事故に関しては、再度調べましたが事件性は無く、本当に操作ミスによる事故でした。殺人事件発生前、学校などの防犯カメラに、室賀さんが映っており、おそらく特課の推測通りかと。SNSの画像で、久成さんが生きていることを知り、自宅を特定。事件時の状況は推測ですが、室賀さんが葉陽君たちを脅迫して、先に殺害したのか、久成さんを睡眠薬などで眠らして、邪魔になった葉陽君たちを後から殺害したのかと。また、足取りについてですが、ここ数日、この警察署の前を通っていることが分かっています」
報告を聞いた、与野巡査長は、
「もしや、室賀被疑者は、としゑさんも狙っているのだろうか。保護を続けて、正解だったな。ただ、後半は不正受給の容疑で保護とは言えないが……」
自宅や久成さんの携帯電話からは、室賀最重要参考人の情報が一切出なかった。
「本件は、室賀最重要参考人……、いや、室賀被疑者の怨恨や過剰なストーカーによる連続殺人が疑われる。直ちに、被疑者を確保だ」
捜査員が、一斉に動き出す。どうやら、犯人を無事逮捕できそうだ。
2月26日。悠夏達は、特課でテレビをつけて、夕方のニュースを見ている。トップニュースではなく、まだ流れていないみたいだ。
「――依然として、島の崩落が続いており、国土交通省と海上保安庁の発表では、三重県の龍淵島近海の警戒レベルは、しばらく継続する見込みとのことです。続いてのニュースです。2月8日に自宅で濱千代 葉陽君と虎君が死亡し、22日に杉林で死亡した久成さんが見つかった事件で、今日未明、埼玉県北武蔵埼玉警察署の近辺を歩いていた室賀 粗菜容疑者が、殺人容疑で逮捕されました。県警によると、室賀容疑者は、久成さんの元恋人で、別れた後も過剰なストーカー行為をし、犯行に及んだとのことです。聴取の際、室賀容疑者は、『私と別れることが許せなかった。どんなにお金を積まれようが、自分だけが不幸になるなら、いっその事、殺して永遠の存在にしてやりたかった』などと証言しており、容疑を認めているとのことです。また、久成さんは、かつて事故死したと思われていましたが、自身の死亡を偽装していたとのことで、現在そちらについても捜査を行っているとのことです。CMの後は、お天気です」
そのニュースが終わると、コマーシャルになった。ちなみに、テレビや新聞だと、被疑者と被害者が似ているため、大抵の場合は容疑者という。悠夏は、最寄りの弁当屋で購入した夕飯を食べながら、
「ニュースで聞いても、証言の部分は恐ろしいですね……」
「確かに調書も、我々では考えられないような思考で、あの与野巡査長が、言葉を詰まらせるぐらいですから……」
「ずっと言いたかったんですが、与野巡査長って、捜査一課じゃないですよね……?」
悠夏は、本人の前では言えず、ずっと引っかかっていたことを鐃警に言うと、
「部署関係なく、突っかかる人ぐらい、たまにいますよ。ほら、ドラマで出てくるでしょ。そういう人。『なんで警部が、こんな所にいるんですか』って、刑事が言った後、『偶然通りかかったんですよ』とか『そんなことより、こちらを見てください』って言いながら、鑑識作業そっちのけで、指摘する人」
「なんか、それ同じドラマの気が……」
いいのか、それで。
同日。警視庁刑事部捜査一課。
「聞きましたよ~。榊原警部と特課が協力した事件、解決したらしいですね」
藍川巡査は、また榊原警部にちょっかいを出していた。榊原警部は、真剣な眼差しで、捜査資料とパソコンを照らし合わせ、無反応。藍川巡査は
「でも、榊原警部は、途中で捜査から外れたって聞きましたけど、なんでですか?」
「ちょっと、静かにしてくれないか。今、調べ事をしてるんだから」
榊原警部に怒られた藍川巡査は、パソコンを横から覗く。
「最近、子どもが関わる事件資料ばかり見てますけど、何を調べてるんですか?」
「あのなぁ……」
榊原警部は頭を掻き、
「分かった。藍川。お前の受け持つ事件を終わらしたら、教えてやる」
「また、嘘ばっかり。この前も、教えてもらえなかったんですから。同じ手は2度も引っかかりませんよ」
「すでに、3回引っかかってるけどな。ほら、また長谷警部補に呼ばれてるぞ」
榊原警部は、藍川巡査が立ち去った後、パソコンで写真を開く。
(このファイルサーバー、やけに重いな)
と思いつつ、ロードが終わり、パスワードを入力する。認証後に表示された写真は、文化祭で、葉陽君を含む5人が写った写真である。有名な少女キャラに扮装した5人だが、榊原警部が注目するのは、一番左の女の子である。
(誘拐か家出か。SNSに名前が出ているのに、2月22日を境に、行方知れず。エルシーズではと考えたが、葉陽君の件で担任の先生と話した際、その子について聞いたら、先生は憶えていた。ならば、事件化すべきか?)
考えていると、田口警視正からメールが届き、事件化を許可するという一文だけが書かれていた。行方不明事件として、翌日から一課として捜査を行うことになった。
To be continued…
昨年12月~4月にかけて連載した『龍淵島の財宝』の話が少しだけ出てますが、次回も同じく少しだけ話に出てきます。言葉だけですけど。本編には特には絡まないので、大丈夫かと。




