ようやく終わり。
柔らかな陽の光を受けて、薄桃色の髪がキラキラと輝く。
手元の本の文字を追っている為その目は伏せられており、あの若菜色の瞳は見えない。
しかし飽きもせずにじっと彼女を見つめていると、俺の視線に気づいた彼女がこちらを見た。
「なんですの?ジル様。」
視線が合うと、優し気に目を細め表情を緩めたアイリーンがほほ笑む。
そっと腕を広げて彼女の名前を呼ぶ。
「アイリーン。」
一瞬きょとんとした表情をしたものの、俺の意図することが分かったのか少し頬を染めた。
本を置いて向かいのソファから立ち上がったアイリーンが俺と向き合うように膝に乗って抱き着いてくれる。
「アイリーン…………。愛してる。」
自分の腕の中に納まる愛しい女性に改めて愛を囁いた。
すると、くすくすとくすぐったそうに笑い声を漏らす。
「わたくしも、愛していますわ。」
一層甘い声で愛を囁くアイリーンに愛おしさが募る。
「今日はなんだか甘えん坊ですわね。」
「疲れてるんだ。」
「お疲れ様ですわ。全員の問題を解決したんですもの。ゆっくりしましょ?」
「…………長かったなぁ。」
「そうですわね。魔王討伐に行かれた時はどうしようかと思いましたわ!」
ああ、そういえばそんなこともあったな。
あの時はソフィアを妊娠していた時だ。
そう考えると、本当に長かった。
なんで俺が野郎のために気力を割かなければいけなかったのか。
まあ頑張ったおかげで友人たちは幸せになったのだから、そう考えるとよかったのかもしれない。
リーンハルトはリンラント王国の姫君と正式に婚約関係になり、リーンハルトの王太子としての勉強が終わり次第結婚するそうだ。
ギデオンは魔族との友好を築く中心人物として日々忙しく過ごしているらしい。
しかし忙しすぎてたまにマリアが俺にギデオンとなかなか会えないと愚痴を言いに来るようになった。
それをギデオンに伝えると焦って迎えに来るのだが、マリアはそれを楽しんでいる節がある。
マティアスはマルシベーラと現在まだ恋人関係だが、クロノスが虎視眈々とマルシベーラを狙っているので最近ついにマルシベーラにプロポーズし、婚約者としての立場をもぎ取ったらしい。
マティアスからの報告を受ける前に、なぜか俺に心を許すようになったクロノスに泣きつかれたのだ。
カールとヘレンはマーキス侯爵領で新しい生活を始めているはずだ。
まだ確認しに行ってはいないが、送られてくる手紙を見るかぎり幸せそうだ。
ぎゅっとアイリーンを抱きしめていると、ようやく自分が日常に帰って来れたきがする。
「そういえば、ミシェリアさんとテオドールさんのところに赤ちゃんができたそうですの!」
「やっとか!!」
思わずアイリーンの肩を掴んでそう叫んでしまった。
だってそうだろ?
散々、散々焦らされ続けてお預けを食らいまくっていた義兄、テオドールが!!
これはお祝いに何か送ってやらねばならない。
「う、うちの子と、同い年になるなんてちょっと楽しみですわね!」
俺の女神が顔を赤らめてそうのたまった。
一瞬アイリーンが何を言ったのかわからず思考が止まったが、その意味を理解して顔が緩む。
「次は、どっちだろうな。」
「ど、どっちがよろしんですの?」
「アイリーンとの子供なら、どっちでも。」
一度そっと口づけを交わす。
「愛してるよ、アイリーン。君と会えたことが俺にとって一番の幸福だと思っていた。でも、アイリーンのおかげでどんどん俺の人生は幸せになっていく。ありがとう。」
「そんなの、わたくしのセリフですわ……………。ずっと、ずっと捨てられると思っていましたもの。だから、学園のダンスパーティーであなた様に告白していただいた時、とても嬉しかったんですの。あなたと、ジルと一緒に慣れて幸せなのはわたくしの方ですわ。」
これから先、もしかしたらまたこの七面倒くさい乙女ゲーム事情に巻き込まれるかもしれない。
だとしても、アイリーンと子供たちがいるのなら、友人たちが幸せになるのなら、まあまた頑張ってもいいかもしれない。




